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2014年7月7日月曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第十五部






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Another War  ―もうひとつの戦争―




Another War  ―もうひとつの戦争―











1



アルアロリアは窓の外を見た。
信じられないくらいの、美しい景色の森が見える。
それでいて、この城のすぐそばは都心部のような未来型のシティが続いているのだ。
その不自然さにいまさら驚いた。
誰か庭師が手入れしているわけでもないだろうに、天念の大自然のような森が終わらないかのように続いている。
アルアロリアは絵本に出てくる、大昔の時代の森のようだと感じた。
いろいろな種類の鳥たちが絶えずさえずり、なごませてくれる。
よほど未開拓の山の中や自然の残る土地でないとありえないはずであった。
窓の周辺から写真で切り取るか、絵にしたらさまになるほど、偶然とは思えないように整っている木や緑だった。
だれか計算して画家がうまく描いた額にはいった絵が飾ってあるかのようだった。

アルアロリアはそれでいてテレビの画面も見た。

アルアロリアは侍女のマルジャーナとノヴィ=ゾルカの三人でテレビを時間つぶしと娯楽のためにみていた。

マルジャーナは舞踏と剣舞の達人で機転がきき、工夫の才があり、度胸があって立ちまわりのきく娘だった。
修練を積んだクレアの剣とも違う剣術を秘めている。

そのとき、アルアロリアの侍女のセテカが部屋にはいってきた。
セテカがいう。
「アルアロリア様。美の小箱というものが紙の上の論理上ではなく現実に現存するという話しです。なんでもとても美しくなれる力を持った魔法の箱だとか」
「美の小箱…」

セテカは色が黒色で(地球でいう黒人)、すらりと細いが、ボッキリおれそうな細さではなく、しなやかな細長い腕を持ち、ヴェールを室内でもつねに身につけて顔を隠していた。
まつげがものすごく長く、砂漠が近くにある国で生まれたのかと疑うようであった。知性的な美しさに恵まれ、もうひとりの侍女ノヴィ=ゾルカとも似ているが違う知識に長けている。

「…それはどういうものなの?教えてちょうだい」
「…ふたを開ければ、美の力を分けてもらえると伝わりますが、災禍の魔をはらんでおり、それが美の小箱の難点であると。また、手に入れるにしても途方もない難しさで、地獄の番犬やら竜やらに守られているといいます」

「ぜひ、美の小箱が欲しいわね!」

マルジャーナがうれしそうに、しかし力強くこういった。
「アルアロリア様、その災禍はこの宝石の魔力で打ち払ってしまいましょう。そうすれば美の力を手にできましょう」
首の魔石を見せてそう力んだ。

【ネルアングリラの魔石:ブローチ】

セテカがいった。
「術を発明した魔術者の仕組みが違えば、はじけないこともあるかと」

「では、帝国の守護兵たちの力で解決しては…」マルジャーナがいった。
「禍がおこってしまっては遅いのかも」アルアロリアがいった。
「では、ヴィクター様の剣の輝きで守ってもらっては」セテカがいった。
「ヴィクター様しだいね」アルアロリアがそういった。
マルジャーナがなおもこういった。
「私ども侍女がヴェールを身につけ街に行って話を聞いてきましょうか?」
セテカがパンフレットをアルアロリアにさしだした。
「美の小箱は手に入れがたし。されど…新型の化粧品が特注で開発されたとアルアロリア様に届いております。口紅と口紅入れだとか」
「ありがとう。注文してみようかしらね」
マルジャーナがいった。
「アルアロリア様、剣を持ち、武力を磨いたわが身では殿方にお断りされるかもしれませぬ。男性に対抗する武力を持ち合わせたと」
ノヴィ=ゾルカがいった。
「わたしも…男性に勝る知性と学力、知識を保有したがゆえ、男性と結ばれるのが困難になったかもやしれません。ですがアルアロリア様でしたら」
「ひとを、何のとりえもないみたいにいわないでちょうだい」
「わたちたちは、取り柄を磨きましたが…男子の力の一部が我が体内に張り巡らされたのです」





2



ロームルス演説のときが来ていた…
ここロームルスの私城の高台でおこなわれる。
帝国の創始者。そして皇帝グラウディウスに実権をゆずりわたしてからは、ご隠居の身。
それでいて、帝国民の支持率はいまだ議会を揺るがすほどだった。
さらに、個人資産の莫大さと、各自帝国軍とは別個のロームルスの独自の身辺警護の軍隊も保有している。

高台からの演説といっても、最新高性能マイクを使っての演説だった…

セプティミウスが演説直前のロームルスの相手をしている。
「老王?!大丈夫?もう歳なんだかららさ」
「ああ、セプティミウス君。歳だから違う半面大丈夫だ。ずっこけても恥を感じにくいし、先も長くない。だが、スタミナとか別の半面、頑丈さが削れてきた。あれ、君。その指輪はどうした」
セプティミウスは指にはめた赤い小さな宝石のついた指輪をみた。
「これ!?前の魔戦争のときのビックスケルトン…、奴が指にはめていた。戦いの最中隙を見て盗んできたのさ。魔法の指輪で持ち主の指のサイズに変わる…」

【ネルアングリラの指輪】

「そうか、あのフェンリスウルフダンジョン探索のときの…さて、出番だ。いってくる」


群衆が城の眼下、広場のようになっているレンガの敷き詰められた地面にずらっと集まっている。
地方から来た者もいるだろうし、この土地から来た者もいる。
老王ロームルスの演説を聞きに集まっているのである。

兵士が警備にあたっていて、問題は起きていなかったようだった。

ロームルスは老いて枯れた喉から声を張り上げた。
「諸君!ファミリーレストランで金を払えば食える、ガーリックのきいた大根おろしたっぷりのステーキが食いたいか!?にんにくのあとから広がる香ばしさと香辛料、大根おろしの汁がソースにからまって脂肉のこってりした味と争って口の中で満足のハーモニィを演奏する。
確かにうまい味に見合う手ごろな金額を払えば注文できる。だが、それだけでは食えない。仕事をきっちりこなして、あるいは叱られて働いてきた涙の味だ!労働してこなければガーリックステーキランチは食えん。いいか!労働の汗と涙は働いたものは知っている。それがソースとなるのだ。ガーリックを味わうための…ソースのためのソースだ!」

きいている群衆のうち何人かは労働のあとなのに《ディナー》ではなく《ステーキランチ》なのだろうと考えたりした。

「女性でいえば、う、う。うん。女性じゃないからわからないが、悲しみは嫌な話だ。だがサラダにかけるドレッシングでもあるのだ。あえて不都合を呼び寄せることはない…だが、若いうちは嫌なことがあっても、神経質にならずスパイスやソースなんだ。ありがたい。なにがありがたいのかわからないが、飯がうまいのはそのせいのようだと、納得して通り過ぎるのが良いのだ」

演説はこのようにつづいた。

「さて…帝国は君たちが生まれる前の昔に比べ裕福になった。だが、ハングリー精神がなくなってはせっかくここまで来た帝国が傾く。そこで悪いがスパルタであり、納得がなかなかいかないような不平等は帝国に残る。いや、わざとじゃない。わざとじゃないがどうやったって問題はなくならない。だが、それは帝国が不幸だからだと納得するのではなく、自分に課せられた試練であり、うちかったとき、あながちありがたかったと思えるように生きてほしい。以上だ!」


拍手もおきたが、老王の思想を理解したものしないもの、反対派も実は何割かは来ていたのだった…。
テレビとインターネットに演説は流されていた。

帝国の時代はこのように流れ去ろうとしていた。




3



アルアロリアと侍女のクレア、マルジャーナ、セテカ、ノヴィ=ゾルカの五人が室内で談笑していた。
立ちっぱなしでいた、マルジャーナが一人掛けのソファに王様のようにどっしりと腰かけた。
アルアロリアが口を開いた。
「それにしても、最近ではモンスターが急激に強くなっているそうだけど、マルジャーナ、あなたち…よろしくたのむわよね」
マルジャーナはソファからとびおきると腰のレッドソードをはたいていった。
「イェッサ、イェッサ、  アルアロリア様はマルジャーナが夢見たマルジャーナになってくださいませ。このマルジャーナはどこか死ぬ覚悟ができております

アルアロリアが席を立ってなにか取りにいった。
冷蔵庫を開けてアイスクリームを取り出す。
「みんなで食べましょう。特製アイスクリームよ」

マルジャーナがいった。
「イェッサ・イェッサ・アイラブユー~♪」
クレアがいった。
「ああ、いただきます」
「結構なアイスクリームね」セテカがいう。
「わあ、すてき、ちょうど食べたかったわ」ノヴィ=ゾルカがそういった。
みんなでわいわい冷たいアイスクリームを食べた。


アルアロリアが提案した。
「ねえ、お夕食早めの時間にお庭で食べましょうか?」
「賛成」
「いいわね」
「でしたら、わたしが『ママカレー』を作ります、作ります」
マルジャーナがいった。
アルアロリアがいった。
「手伝うわ」
さっそく二人はキッチンに向かう。
エプロンをつけて手を洗い、二人並んでキッチンに立った。

「わたしたちは庭にテーブルをセットしてお皿や飲み物を用意します」セテカがいった。

涼しい風が少し吹いてきた初夏の気候に似ている帝国のコモンスル宮で五人は『ママカレー』を食べた。
独自のスパイスとマルジャーナの優しさが詰まったカレーライスだった。
日は傾いてきている。
「ところでヴィクター様のお母様ってどんなかたなの、アルアロリア様」ノヴィ=ゾルカがスプーンでカレーをすくいながら尋ねた。
「…あったことはないけど」


回想シーン

ヴィクター「母?ああ、おれの?アンドロメダ…母アンドロメダ」

「アンドロメダ姫?星座のような名前ですね」クレアがそういった。
「…なんでも、私があったとしたら私よりまだ若いって感じがするって…」
「どういうことですの?」セテカがいった。
「年齢は確かに年上だけど…とても「おもしろい方」だとか」
「楽しそうでいいですわね」マルジャーナがおもしろがった。





4



ロームルスの演説数日後…

「老王。演説はなかなかの反響みたいだけど…」
「それはありがたい」
セプティミウスと老王が私城で会話している。
この部屋は4階である程度の高さがあり、窓が広く作られた部屋だ。
ロームルスはソファに横になって倒れている。
セプティミウスは剣の鞘をいじりながら立っていた。

「でも、老王。なんで人生は思い通りにいかないんだろうね」
「セプティミウス君。思い通りにいかないのかね」
「ネットでいっつもやっている。なかにはキレて暴れている人も大勢いるんだ。創始者としていいの?」
「君たちの好きなネットか…わたしは今、ネットでもネットラジオに耽溺している最中だ。外の世界と室内にいながらにして交信している。帝国は広い。自分の知らない人の話が聞けてためになる。若者の好きなネットを普通に見ていると目が焼けないかね。老人なんで目を休めたくなる。耳だけのラジオは都合がいい」
「年寄りだから仕方ないけど…」
「人生の問題か。帝国の自慢は何だね。セプティミウス君。表面で考えないで奥深い骨格を掘り起こして思考する。実際むやみに探索するんじゃなく地図をたよる。地球儀でかんがえる。…で考える」
「それは知っているさ」
「モーターがある。これはうまくいっているんじゃないのかな。電池につなぐだけでちゃんと回るんだ。プログラムも。正しく組んでいると本当に動く。さっきの話と反対でうまくいっている例だ。技術とか工学みたいなもんだが」
「そうさ。システムがきちんと回っているんだ」
「うまくいかないのは。帝国民の政治かね」
「ぼくはわかるさ。うまくいっていて今くらいなんだ」
「セプティミウス君。自分は負けたんだと理解することだ」
「嫌だ。なんでぼくは負けなんだ。そんなのみじめだ」
「最後まで負けていろというんじゃない。今負けていると認識するんだ」
「それで勝てるようになるの?」
「こんな説が帝国にある。数学的世界と物質世界、精神世界の三つの世界が連動して成り立っているという説だがね。地図が数学的世界に対応する。惑星の実際の土地が物質世界。精神世界は人間の頭。脳とまでいいきらんが精神に存在する」
「それで?」
「物質世界は数学世界のいいなりだ。数学的規則に逆らえない。どうやってさからう。さからうとしたら次世代の技術みたいにプログラムの上から封じ込めないとダメだ。そんな堅牢な数学世界は誰に支配されていると思う。精神世界だ。精神世界が数学的世界を牛耳っている」
「グーチョキパーだ」
「そのとおりだ。精神世界のクリックはどうやるとおもう。スイッチを押すんだ。押したら世界が変わる。おっと…」
「自分たちの現実世界でなく、数学世界に命令がいく?」
「かもしれないし、今までと違う物質世界に転生するのかもしれない。パラレルワールドにさ。わけのわからない世界なんだろう?今の世界は。いうことをきかない。ならおつむだ。いいはるんじゃなくて気付くこと(アウェアネス)がスイッチだ。いいか、でも痛いぞ。気がついて理解するることが人間の自由になる脳、または心にスイッチなんだ。とぼけて気がつかないと押せないスイッチだ」
「なるほどね。心のマウスがアウェアネスか…」
「だが、くれぐれも…駄々をこねることはアウェアネスじゃないんだ。大人になること、現実を正しく理解することなんだ」




5



お茶の時間、アルアロリアがいつものように会話をはじめた。
「アンドロメダ様って…お母様って、ヴィクター様にいわせると、走っているって」
クレアがいった。「走っている?」
「『やつは走っている。横になって寝ころんでいるだけかと思ったら走ってやがる』って」
「やつ?」マルジャーナが紅茶をポットからカップに注ぎながら、首をかしげた。
ノヴィ=ゾルカがカップを並べながらいった。
「アルアロリア様、それは抽象的な話です。抽象的な話の危険なところは雲をつかむような話で、お互い意思の疎通が勘違いに終わることがあるということです」
皆はゾルカの顔をみあわせた。
「具体的な現実のエピソードならはっきり見えて、理解しやすく共通です。ですが…たとえば、アルツハイマーという病気。学問が進歩しないと違う病気と混同するでしょう。ある学者は似ているが違う病気と分類し、違う学者はアルツハイマーの一症状と認めます。意見が食い違いますが不思議はありません。解明されてないのですから。果たして事実はどちらなのでしょう」
クレアがいった。
「医学でなくとも…専門的な分野はみんな、相当修練を積まないと意味がわからない教科書となっているわよね。専門家でないと会話に意思疎通がうまくいかない…」
「それが、具体的なエピソードの会話と抽象論理的な会話の違いです。女性はおおむね、概念的な会話を苦手としますが…」ゾルカがそういう。
アルアロリアがいった。
「わたしなら…専門家の先生に任せるかしら」
「それも方法の一つですが…抽象的食い違いが夫婦であるとケンカになるというより、意思がかみあわないのです。夫婦でくい違うと衝突事故どころでは…」
アルアロリアがいった。
「ヴィクター様がいっていたわよ。『オレは仲間(セド)にもいわれたが、成長が止まっているのかもしれない。それでいて成長が完全に止まらない。仮死状態みたいに成長している』って」

セテカがクッキーをテーブルに添えた。
「専門的な会話、抽象的な会話はゾルカのいうとおりよ。でも、知らない外部の人が聞いたら秘め事みたいに聞こえて気分を害すかもしれないわ」
「シークレットをパスワードがないと読めない会話のようにおもわれるのでしょう」マルジャーナが敬礼のポーズをとっていった。
アルアロリアが紅茶を口に運びながらいった。
「そうでなくて…あいまいな世界の会話なだけだけど…」
ゾルカがいった。
「この世界はリアルの目に見える現実だけで成り立っているのではないことは、子供でも理科の時間に気が付きます。実際は8割も解明されていない、抽象的な現実が世界を占めているのではないでしょうか?」
「いえてる。知識の薄い世界なんて迷路というより理解不能なんですわね」マルジャーナがいった。
「ヴィクター様は…『夫婦はお互い理解者になるのが理想』だって、その抽象的であいまいな世界の理解に食い違いがあると…」
マルジャーナがいった。
「むしろ理解するというより、まるごと相手を信頼したほうが早いのかも」
セテカがいった。
「理解というより男性を信頼できるか…」






6



「老王手紙だよ。随分丁寧な封書だけど」セプティミウスが老王を起こした。
「うん、?ああ、サンキュー、セプティミウス君、どれどれペーパーナイフと眼鏡は…」
横になっていたロームルスは焦げたグラディーションの木製の書斎机からとりだした。

「うむ。アルアロリア譲と時空警察の若旦那との結婚に激励の詩文を書け!?グラウディウスだな。わたしになぜ内密にする、とごねたからこんなこと仕向けてきたようだ。わたしに二人の結婚にさわられると汚れるでいいんだ、この歳になると。おめでたいものはその位潔癖をつらぬいて結構だ。こんなのは詩人に任せた方がいい仕事だ」
「確かに老王の出る幕じゃないよ」
「そのとおりだセプティミウス君。ラジオでやっていた。労働勤務のあとはコミックを買うのが最適なんだ。わたしも昔そうだった。勤務のあとで読みたいコミックが販売されてないと悲しかった」
「コミック…昔読んでたけど、今読む気がしないよ。どっちかっていうとスポーツかアウトドアだ」
「君の任務は第一にわたしの相談相手だ。第二に戦闘、第三に諜報活動など。君のワークスタイルは自宅警備員だ。オフィスでも実店舗の売り場でもない。金持ちの豪邸で一日暮らすのが君の勤務なんだ。どうだ、夜学でも通って勉強してみるか」
「…考えておくよ…それより、アルアロリア姫って前いった、海を渡った大陸のフェンリスダンジョンのかなり近くにいるって」
「コモンスル宮だ。それでどうした」
「いや、別に…おめでたいけど、時空警察か、オーブリーとエドアールって友達ができたけど、残念ながら彼らは時空警察じゃないんだ。まだ向こうの宇宙の星にいるってさ。それに、なんと魔王アリスタンダーを倒した一行の一員だったって、すごいな」
「アリスタンダーか。君も魔戦争を停止させた。若いうちだけだ、そんな活動ができるのは」