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2014年7月5日土曜日

智慧と永遠の生命






智慧と永遠の生命









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アヌが天を取るまえ。エンリルが地をとるまえに。
すなわち、太古のいにしえの昔。
その、高き所に…

アヌの義兄弟であるか、実の兄弟であるエンリル神とエア神がいました。

三柱の神々の兄弟は、高い知性を会得するための修行をしていました。
「雲が広がる世界の、そのまた向こうに何があるのか…?」
「日が没するあの向こうまで行けば、ありがたいものがあるのかもしれない」
「雲の端から日が昇り、果ての向こうに輝きながら雲が照り返す」

神の霞がかった雲の合間から山々がつきでて、混沌とした力が満ちている。


みると雲の大海原に横たわって、巨人のような姿の女神が休んでいます。
光の泡につつまれ、その姿はまばゆく輝くばかり、
いと高き女神は王冠をかぶりひかりにつつまれています。

≪絶えてだれも足を運ぶことのなかったこの土地へ≫
女神は語りかけてきます。

アヌ神はこう答えました。
「天の果て、地の果て、アンシャルとキシャルから歩いてきました」
≪…≫
「高き天に住まわれる女神よ、ここはどこで、あなたはどちら?」

≪遥か果てからの来訪者よ。この地をあなた方に任せます。あなた方の理想となす世界を創造するがよい≫

エンリル神がたずねました。
「あなたはこれからいずこへ?」

≪妾はこれから長い眠りにつきます。あなたたち妾の眠りをみだりに覚ますことなかれ≫

エア神がいいました。
「智慧と叡智、知力を授けたまえ。女神よ、世界を築き上げるための、創造のためのみたまを」
≪不死の体を焼きはらってまで、神性の力を高めようというのか、男神よ。永遠の命と智慧とは相反する。
その意味は不死なる体で安穏と暮らせば知性は高まらす智慧はわき出てこず。その苦しみ、自らより低いものに苦を伴って助けること、禍、それらから逃れられようとするとき叡智をふりしぼり、高い知性へと目覚め、あるわけもない力に目覚めるのです。
つまりは神々の労働によってしか、ありもしない力を手にすることはできないのです≫

アヌ神はこの地に世界を築くことにした。

エアは智慧の神となるため、その不死の体を、永遠の生命を、限りあるものにしました。

神との誓いを破り、知恵の果実を食べた原初の人間は知恵をみにつけましたが、苦難と辛酸をなめ、不老不死の体を限りある体となり、死と隣り合わせで生きることとなったのです。
そのため、神々にちかづく知恵を会得することができるようになりましたが、同時に善悪も知ってしまったのです。








エアの心臓




エアの心臓









知恵の神、エアは神でありながら不死身ではありませんでした。
そこで自分の心臓を隠すため、自らの体を切りさき、両手を入れて心臓を取り出しました。
取り出した心臓を安全な場所に隠すため、エアはイシュタル女神のもとを訪ねました。
「イシュタルよ、私の心臓を預かり、私を禍から守ってください。私は不死の体にできていないのです」
イシュタルが答えて言うには、
「エアよ、わたしの庭をあなたの心臓の血で汚すわけにはいきません。誰かほかの神に預かってもらいなさい」
そこで、エアはシャマシュのもとを訪ねました。
「シャマシュよ、私の心臓を預かり、私を禍から守ってください。私は不死の体にできていないのです」
シャマシュが答えて言うには、
「エアよ、あなたの血で曇ると太陽の輝きに陰りができるのです。誰かほかの神に預かってもらいなさい」
そこで、エアは天神アヌのもとを訪れました。
「アヌよ、私の心臓を預かり、私を禍から守ってください。私は不死の体にできていないのです」
アヌが答えて言うには、
「エアよ、冥界の女王エレシュキガルならお前の心臓を安全に守り抜くことができるだろう。」
そこで、エアは地下界の女王エレシュキガルのもとを訪れました。
「エレシュキガルよ私の心臓を預かり、私を禍から守ってください。私は不死の体にできていないのです。」
エレシュキガルが答えて言うには、
「それならば、エアよ。地下界の更に地下に住む粘土でできた巨人の胃袋の中にあなたの心臓を隠しましょう」
エアが言うには
「エレシュキガルよそれだけでは心配です。七つと七つの禍が私を襲うかもしれません」
「それならば粘土の巨人を壊す宝玉を地下界の川に住む大蛇に飲み込ませましょう」
「エレシュキガルよそれだけでは心配です。七つと七つの禍が私を襲うかもしれません」
「それならば大蛇が苦手な二人の楽しい小人の好物の甘い菓子パンをあなたが練りなさい」
「エレシュキガルよそれだけでは心配です。七つと七つの禍が私を襲うかもしれません」
すると、エレシュキガルは腹を立てエアに向かって言いました。
「それならば、あなたを地下界の水で水浴びをさせ、あなたを塵と粘土を食べるものと一緒に働かせましょう」
エレシュキガルがそういうと水があふれ、エア神を包み込みました。
エア神は自分の爪から小人を創り出し、地下界から地上に逃がしました。
エア神は意識を失い、死人となったまま、地下界での労働をさせられることになりました。
川の水をくんで粘土を作るのですがいくら水をくんでも僅かの粘土しかたまりません。
エアが創った小人は地上の羊飼いにお願いし、エレシュキガルにとりなしてもらうよう頼みました。
羊飼いがエレシュキガルに会うと、エレシュキガルが口を開いて言うには、
「それなら、あなたが二人の楽しい小人のための甘いパン菓子を練りなさい」
エアは再び生き返り地上に帰ることができました。