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2014年6月11日水曜日

逆ノアの箱舟


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時空小説外伝
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ノア箱舟



時空小説二周年記念

夏の小説祭り








1


マンデンブルー大佐の部屋にジュールとヴィクターが入った。
壁のモニターにはある惑星が映っている。
その惑星の距離は…

その惑星の時空警察領からの距離とグラウディウス帝国からそれは同程度で、両方の位置の外れに位置していた。

ニ大世界からすると辺境の地域。

「この惑星は…」ジュールがたずねた。
大佐は宇宙空間マップに切り替えた。

「あっ!?これは、ハポネスより外れている。辺境の星だ」
「そうだ…」

それは…その星は、悪徳の大地だという。

ジュールはいった。
「悪徳の星…旧約聖書みたいだ。ソドムとゴモラを彷彿とさせるか。古臭いって感じだ」
ヴィクターがいった。
「確かに。いまどき?って感じがするぜ。紀元前って雰囲気だ」

大佐はUSBメモリをふたりにわたした。
ノートソフトが入っている。
諜報員が調べたレポートがメモされている。
ふたりはコンピュータに差し込みソフトを立ち上げた。
ノートソフトにはビデオ、統計データ、電子書籍やワードプロセッサのファイルなどがはりつけられている。写真やデータがウェブページのように整理され、レポートがコンピュータ上で読めた。必要ならデータを表計算ソフトにコピーできた。

ジュールが読んでいて気がついた。「なんだか、美男美女がなかよくしているだけにもみえる。一部分の説明だけ読むと…」
ヴィクターがいった。「やっぱり紀元前の悪だ。経済だ。遊んで暮らしてやがる悪党どもは男女で仲良くしているけど、こき使われているやつらが正当な取り分をもらってないってことだ」

大佐はいった。
「帝国からの打診だ。『自分たち帝国も似たような部分がないでもない。だが一緒にしてほしくない。自分たちは特にとりあわない。帝国の支配下にしたりは、間違ってもしないので時空警察で処理をどうぞ』ということだ」
「…帝国が」
ヴィクターがいった。
「でも、ここの人民の一部は悲惨だ。以前のイカルスと同じような内部分裂問題だ。無干渉を決め込むのも、オレたち時空警察は善悪の判断ができないのかと疑われる」
マンデンブルー大佐はいった。
「さあ、どうだろうね。もう少し経緯(いきさつ)を観察してみよう…」




2


レポートと軍事偵察衛星からの情報。
その惑星の実情。
悪徳と退廃のため神にほろぼされたソドムとゴモラを彷彿とさせるという…
だが、そんな悪の星が実際になりたつのだろうか?
短い間なら悪徳の世界は存在しそうだが…
退廃のため自ら自滅し、衰退し…そして歴史に消えていく…
自らを維持できないはずでは…


ヴィクターとジュールの疑問もどうなのだろう…

この問題の惑星は科学は未発達だが魔法の力が発展している。

地球人は時空警察や帝国から見ると、“宇宙一娯楽やゲームが発展している星”とされている。
宇宙船の開発が遅いが、マンガや遊びにかけて宇宙一といわれる。
そして、魔法とオーラがほとんどないのが地球人だ。

「やっぱ古い。大昔に悪だって白黒ついた問題だ」ヴィクターがパソコン上のノートソフトをみていった。「大昔の偉い人のいうことって意外と当たり前なんだな。斬新じゃない。それって、当時には最先端の課題で、当の偉い人が解決したんだ。それが、長時間年月を経て世界に浸透した。だから古い本とか意外なこととか新奇なこと、奇をてらったことってでてこない。今じゃ当たり前、でもその当時の人が解決したから。そんな感じだ」
ジュールもいった。
「うん。そうか…そうだよ。これじゃ先輩の戦士がたが担当した問題だ」
「ミカエル、ラファエル、ガブリエルって先輩たちか」
「今じゃ時空警察にいないみたいだけど。どこにいるのか…」
「先輩たちがやっぱり悪だし、なりたたないって問題を解いたんだ。奇をてらったような古い古文書って文明のどこかでストップし現代に受け継がれなかった文明なんだな」
「そうだよ。大概悪だ。悪って何が?なりたたないんだ。間違った化学は引き継がれないから現代化学の本にのらないけど、昔の錬金術の本には書かれた。でも煙のように四散してしまうんだよ。間違いは間違いだと決着がついてるからさ」



3


旧約聖書の作者は誰なんだろう。
『ヨブ記』の作者がヨブ本人ということはないだろう。
歴史が長いから複数なのは当然として、あの当時のイスラエル人にすると“年々旧約聖書がぶあつくなっていく”という感じで書きこまれるのだろうか?
それともある歴史の時点でバラバラの文書とか伝承が統一され編纂され一挙に旧約聖書とまとめられたんだろうか。

史実に近いもの、それを改編した者、それと完全な創作。
それらがあるだろうが、「旧約聖書に採用される」みたいな概念が当時の物書きにあったのだろうか。
あるいは、なにかエピソードがあると「こんなことやったら旧約聖書にのせられる」という感じだろうか。


「現代社会でもお金の取り分に関するいざこざは多いけど…」ジュールがいう。
「まあ、そうだよな」

問題の惑星の王としての仕事をなまけ、人をだまし、明らかに不当な量の富を奪っていた。
誠実や愛に関しては怠惰で臆病であり、欺瞞とうそつき、卑劣に関しては勤勉で得意であった。

監督とは親の仕事をひきうけ、作業を下のものがこなす。
その正当な取り分は決着がつくものではないが、男親の仕事をきちんとこなしている人間を使うものではないし、男親の仕事ができないなら労働を自分がするものである。
つまり愛に置いて劣るものが労働を担い、勝るものが監督をしないと公平の天秤がかたむく。

一般的にはそうであっても…微妙なさじかげんでの判別は難しいのではないのだろうか。

「具体的に見えてこないよ」ジュールがいう。
「…そうだな。映画みたいにエピソードでみないと。どう悪人なのか…」

だが、真実の天秤は無言でさばきを実行しているのであった!
人間や時空戦士にはどうやっても裁くことのできないものを、重力や惑星の質量が宇宙を回転する速度を真実が計算し運行している。
重いものと軽いものは空気抵抗がなければ同時に落ちる。
誰がそれを裁判してるのだろう。
時空警察ですらない。
真実の天秤なのだ。



4


「聖書に出てくる悪徳ってなんだか抽象的に書いてあるけどこんな感じなのかな」
現代の守護天使たちでも首をかしげる。「ノアの箱舟の当時の世界の悪徳とか、ソドムとゴモラって結局なにしたのか具体的でない気がするよ」
「いえてる…経済。とりぶんだ。労働の量と。働かない奴が食ってる感じだ。やっぱり経済。でも現代でも常にもめてる。そんな判断だオレは。酒宴だの美女だの、正当な金で悪徳ってなんないはずだ。ウェディングが悪って変だ」
「うーん」
「でも、競技。あれで勝利者は勝ち誇るのをゆるされているんだ。あれすら疑ってきてしまうぜ」
「公平に前もって決めたルールだろ」
「そうなんだ。でも力が勝るなら勝利してよいってなるぜ。才能に恵まれない人は負けをおしつけられるってことになる…」
「力ない人が勝ち誇ると不当だといわれるとかかな…」


問題の惑星では、王としての務めをはたさず、労働者の言い分をきかなかった。
それも、巧みな姦計は見事とさえいえた。
卑劣に関しては天才的。
働く者をみて自分たちは何もせずに良心が咎めるのはおろか、面白おかしく見ていた。
働く者のいう言い分をごまかす術は実に鮮やかであった。
どこから、その言い逃れの知恵が出てくるのか?
まるで正当な取り分を請求する労働者のほうが反対に劣悪であるかのようであった。
酒宴を悪の美女たちと開き、自分たちは遊び呆け、それでいて富を奪っていた。
何故そんなことが可能であったのか?
普通おかしいであろう。不可思議である。
やろうとしてもできるわけがないからだ。

武力。武力で保護するのではなく武力で略奪していたのだろうか?
脅しで?
否。そういう人民ではなかった。
ドロボウの罪、強盗の罪であろう。それであるなら。

ずる賢さ言い逃れ、巧みさで取り上げていたのだ。
その醜悪なことは極端であった。
臭悪が芸術のようにマジシャンが奇跡を見せるように取り上げていた…

恨みは募るがどうすることもできなかった。
働く者は手柄を盗まれた。



5


労働した富は労働した者の富である。
監督をしたものは賄える。
男親の仕事も労働である。
働かないものが富を食いつぶした。
巧みさのズルによって。
時空警察ですら、よくわからいほどであった。
とぼけているのが誰でどちらかわからないほどであった。


悪の美女が笑っている。
「アハハハハハッ。あいつら働いてさ。私たちが使ってあげるから。お金も財産も」
「まったくだ。バカなやつらだ。汗水たらして働いてもわしらに飲み食いされるのがオチなのだ」
酒を飲んで楽しそうにしている。
「ねえ、あなた。それでどうやるの?どうやっているの」
「実はうまい思いができる計画がある。ノアの箱舟だ。選ばれた者だけが船に乗れる。当然お前たちも乗せてやる」
「ほんとう。楽しみだわ」
「そして、我々がつかんだ感じでは、この土地は焦土とやがてなるだろう。もう限界だ。あの連中が愚かでもう畑が焦土になった。難を逃れるのだ、私たちだけでな」
「あいつらはあ?」
「洪水か焦土かどちらにしろ、溺死か焼け死ぬ」

「いまどき…?って感じがするよ」ジュールが再びつぶやいた。



6



「オレたちオーラ戦士でも、この土地にいたらやられてるぜ」
「たぶんやられるよ」


巨大で立派なノアの箱舟が完成した。
魔力で飛びあがる。

人民は次々助かろうとして乗り込もうとした。
船は膨れ上がった。
だが、働いていた人民は乗ろうとしなかった。乗ろうとしても入れてもらえなかっただろう。

「よし、出発せよ!まもなく地上は焦土と化す!」
女の声がいった。
「乾杯!」

だが、…


働かない醜悪な怠け者同士顔を見合せ、すぐ腐敗の匂いがワインから飛び散った。
互いの醜悪さを吸収してくれる、働く人民は地上で畑を耕している。
箱舟の舞踏室はお互いの醜さに吐き気を催していた。

「逃げろ!箱舟からおりろ」
魔法を使って逃げられたのは、地にいたときそう、うまい思いにあずからなかったものだった。
その者たちはかろうじて逃げられた。
魔法で空からゴールデンパラシュートで飛び降りた。
地にいたとき、利益の果実と酒をすすったものは降りるに降りられなかった。
互いを喰い物にする魑魅魍魎は船の中で互いを啜った。
それは、逆ノアの箱舟であった。
「もう降りられない!」

かの惑星を飛び去り、悪徳の船は醜かいなダンスをおどりながら故郷の星を離れた。

地上では…
働いていたものは騙すものがいなく、澄んだ空気と風が吹いた。
「終わったな」
「ああ、悪い奴全部飛び去ってくれて楽だ…」
「これからはここは楽園になる」
 


ジュールとヴィクターは汗をかいて見ていた。
「…」
「…」

ヤッと口を開いた。
「僕ら時空警察がやらせたわけじゃないぞ…」
「そうだぜ」
「これは、大神の思し召しということか…」


大神ジォヴェは輝く王座でいった。
《いや…余でもない!これはおそらく、われら三神の向こうの神々の置き土産…》


「ハァ…恐ろしかったよ」
ヴィクターが恐ろしそうにいった。
「でも、オレたちも時空警察っていうでっかい箱舟に乗っているわけだ。それで利益を確保しているんだぜ。どこの船にものらないって選択肢はあり得ない…」
「そうだよ。どこかの船には乗らないとダメなんだ」
「まず、自分自身が働くことだってことだな」
「ハァ…」










THE END