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2014年4月27日日曜日

カジノでサアカス パァンとサアカス番外編




カジノでサアカス




パァンとサアカス番外編



  
※こういうのをマネすると嫁入りに差し支える場合があります。マネしないでください。マンガで読むだけにしよう。

※ギャンブルは自己責任でお願いします。



挿絵:ルターリャとヘクトリューシャ





1






豪華客船のホールでのカジノ。
小型カジノだがスロットマシーンもルーレットもひととおりそろっている。
葉巻の煙もまじくる空気。

「ルターリャ、すごろくをやっているわよ。最近発明されたって新聞で読んだわ」
ヘクトリューシャ・レイチェルモンドがそういった。
彼女はロシア貴族レイチェルモンド卿の一人娘だ。
母を早くに亡くしているが、使用人兼友人として雇われているルターリャとなかよくやっていた。

空気清浄機やマイナスイオン発生器も作動しているが煙がそう消えない。
観葉植物のベンジャミンが安っぽくも高級そうにもみえる。

「ああ、恋人と離れて大丈夫かい。ああ、あのすごろくか」
ライトがテーブルの上を重点的に照らしそのそとは夜の様に暗い。
ルターリャは使用人といっても教養や作法などどこか会得しているところがあった。出生や素性は不明である。

ヘクトリューシャの従兄のニコライ。
彼もこの船に乗って世界一周の旅行をしている。
「僕はこういう場所は危険だと言っているんだ。おじさんに叱られるぞ。あばずれだって嫁にいけなくなる」
「わたしとあんたはいいけど、ピョートル…ピョートルさん、あんたいいのかい」ルターリャが確認する。

ピョートル・イアアがグラスをもったまま、遅れてついてくる。
「わたしもちょっと気が咎めるけど。公爵の身分でもあるまいから、楽しむ分には。これが時空小説だったら首にされているけど」
ピョートルは前回の連載時より腹が少し出てきている。
ルターリャが確認する。
「彼女が誘われそうになったら、私の連れですってちゃんと咎めるんだよ」
ピョートル・イアアもヘクトリューシャの親戚すじで婚約者だ。
ピョートルは口をゴモゴモさせて練習した。「私の家計には複雑なしきたりがありましてゴモゴモ、フィアンセにさわらないでください、ませ、ゴモ」

サイコロがスリリングにころがる。
人生の一大事のように目がきまる。
はたからみるとアホみたいだが、熱狂している人には学業の成績表より重大な迫力を感じるのだった。
アルコールも正常な感覚をぼかしていた。
非日常というのか豪華客船でのクルージング(周遊航海)に来る前の自分はいったいどんな日常で生活していたのか思い出せない。
夢の中で自分は本当は誰か忘れて、夢の中が本当の自分の人生のように感じるように。
忘れていたが、この豪華客船の名はサイクロプル。
超大型客船サイクロプル。



2


「本当のほかの国のカジノはもっと危険で危ないぞ」ニコライは興奮して力んでいた。
「そうかも」ピョートルは自分をリーダーにされると苦しいので控え目に発言していた。
グラスをポケットにいれて四人とも着席する。
ニコライもボーィに「すみません、サイダー。いや、白ワインを」と酒を注文した。
「あんたが、酒飲んですごろくの勝負して目を回さないかい」
ルターリャがそういった。
テーブルに左からルターリャ、ヘクトリューシャ、ピョートル、ニコライとすわっている。
対面にも知らない四人。ピエロの衣装をやや取り入れたファッションのクルピエ(胴元:フランス、英ではディーラー)が8人の客に一人混じる。従業員だ。

「なにをー、男の親切と弱気を混同しているようじゃ痛い目見るぞー」
ニコライはカジノの爆音のような喧騒に飲む前から酔っているようだった。
「まあ、まあニコライ君、落ち着いて」そういってピョートルは葉巻をみせた。小型の葉巻だった。
「ああ、ピョートルさんありがと」普段吸わないニコライは葉巻を勧められて口にくわえた。
ピョートルのライターで火をつけてもらう。
クルピエが黒く重い灰皿を置く。ルーレット盤を彷彿させる灰皿だ。
「わかったよ。ニコライさん」ルターリャがいった。「このすごろく異国で発明されたんだってな」
ピョートルが補足した。
「遠くの国のおもちゃ会社、エポック社みたいなところが発明した。新聞で見た」

問題のすごろくはマスが円になっている。
出口が一か所で、エリアをぬけでると、そう一面にもどらない。
そのかわり一面を抜け出るまでくるくる周回しなければない。
二面も一面と趣が違うが円になって一か所から抜けられる。
一面と二面の円をつなぐ通路は3コマの通路だ。
ギルガメシュ叙事詩から思いついたという古代のチェスのようなすごろくだともいわれる。
最初はエンキドウと闘い。なかまになりとステージがきりかわるのを円のマスであらわしている。
「解決するまで二面に進めないということね」
ヘクトリューシャがそう確認した。
「イエス。よろしいでしょうか?グート?」クルピエがそう確認する。
コマはチェスのような陶磁器だ。
持ち札がタロットカードのようにあり、たとえばサイコロの目に+1足すことができるとか、6に指定できるなど効用がそれぞれある。切り札はつかうとなくなり山にもどされる。
コマにつくともらえたりする。

「遅れると周回遅れの陣地をくるくるまわることになるよ」ルターリャは血気盛んになっていた。



3


誰が最初にサイコロを転がすか?
八人がクルピエからカードを引いてきまる。
ただし、その後は時計回りにサイコロを振る。
(革命という持ち札で反時計回りにできる)
自分の番があとどのくらいか直感的に把握できるようにだ。
順番がぐちゃぐちゃ(ブロークン)だと覚えるのも難しいし、ややこしくなる。
自分が降った後ぐるっとまわるまで手ぶらでやや落ち着いている人は飲食やボーィにことづけたりできる。壁のモニターをみたり気を抜けるというわけだ。

ピョートルからスタートした。
「嘘!?わたしから」
少し震えたがサイコロを振る。
一面はゴールのコマにピタッと止まったひとが先の橋をわたれる。
単純でルールを覚えやすく出来ている。
だから持ち札のアイテムでサイコロの数字を足し引きできれば上がりやすい。

向かいの席でピョートルよりおじさんがタキシードをきて「すみません、生ハムのシーザーサラダをもう一皿追加」と注文して奥さんに「あなた、まだ食べるの?」とたしなめられていた。
ボーィが運んできたサラダには塊の味のある肉の燻製を崩れやすくしたようなものがかかっていてスパイシーだった。噛むと味が濃くてしかも歯ごたえがあるが、柔らかい。

順調にサイコロがふられていく。
ヘクトリューシャは振り終わると、「私も何か頼もう」とボーィを呼んだ。
腕に抱えたメニュー表をうけとりひろげる。「アイスババロアお願いします」「かしこまりました」
ルターリャのカツがとぶ。
「ヘクトリューシャ!食ってブタになっていたら負けるよ」
自分の番が来るまで8名でプレイしているので結構時間のゆとりがある。
持ち札を確認してプレイの戦略を練ってもいいし、会話に興じてもよい。注文して冷菓子を食べてもよかった。
ニコライが叫んだ。
「なんで女の子ってこういうとこ来てあわてて何か食べるかな。家で落ち着いて食べればいいのに」

何名か一面をこえだした。
ニコライが持ち札を使った。
「キャスリングだ」
クルピエが説明した。
「親と駒の位地を交換できます。今の親はこちらの方です」ピョートルと駒をさす。
「私はキングじゃない」
あっちのオヤジがいった。
「最終面に親がいってからキャスリングしたら快敵だな」
クルピエが丁寧に説明した。
「いえ、自分とふた面以上親が離れると使えません」
「なるほどな…」
オヤジは少しがっかりしたようにあごを腕にのせた。



4


ニコライがみんなにいった。「ちょっとトイレに行きたいんだけど。トイレットタイム」
「振り終えてからにしなさいよ」向こうの席の女性がいった。
「OKわかった」
クルピエがトイレの位置を大雑把に教えた。そして「もし、おもどりになりませんでしたらゲームのプレイを止めておきますので」
「いいわよ。手が休めるし」声があがった。
「悪い。行ってくる」

ニコライがいない間、ボードの駒は進んでいった。
ピョートルの持ち札が増えた。
(『イエティ』…雪猿かどんな効果が…。『森の勇士ロビン』。緑色のハットで小柄な。かわかっこいいな。駒を+1か。『クロマニョン人の王』か原始人以前でありながらそれっぽい風格だ)

一方ニコライはトイレのドア付近でさらにきいてみた。
「こちらは簡易トイレであちらにキッチリしたお手洗いが」
「近くでいいや」
ドアのすぐにいきなり便器だ。
「おお、きれいでかっこいいぞ。サボテンを飾りたいトイレだ」
ニコライは用を足すと席にもどった。
ざわめいているが熱気がむんむんしている。
軽快な音楽が鳴っている。
悪酔いしたらはくだろうな。
刺激が強いがこのときニコライは体力が万全だった。



5



ルターリャはゆったりかまえだした。大勢を引き離し面が上に独走している。
「ゆっくりいかしてもらうかね」そして、ボーィをつかまえて「ラム酒お願い」と注文しだした。
「わたしも」とピョートルとニコライがジャムサンドを頼んだ。
「気分はサンドイッチ伯爵だ」

ふたりは口にしなかったが思っていた。
(僕らはオヤジとおじさんが金持ちだからこれたけど、あんな年で女の子だけでよくこんなとここれるなあ。連れがどこかプールとかにいるのか!?)

前の女性二人組はカクテルを飲んだりおしやべりしながらプレイしている。ゲームに勝つ意思はこっちより薄弱に見える。

ピョートルがいった。「男性だけのむっさいボードゲームをプレイするか。ネット通販でボード買って」
※いつの時代のロシアか定かではない。

ニコライがいった。「アハハ、いいなあ、野郎すごろく。その方が心配なくていいかも」
二人は葉巻をくゆらせた。

ヘクトリューシャがいった。
「やったわ。二面あがり。三面に突入よ」
向こうのオヤジがぶつくさ言いだした。
「…おもしろくないなあ…わたしだけ周回遅れで二面か」
と、カードが手にはいった。
オヤジは思った。(『saber bring』なんだ。この切り札は?)

ポーカーのコーナーからだろうか?
ドッ!アハハハハ
という、男女入り混じった歓声というか笑い声が左の奥の方から聞こえてきた。
少しびっくりしたが、あっちもこっちも盛り上がっているらしい。

スリー7のコインが止まらないで落ちてくる音がシャワーのように聞こえてくる。
「わっはっはやったぞ」

「森の勇士ロビン。金貨袋にいれてこい」ピョートルがはじいた。「熱気がどぎついな。胃潰炎にきをつけないと」





6


ルターリャが最終面に突入していた。
「なんだこりゃ!?穴ぼこだらけ仕掛じかけの魔王のダンジョンだね」
一面に戻るがおおい。一回休みも多い。ラストゲームは多難でそうあがれない。
「ラム酒飲んで優雅にやってる場合じゃないぞ」ニコライがいった。

対面のオヤジが転がして追い上げているあいだ、ピョートルは葉巻をくゆらせ音楽のリズムに乗りながらシートの腰をゆり動かして、向こうのモニターをみていた。
「おっ、時空小説、セカンドステージ突入」
ニコライもいった。
「ホントだ。楽しみだ。いつだ」

ポーカーのゲームのテーブルでストレートフラッシッュがでたらしかった。
「ワアアアアアアアア」
「OOOH!!グレート!!」
「ヒューヒュウー」

ピョートルたちは驚いた。
「なんだ騒がしいなあ」
「ストレートフラッシュ?!」ヘクトリューシャがそっちをみていった。
「…」
ルターリャはラム酒を口に運んでみていた。

あたりのネオンやフラッシュがいっせいにチカチカしだした。
音響もそれに合わせて震えている。

「わっ!?まぶしすぎるぞ。これはこたえる」ニコライはへこたれてきた。
オヤジは「スリー7ではおとなしかったけどな。ロイヤルもつかいないでこんなまぶしくするのか」
こっちのすごろくのテーブルまでおひねりが飛んできた。
共通で使えるコイン5枚とチョコレートの板。
「ども、でもお腹にはいらない」ルターリャがいった。
「部屋に持って帰ろう」ピョートル・イアアは手持ちのカードをならべなおしてプレイに備えた。

音楽が佳境に来ている。
ルターリャが止まったマスは≪同じ最終面にプレイヤーが4名以上いれば一回休み。いなければ一面にもどる落とし穴≫とある。
最終面には自分一人だ。
「はやくいきすぎるからよ」ヘクトリューシャにいわれてひとこともなかった。
オヤジがいった。
「なるほど、うまい仕掛けだ。先に急ぎ過ぎも禁物。論語とか通読した者が勝つのが本道だ」
「日本の暦かよ」ゲームを突っ立って横から見ている男がいった。「次はまぜろよ」
二名の女の子がいった。「次抜けるからいいわよ」
ニコライより年下だ。

ピョートル・イアアがいった。
「宅でやるとき、ババロアとかプリンをコンビニで調達してやろうな、ニコライ君。負けた奴が買いだしに走らされる」
「ああ、おもしろいなそれ」

派手な音楽がエンディングを迎え、しずかでおごそかなクラシックにかわっている。
突然はじけてシーンとしたかのようだ。
明かりの派手なネオンも夜空のようにしっとりとチェンジしている。
「おっ、アイスソード・エンドか」
CMがモニターでやっていた。
一面にもどったルターリャはいまさらあせってもとゆったりモニターをみていた。
「なに?エンド」ニコライがみたときは消えていた。

オヤジがいった。「音楽が静かでいい。ベートーベンの運命、第二楽章だな」



7


ピョートルがいきおいよくサイコロをころがした。
「おっと失礼、飛んでいった。よし6だ」
最終面にヘクトリューシャ、対面のオヤジ、オヤジの妻、ニコライの四名がそろっている。
「よし、吾輩も最終面いり」
いいなづけのヘクトリューシャがころがす。
ピョートルがいった。
「以外とわたしなんかコンサートのドヤドヤが苦手というのか怖いというのか」
ニコライがあいづちを打った。
「ああ、あれ僕も怖いなあ。ぼくなんか相手にしないだろうけど、ああいうの、我忘れて興奮して踏みつぶされそうな気がするんだよ」
「そうそう、軍隊の行進みたいですな。われわれも勢いがついてさわぐと、ひとさまの不評を買うのかも」
ルターリャがいった。
「敵度にヘタれだから、心配ないよ。踏みつぶされる心配ならあるかも」
「なんだと」ニコライは葉巻をふかして足踏みした。

結局、すごろくは対面のオヤジが一等であがった。

その後ルーレットを見に四人はいった。
まだ夜は更けていない。


8


ルーレットのテーブルにもイスが用意され着席した。
「どれどれ」ニコライは席を確保するとポケットにグラスをいれた。
ピョートルが腹をたたいた。「よし、まだ午後10時過ぎだ。特別に吾輩が許可する」
ヘクトリューシャはクルピエ(胴元)に何か聞かれていた。「××OK?」
「音楽だ」ピョートルがいった。
ヘクトリューシャは「イエス、OK」といった。
なんとかという曲のレコードがかかりだした。
いたるところから音楽がちぐはぐにかかっていて混ざってどうしようもないが、それも醍醐味だ。

ルーレットはなかなかまわらなかった。
クルピエはいじって点検しているようだ。
「お願い、ラム酒おかわり」ルターリャはきつけにもう一杯ボーィに注文した。
じき、冷たいラム酒が運ばれてきた。
「やったー」小声で言ってこぼさないよう手にした。「ありがとう」

ニコライは「あーさすがに胃腸の神経がこたえてきたなあ」
「もう、おねんねかい、ニコライさん」
「うるさいなあ。火力がもごもご…」

クルピエがいった。「赤か黒にチップをかけるか、数字にかけてください」
テーブルを他の客も囲みだした。

残業で疲労困憊か二日酔いの向かい酒のような荒野に四人ともいた。
巨大な専用機械のようなルーレットが回転を始める。
われわれの人生や生活を決定する慈悲のあるのかないのか、日めくりにも似た無常の裁判。
グルグルまわり、クルピエが象牙製の小玉を回転と反対方向に投げる。

ガガ:ッ・シャー
ルターリャはルージュ(赤)にチップ5
ヘクトリューシャはノワール(黒)にチップ3
ピョートルは001
ニコライは赤にチップ3

いざとなると、もうルーレットに玉は投げられた。
もう勝負は始まっている!!
ピョートルがいった。
「いい船だな。景気がいい」
音楽のせいでかすれて聞こえる。
ルターリャも突っ込もうと思ったがやめた。
「聞こえないわよ」ヘクトリューシャがおとなしそうにいった。

ガッ!、カココココ・コロン

どのマスに玉がおちたか回転が速くて見えない。
ルーレットが制止した。
みなのぞきこんだ。
クルピエが無情に言い放った。「ルージュの8

「ノー」
「OOO」
あっちこっちで落胆と喜びの歓声が上がる。
オッズにしたがってチップが入ったり巻き上げられたりする。

次の開始まで時間があった。
「よっしゃ、次も行くかね」ルターリャは力んでいた。
「チップがもらえるだけかぶつぶつ」ピョートルはふてていた。「みんなの明日を決めるルーレットとかないのか」









マッハールとトマシーナの恋









ッハールとーナの









1


マッハールは酒を呷っていった。
「ハッハッハ、物語に出てくる遠くの文明人の男女なら『もっと落ち着いた店で食べましょうよ』とかいうんだろうがな」

カーターとワトソンは首をもたげて沈黙した。
「だが、オレは文明の未開拓な我が国が好きなのだ。馬頭琴も星雲もあるし、酒も数種類ある。馬も槍もある弓もな。これ以上道具や何がしかがあると気ぜわしい。タオ(気功)がひとつに充満しきらないで四方に発散してしまう」
「タオを使いなさるので」
カーターが興味をもった。彼もタオの初歩を使える。
ワトソンがいった。
「ソフトとかアプリとかギターとかアイテムがありすぎるとそうなんだよな。欲しい道具が足りないくらいが傑作ができる。冷えるんだよ。財布が豊富で何でも買えると。ネット社会なんかいきあたりばったりにモノというのかウェブがでてくるからタオが四散してしまう気がするよ」


2



翌日出発となった。
この部落より人数の多い街にむかう。

重い荷物を背負い歩きだす。
方角は教えてもらった。川の位置も大体。

平らで丈の短い草が生えているだけで歩きやすい大地。
太陽が真上に来る前にワトソンはへばった。
「…休憩」カーターがドサッとリュックをおろした。
水筒から水を注ぎ、携帯湯沸かしでインスタントコーヒーを入れる。
「あー疲れた。ふー、どうするんだカーター」
「うん?」
「もともとチベット旅行が目的だから、まあ達成している。でも、どこにいるのか帰れないぞ。いい加減引き返す方法探しとかなきゃ。夏休みだって制限があるだろ?!」
「まあ、そうだな。沸いたぞ」
ステンレスのカップでインスタントコーヒーを飲む。
汗を背中とお尻にかいたうえ太陽が暑い。
さらに、そこに熱いコーヒーを胃袋に流し込む。
「ううん」
「あー暑いけど冷まったような」ワトソンがいった。

いったん腰を下ろすと根っこが生えてしまい、昼飯を食い終わるまで休憩となってしまった。
「カップヌードルだ」
「水をわけてもらってたな」
ズズズッズズと二人してすする。
カーターは食べ終えるとごろんと横になった。
ワトソンもまねした。

【聖人殺し】×3

静かに無言で三人立っている。今までこんな近くまで来ているのに気がつかなかった。
影がさして鳥の影?とぼんやりしていた。
バッとおきあがる。剣を探り寄せた。
「うわさ通りしつこいな。神出鬼没というわけか」
ひとりはスリープダガー、もうひとりはバーラルナイフ、三人目はギロチンアクスを両手にぶら下げていた。
ゴッ
バーラルナイフのえでカーターの頭を力いっぱいたたいた。
「ぶごっ!?」
カーターはなぜか反射的にかわせなかった。
「ぐぐぐ。タオの呼吸だ」
「カーター、しっかりしろ」ワトソンがステンレスソードをすらっと抜いて鞘を捨てた。
キィン!
ナイフの男の手を狙った。
「ギッチチチィ」
「ぶちあたったぞ」

「チェイ」
バーラルナイフをなげつけてきた。
「ハッ」
ワトソンは地に伏せた。
躍りかかってきて、かかと落としをワトソンに浴びせる。
「ぐっおうっ?!?」
背中からミゾまでダメージがつきぬける。



3



聖人殺しはワトソンにからみついてきた。
しがみつき体重をワトソンにのせる。それだけで、ただでさえ疲労しているワトソンは重くてふらついた。
「くそ、しがみつきやがって」
しかも剣がふりまわしにくい。それどころか手から放しそうだった。

カーターは…
ギロチンアクス
ギリ
よけてよろける…
(ライオンソードだ。エクセレントソードは重い)数歩の距離に置いてある。
二撃目!
サッと飛んでライオンソードをとる。
「今だ、くらえい!」

ショットが複数飛んでいく。
二体とも吹っ飛んだ。
「ギッ」
「ギギ?」


ワトソンはヘットバットをたたき込む。
ドフ!
「ぐふ」
自分も痛い。
さらにわざと倒れた。それもいきおいをつけて。
「ぎぎぎ?!」
ガズ
「…§☆…ν」
「あはっ、みたかい?しがみついてきたお礼さ」

目を回しているうちに聖人殺しにとどめを刺した。
「…ステンレスソード」
心臓に杭を打ち込むようにソードをつきさした。
ぐ…ぐぐぐずぼっ、ぐぐぐ
「ぐへぁあ」
悲鳴とともに血反吐を吐く。
ワトソンはいった。「これでぼくも聖人殺しキラーだ」

カーターはスリープダガーにかすった。
「ぐっ、めまいが、しびれる…」
急いでライオンソードを連発する。
敵は喰らうたびにダウンするがおきあがる。
後ろからワトソンがステンレスソードを頭にぶち込んだ。
ガチーン!!■…ν☆…!!

ドサ
「ライオンショット!」
止め。
勝利!
「おっしーゃー!!」

死んだ“聖人殺し”をみてみると、死んだ魚のようにカッとよどんだ目を見開いて野原に横たわって動かない。
人間の感情がない魚類のような精神構造なのか。
「フン」
「いくら聖人殺しといえ、あまり気味のいいものじゃないな」
「ああ…気味悪いよ」

ふたりは弔うのも変なので土を少し掘り起こしてかけて歩きだした。



4


大きい都にふたりはついた。
「米ドルはつかえないだろうな」
水売りのカメから水を買いたかった。
「異国の客人だね。いいよ」
どうやら珍しいお札に興味があるらしく、米ドルが有効だった。
レートはいい加減だろうがカーターとワトソンは水と食料にありついた。

人通りは多い。
乾燥した野菜や、穀物が売られたりしている。
木彫りの見世物、衣類、反物。

木の板で石を台にして長椅子にした料理屋があった。
イモリの串刺し、タニシを串刺しにして味付けで煮たもの。
二人が食べた。
「腹を壊すと思うから壊すんだ」カーターはガブリと喰いついた。
「貝だろ。味付けはいける」ワトソンも食べた。
外れにテントをたてて休んだ。
ワトソンが腹痛を起こした。
カーターが「セイロガン。日本製だ」と薬をだした。
「助かるよ。水をくれ」
「水は貴重だが…」

ふたりは次の日から地球に帰る方法を聞いて回ったが、つかめなかった。
ただ、メリーサのいる、ワンウリーの街の方角をきいた。
地面に図を引っ張って老人が説明する。
「ありがとう」

いったんマッハールの部落にもどることにした。



5


マッハールの部落では。
「なんだと聖人殺しが!!」
カーターとワトソンが倒れそうになりながらころがりこむと、事態は緊迫していた。
「どうしたんだい?マッハール?」ワトソンは悠長にいった。
「都を焼きはらうと…」
「ええ、だれが?」
「蛮族だ。聖人殺したちが。さらに、おお、恐ろしい。トマシーナをさらって自分たちの妻にすると」
「蛮族とはいえ字が書けるんだな」カーターが矢文をみていった。
「書ける。あっちにしたら俺たちが蛮族なんだ」マッハールが顔面蒼白になりながらいった。
長老のような老人がいった。
「決戦の覚悟はいいかマッハール!?」
「ああ、やつらこのオレの剣と矢にかかって処刑されるのだ。皆殺しにしてやる。明日の早朝、馬で都に向かう」
「いますぐいかなくていいのかい?」ワトソンがいった。
「早馬で駆けても夜だ。聖人殺したちも夜は行動をとりにくい」
「そういうものかあ」


6


マッパールは剣と弓矢を持ち白い馬にまたがった。
「行ってくる」
カーターも馬に乗って一緒に向かう。
ワトソンは馬に乗れなかった。
「ごめんよ。練習すれば乗れそうだけど、うまくいかないよー」
「ワトソンは仕方ない。ここで連絡などを待って頭脳戦をサポートしてくれ」カーターがいう。

二人は駆けた。

一時間以上馬で走った。
上空にマッハールもみたことのない巨鳥が飛空している。
「なんだ、あの鳥は!?闘いを鼓舞しているかのようだ」
高楊しているマッハールは馬上で弓を引いた。
「とどけ、天を舞う鳥よ」
普通なら届くはずのない…だが、奇跡的にマッハールの弓は巨大な鳥をかすった。
その鳥はサンダーバードだった。
コインのブロームインから惑星バルハルのこの大地に飛来していた。

さすがに怒ったサンダーバートは急いでいたので無視しようかとおもったがグルリと旋回しマッハールとカーターの頭上を飛び回った。
「雷の鳥だ!おおっ雷鳴をはおっている。おおい、雷鳥よ!我に力を与え、いくさを勝利に導きたまえ!!」
≪……≫

「オレの女と部落の仲間たち、都が敵の手で焼かれそうなのだ!」
≪いいでしょう。サンダーシャワー!!!≫



                                                                      
ズザザザサザンンンン
雷のシャワーが降り注がれた。
カーターは馬をとめて姿勢を低くした。
マッハールは直撃を受けた。
3425

サンダーバードはどこか飛んでいった。
「おい、闘いの前から、しっかりしろ、黒焦げだぞ」
「カーター…ごぶっ」
カーターは水薬をだすとマッハールにかけた。そして口に流し込んだ。
「はっはぁはぁ」
「しばらく休むしかないな」
「こんなときに」

だが、マッハールはサンダーシャワーの魔法を使えるようになっていた。