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2014年5月21日水曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第九部


Another War  ―もうひとつの戦争―

第九部


Another War  ―もうひとつの戦争―




1


グラウディウス皇帝が時空警察領域よりまだむこうに、コインメタトリーという四つの空飛ぶ円盤の世界があることに興味を持ち、議題にあがった。
結果、コインの戦士たちを合同研修という形で招待することになった。

コインの戦士たちはAnother War に登場しないのかと思われたかもしれないが、こうして登場する。

コインの戦士たち、エドアールやオーブリーは大学生が無頼なように無頼漢だ。
遅くに起きてきて、髪に寝ぐせのある頭で新聞のテレビ欄をみてテレビのスイッチをいれる。
大学生くらいの若者は無頼で世間とはずれていても怖くない年頃だ。
就職活動やサラリーマンになると人に相手にされるか非常にシビアになっていくのだろうか?
そのように自分は自分でがんとしているのがコインの戦士たちの特徴なのだ。
アリとキリギリスのようにその役回りが人生に回ってくるのかもしれない。


セルウィウスは招待状をクラーク王に提出した。
ザール王子のいるブロームイン国には違う使者が送った。

≪…合同研修ということで、一種のちからだめしをしてみませんか…≫
セルウィウスは招待状を送った後で、「まったく、なぜわたしがこんなにこやかな手紙を送らねばならんのだ」とヘドがでそうになっていた。

グラウディウス皇帝のツルのひと声からはじまった合同研修。


2



エカルテ城

「…ちからだめしの研修!!」エドアールは思わず腰に下げた炎の剣の鞘をにぎりしめた。
「ああ、話にチラホラきく時空警察より彼方の世界な」クラークがいった。
「でも…大世界だと思って行ってみると、がれきの山とかハリボテだったりして、『きいて極楽見て地獄』みたいな」
オーブリーは冷静で慎重な意見だった。
「旅行といえば思い出すな。あのときはアルフレットと三人だった。あとからカーターさんがはいって」
オーブリーは懐かしそうにいった。
「二回もでかけたよな」クラークがいった。「まあ、大都会だという触れ込みだけど行ってみるか!!?」

今回はグラウディウス帝国の研修にクラーク、オーブリー、エドアールの三名で行くことになった。
ロビンは「迷うけどな…実力がオイラだけ違うから面白くないな。また今度にする」と参加しなかった。

エドアールは旅行用の鞄に荷物をつめて準備しだした。
「あいかわらず…重装備だ。体がきしむほど重くなった」




3


エドアールは考えていた。
自分が行き尽くした狭いエリアにいるとぬくぬくするんだ。
ラグナクロク周辺…
そこはもう温ったまっている。
だが、下手をすると退屈で狭苦しく感じる。
物足りないときは刺激(恐怖)が足りないときだ。
ビンの栓を開けて外に出ると…空間が広くなる代わりに温度が下がって寒くなる。熱が足りなくなるんだ。
広い世界に出たりすると、あるいは道具や活動や活動範囲を二つにふやしたりすると。
寒くなる。あるいはキザだ。
余計なお世話みたいに面白くない出来事にぶつかる。
だけど、広くて違う新しい楽しみが見つかる。こともある。
力を込めて熱を封じ込めて広い世界を暖めていく、その過程でいろんな素晴らしい出会いや、楽しみに出くわす。もちろん苦痛や嫌なことにも。

傘になってくれる人や機関もありがたいが、自分は少し生意気になると有難迷惑みたいに思うところがある。
だが、生意気が過ぎると、うるさい火の粉から大きな火の粉まで自分ではらうことになる。
いつの間にか自分が傘をやっていたりする。
傘を自分でやってみるとわかる。すっぽり自分の傘にいられると暴れないので楽だが、自分がつかれる。
横並びしてくるやつ、ちょっと傘から出るやつは火の粉をはらうのを手伝ってくれることでもある。だから、ありがたくある。
火の粉をはらうふりして傘に入ったりでたりするやつは迷惑なやつだ。

だから、チョイスが大事だ。
よく考えて。
選択するのは本人の自由だ。
好きな道を選べ。

どうやって選ぶのかって?
心に書き留めるのさ。

オーブリーをみるとぬくぬくするのが自分以上に好きなようだ。
なのに選択の余地なく外に連れ出されてそのたび冷やされる。戸外から戻ったとき温ったるくて生活に飽きが来ないのかもしれない。
強制的に連れ出されるが幸福もおつりがくる。

ぼくは自分から志願しない限り連れ出されないことが多い。
だが、勧誘は来る方だ。

ぼくが人を裁くって?
できない。
わからないし、よっぽどはっきりした悪人以外よく知らない。
だけどこう思っている。自分の選択がグラディーションを選ぶように、ステレオのイコライザをいじるように、どのつまみをひねっても同じ音楽だ。
人生はそうかもしれない。
何かを楽したら何かで不利になり、何かを欲張れば、何かで苦労する。
でもイコライザを本人にとって快適な位置に持ってくることに払うだけの価値があると思っている。
幸せって本人にちょうどいい環境なんだ。
全部都合のいいネジって大音量になってスピーカーがイカレる。
ラウドネスだかか…
バカのためのスイッチだ。幼児の時からだんだん学ぶけど。
自由にいかないというなら黙って観察してみるといい。
動かせる腕が残っているはずだ。
自分が20代前半の今までに会得した人生論はこんなもんだ。



4


クラーク王が遠征するというのでエカルテの市民が空港に見送りにきた。
「行ってくるからな」
クラーク王は簡単に挨拶して敬礼した。

「エドアール。あいかわらずフル装備だな」
オーブリーがいう。

彼はこの間バルハルだかどこだかにいってきてコインにいなかったが、様子が変わってきた。
だんだんはっきりするが、彼はエンマ様だ。
「嘘をつく奴の舌を抜く」
そういう恐ろしさが芽生えてきた。

空港で出国検査を終え、クラーク王の宇宙船の格納庫に移動する。
エレベーターにはいる。
三人は静かで冷たい風のするエレベータで沈黙していた。
今回は運搬宇宙船ではなく、クラーク王のマイカーでの宇宙旅行だ。

暗い駐車スペース。
コインのような空飛ぶ円盤の世界は地下にいくらでも空間があるため、地下開発が盛んだ。
ゴンドラにのってクラーク王の宇宙船まで移動する。
業務用でむきだしの飾り気のない駐車場。
「おお、これだこれだ」
三人は乗り込む。
「小型宇宙船だけどな」
クラーク王がいう。
まあ、巨大船に比べると小さいだろう。

クラーク王は運転席にどっしり着席する。
オーブリーとぼくは後ろの座背にはいった。
ハンドルは車のようなリングではなく横に長いバーだった。
「よっと」クラーク王がキーを差し込む。USBメモリのようだ。
エンジンが温まりだす。
ハンドルのバーを軽く両手で握りまわす。負荷がある。「シートベルトしてろよ」
バーのはじはタッチセンサーになっていてスラッシュして操作できる。
運転席のモニターがついた。
実窓もある。
ゆるやかに発進。徐行運転。



5


「旅に出る前にぶつけるといけないからな」
ソフトウェアの自動ナビが駐車スペースから外に出る道案内をする。
チカチカランプが誘導している。
ぼくもオーブリーもなぜか無言で力んでいた。

クラーク王はハンドルのバーをいじっている。
トロトロ徐行して掃除機の吸い込み口みたいに外に出る四角いダストがみえてきた。
トンネルの出口といっていい。こっちからみると。

「よし、あそこから宇宙の外にでるぞ」
いってみるとぶつかる恐れはないでかさだ。

もうそこはコインメタトリーの円盤世界でなく宇宙空間だった。
Gのかかり方が違う。

「よし、十分距離を取って…」
ゴウとロケットをふかした。
「まずはロット・⊿のステーションめざすぞ」

モニターにマップが映った。
《自動運転に切り替えますか?》
コンピュータ合成の音声がそういった。
「ああ、もうか、そうするか」
《OK》

「当面自動だ。警戒は必要だけどな」
クラーク王が後ろを振り返りいった。
それから、モニターを何度か切り替えて船のステータスをチェックした。
「よし、よし、うん、OK異常なし」
データをクラーク王は読んで点検している。
「あとはオートチェック」
コンピュータが自動で検閲している。
《特に異状は検出されませんでした》

船は宇宙空間を進んでいった。


6



改めて感じた。夜が全部の世界。宇宙空間。
どんな近い恒星も点にしか見えない。
「万が一のときの対応設備はないでもないけど、やっぱり大宇宙に投げ出されると不安になるな」

こんな小さな宇宙船でだだっ広い宇宙空間で故障したら…?
不安にならないほうがおかしい。
エドアールがいった。
「前みたいに民間の宇宙船でなく自家用ロケットだとなおさら緊迫するな」

「それにしてもグラウディウス帝国か」
オーブリーがいった。
あたらしい冒険がスタートする。

「ガムを喰うか?」エドアールがいった。
「ああ、もらう」オーブリーがそう答えてガムを一枚とった。
「オレにもくれ」クラークがそういった。



7


ロット・デルタで燃料を補給。宇宙船にいたんだ個所がないか点検・補修。
それから宇宙船は始動した。

そろそろ退屈になりかけたころ、グレートシティ上空に迫っていた。
「窓の外を見ろ」オーブリーが叫んだ。
「これは、たぶんグレートシティだ」
「そうだな。グレートシティ上空だ。接近して着地する。が、そのまえに」
クラーク王は運転席からメールを飛ばした。
「アルフレットがグレートシティ近郊にいるってきいてな。なんでも女と住んでるとか」
「アルフレットが!?」オーブリーとエドアールが驚いた。

《アルフレット。時空警察は住み心地がいいのか。これから俺達はグラウディウス帝国に行ってくる。がんばれよ。クラーク》
「送信!」

電波が飛んでメールが送られたようだ。

グレートシティでも燃料の補給、点検を行い一泊ホテルで休んで次の日出発した。

アルフレットからメールが届いていた。
《おあいにく様。こっちは仕事が忙しくてね。帝国か。おもしろそうじゃないか、行って来い。おみやげを期待している。アルフレット》


「ここから先が帝国領域か」
そのとき、モニターが点滅した。
《グラウディウス帝国から何か送ってきました。ダウンロードしますか》
「ああ」クラークが答えた。
宇宙船のコンピュータが受信しだした。
《ダウンロードに成功しました》
「マップだ」エドアールがいった。
「もし、送ってこなかったらどうやっていくつもりだったんですか」オーブリーがきいた。
「ああ、メールをむこうにおくって尋ねる気だった」

マップのおかげで自動操縦でむかえる。
さらに着陸する空港もマップに指定してあった。

クラークの宇宙船はロケットのガスを急噴射してスピードを上げた。