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2014年5月27日火曜日

キングレオビル






キンレオ






1


ステファノは時空警察本部で呼び出しをうけて、グレートシティ中心部にあるキングレオビルにむかった。

ロビーでまっていたビジネスマンが立ちあがって迎えた。
「イエス。ステファノです。ご用件は?」
「待ってました。宇宙ステーションコスモのコントロールセンターがこのビルの30Fにできることになりましたので」

30Fにエレベータで上がった。
「ここのワンフロア全体がコントロールセンターとなります」
「…すごい経費がかかってますね」
「時空警察の大イベントですコスモは」

人が数人、まばらにいるだけでがらんどうに近い。
まえのメガネをかけた営業マンはいなかった。

ワンフロアをみてまわった。
シートのかかったままのデスクやイスなどの家具が散乱している。
新築に近いビルだが窓の外は映画のように高かった。

図面をもって作業服を着て何か点検しているひとたちがいる。
会うとお互い会釈だけして通り過ぎる。

「コスモのショッピングモールですが早朝に清掃業者が掃除します」
そういって寒々とした大窓で汚れがなさすぎて窓から落ちそうで怖い窓際のアートな軽イスに腰掛けて話す。
「ハイ」
「業者が巨大清掃機(巨大ルンバ)をかけますが、あまり近付くと危険です。業者の担当が警備します」
「ハイ」
「コスモの陸地ですが、陸地ってわかりますか」
「仮想大地みたいな…人工の大地というかですか」
「そうです。コスモは全体が室内ともいえる構想になってまして、もう設計は終わっているんで変更は不可能ですが、コインみたいに空飛ぶ円盤のようではない密閉されてますな」
「ハイ」
「そこの土はおしゃれな人口土にしようかと」
「人口土、ハイドロカルチャーのような…でしょうか」ステファノはなぜそんなことをいちいち自分に説明しているんだろうこの人はと首をかしげた。
「成分が単純な比率でデジタル的といいますのか、清潔でおしゃれですが天念の土のようなねばりはないということでして」
「ハイ」
「今決まっているのはそんなところで、もうすぐこのフロアに引っ越してきます。時空警察から引っ張ってこられたメンバーと民間の業者と、コスモをもりたてていこうという…」

「それにしても、広いつつぬけのフロアですね」
「しきりが入って迷路みたいに区切られますな。それも業者が」
「なんとなく温まるまで寒々としますね」
「…金額もけっこうしますし、広いし高いですからね。一朝一夕には」

各所点検した。
話がイカルスと時空警察の時事問題に移った。
「時空警察も大変な時期に…」
「あのニュースも災難ですが、時空警察もメガロポリスもその位で動じませんよ」
「そうですか…はあ」

新生活は一週間後からだという。


2


ステファノはキングレオビルの一階からエレベーターで30Fに直行した。
この間とおなじフロアかとびっくりするほど違っていた。
この前まで工事中のような感じだったのが、すべてが整っている。

受付で名前を告げる。
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ステファノの秘書だという男性が来た。
秘書に確認をとり、受付はIDカードをその場で発行してステファノにわたした。

「今度からはこちらの裏にある入口にIDを通すとゲートから幹部用の通路に直結しますので」
と案内された。
「コントロールセンター所長も誰も同じ階で仕事しますけど、幹部用のパーティション周辺は歩きにくく、つくってます」
「ハイ」

ステファノの専用室についた。
「ここです」
それほど広くない一室だが乾燥したドライな雰囲気の部屋だ。
ステファノは手に持ったコートを洋服掛けにかけた。

アタッシェケースを置くと、秘書が案内を続けるという。

活気ある職場、つきぬけるような窓ガラスの外は雲が浮かんでいそうな高さだ。
だが、活気は映画を見ているような自分と違う空間を隔てているようでなにかが現実味がない。
ステファノはガチガチに凍りつきそうになった。
「シビアなムードに感じますけど」
「幹部の方はそうでしょう…」
一角にピアノとホルンが置いてある。
飾りのため、なにかのためと、気を引き締めてやる気を出させるためだった。
だが、余計ステファノは凍りついた。

(オーラだ。オーラをぬきとられている。そのオーラでこのビジネスセンターのエンジンが回転しているんだ)
ステファノは直感した。
(あのピアノでベートベンの運命のジャジャジャジャーンが鳴ったら余計ガラス細工の摩天楼みたいだ)

ラウンジルームがあった。
一角をアートに区切り、テーブルとイスがきれいに配置されている。
展望喫茶という感じがする。
秘書が説明した。
「一日一杯半が無料です。一杯はただ、二杯目は半額、それ以上は有料です。ツケで飲むと給料から引かれるシステムがあります。すべてカードとポスシステムが管理してます」
「なるほど。おもしろいかも」
でも、今の自分には飲んだ気がしないかもなと考えた。
「昼食と午後の休憩に活用できますし、お客様を迎えるときにも活用する予定です」

それからコントロールセンター所長の部屋で挨拶した。
「グレート。ようこそ。ワンダフル」
「はじめまして、ステファノです」
「仮想責任者の仕事を頼みます」

それから民間の企画室長の部屋にいった。
ヤマダという名の人だった。
女性秘書と何か話している。
「だから、やるきがあるだけじゃだめなんだ。やる気がありすぎると我がままになったり、余計なことに口を出したがるようになるんだよ。業者なんてなんでいいかわかるか?金目的で仕事しているから余計なことに視線がいかないでさっぱりしているんだ。変にこっちに興味がないから清潔で無関心で仕事だけちゃんとしてくれる」
「でも、熱意は大事だと考えます」
ステファノをみて笑って声をかけてきた。
「ああ、やっときたんですか。ステファノさん。ヤマダと申します。企画室長を務めております」



3


ステファノは自分のデスクのイスに腰をかけた。
(あいさつしてイスに座っただけで汗だくだ)
ケースからバインダーノートを取り出して机の上に置いた。
自分の仕事用ノートパソコンをつくえにおいてコードはつながなかった。
電話一台だけが机に最初からあった。
「ふー」

ノートは最初学生から活用する。
かばんに入れて持ち運ぶのは学校と自宅の勉強机の両方を行き来するためだ。
「帰宅後にもってかえらないで職場の机に置いておけば持ち運ぶ必要はない」
家庭学習しないで教科書を学校のロッカーに入れっぱなしの学生のように。

「…あるいは会議とか別室に移動するとき便利だが」
デジタルが主の時代なので、クラウドとか通信のほうが早いかも。



4


キングレオビルでの勤務が3日ほどつづいた。
ステファノのデスクの電話が鳴った。
「イエス」
ジュールからで、これから視察に来るという。

受付から連絡が来てステファノは自分の部屋をでて受付に歩いた。
「ジュール隊員」
「アハハハ、視察に来たよ。すごいところで仕事してるね」

ステファノはヤマダになぜか挨拶しておこうとジュールをヤマダの部屋に連れていった。
ノックしてはいる。
「ハイ、どうぞ」と声が聞こえる。

中にはいると電話しながらヤマダがパソコンのモニターのワクを指でなぞっている。
「ウン、ウン、いや、だからお前な。業者さんとか仕事おわったあとお茶でも飲んでいって下さいっていいやすいだろ。他意がないから。でもさ、すけべ心がある人にお茶飲んで下さいっていえるか!?いえないだろ。なに!?おまえオレの成長が止まっているって人のこといえんのか!?」

なにやらはなしている。
「うん、うんじゃ」ガチャ

「あ、ステファノさん、おまたせしました」
「あ、ああ、ヤマダさんこちら時空警察本部から視察に来たジュール隊員です」
「よろしく」
「よろしく、ジュールです」
「あ、そうか本部から。どうも、お忙しいところ」

その後、ラウンジコーナーを試してみようとステファノはジュールとコーヒーを飲んだ。
「へえ、日に一杯半がフリーか」
「そうなんです」
「さすがキングレオビルだね。30Fか雲が近いよ」



5



キングレオビルの宇宙ステーションコスモ計画コントロール室。

会議室で第一回目の会議がおこなわれていた。
「…というわけで、ショッピングモールおよび、その他のコスモ内のチェーングループ、あるいはメガロポリスやデカポリスでのポイント会員カードでさまざまなケースに赤いろのポイントがチャージされていくと、通常有料のサービスが無料または割引で受けられるようになるプラン…」
ステファノは考えた。
(なるほど…プロは早い。企画を立てるのが)
「レジのポスシステムが全自動で管理しますので……喫茶店でドリンクをフリーなども可能になり、ケースのシリンダーのレベルは上がることはあっても下がらず、映画館一日一本は無料の段階なども企画してます」
ステファノは今回は発表を控えた。

「まあ、どうやったらシリンダーのポイントがたまるかですが、まあ買い物の金額に応じてが一般的ですが、面白いチャージの仕方を考えるのも大事で。採算が取れるのかの計算も実行したほうがいいのかと。…、まあ盛り上がりが盛り上がりを呼んで自爆はしませんが、売り上げがどこも好景気になるようモールやテナントのショップがにぎわうよう…」

(なるほど…いろんなプランがあるようだ。だがイベントで盛り上がる空気だけで採算が合うんだろうか)

「われわれ、上の者の企画が悪いと現場で働いている皆さんに迷惑がかかるので…」


ヤマダさんが最後にいった。
「そこでですね。ステファノさん」
「ハ、ハイ…」
「ブラックサンシャインというグラウディウス帝国のブテックらしいんですがコスモのテナントに進入したいといってきているんですが、どうでしょう」
「…軍事的な問題ならシビアに考えますが…営利店舗のブティック?ですか、それなら問題はとくに」
「うん、軍人のあなたがそういうなら基本同意ということでいきますか」
「あの、なんなんですかそのブラックサンシャインというのは」
ヤマダは資料を見た。
「えーと、ネックレスとブレスレットにブラックサンシャインという銘柄…?があって、帝国で各地に店舗をのばしているということですね。軍事活動は関係ない模様。まあそうだろうな」


会議が終了し、自分の部屋にもどるとステファノはマーケティングの本を見た。
「フー、マーケティングかあ」

≪パソコンを販売するとして、付属ソフトに定番ワープロソフトと人気ゲーム二本入れて販売するとする…≫
(コンピュータなんかケースがソフトによって違う製品になる。とするとソフトの開発は製品として通用する。ネットは…ウェブページもまあソフトだ。だがネットではページを造ってもそう簡単に製品のように稼げない。まあ、製品だって売れる売れないがあるだろうし。ショッピングモールは実存というのか実店舗だ。どんなに活気をあおっても、客の財布を増やすわけにいかないのに売れるだろうか…そんなこといっていると経済学からひっくりかえして政治家にならなきゃいけなくなる)