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2014年4月21日月曜日

カーターとワトソンの旅






カーーとワトソン










1


荷物をまとめ、旅行に向かっていた。
「ワトソン、ひさしぶりの空は気持ちがいいな」
「チベットか…おなかこわさないかなあ」

飛行機がやけにガタガタいう。
「What!?」
「なんだかあわただしいぞ、カーター」
「ホントだ、なんだ」
原因は何だかわからなかったが、飛行機のエンジンが止まり落下している。
「墜落するぞ」
「キャピンアテンダント!!説明しろ。どうしたんだ!」
「お客様、ただ今事実を確認しておりますので」
機内はあわただしくなってきた。

「カーターお前の力で何とか」
「無理だ。飛行機の故障など…」

グワッシャアン!!
爆音が聞こえた。
ゴオオオオオオ
ボイラーの音のようなのがだんだんでかくなる。TVやステレオなら「下げてくれ↓」と注文するところだが、不気味な遠吠えのようにうるさくなる。
とうとうパラシュートをつかうことになった。
「人数分ございますので」
「たまらん!こんなところまで来て落下傘か」
「ヘイ、ダイブならダイバーの仕事だぜ」
機内の客もキャピンアテンダントもおおわらわだ。

「おい、カーター!!!」
「落ち着け」

その後アメリカに帰ってから新聞やら、ネットなどで事実確認したところ、客員、乗務員、全員がパラシュートで生存したという。軽い傷くらいですんだらしい。

だが、

「おい、カーター」
カーターとワトソンが落下したとき落雷がおそってきた。
「なんだって!?」
目の前でスパークが高速で近づいてくる。
気がつくと草原にあおむけで倒れていた。



2



「ここは…」
「中国大陸とかチベットとかの平原とかか…」

機内の格納庫にあるはずのバックなどがある。
「自分たちの荷物だけ…!?」
何者かの意図を感じたが、荷物をしょって歩き出す。
ステップ地帯というのか。モンゴルにも似ている。
だが、モンゴルとは何かを知らない。

【聖人殺し】×2

「なんだ!?盗賊!?」
カマのような斧をもったふたり組だ。
覆面のように口元を覆っている。

わけのわからない言葉をしゃべり攻撃してくる。
ギロチンアクス
ガリ
「うぉおおう、カーターなんとかしろ」
「エクセレントソード!ワトソン、エジオンで巨人と闘っただろ、おちつけ」
「そうか、そうだ、でもステンレスソードしかもちあわせてないぞ」
ワトソンが軽快に斬り込んだ。
敵はかわす。
カーターは荷物を下ろし、重い剣を抱える。

「ヒョウ!」
バーラルナイフを投げてきた。
「グッ」
「ワトソン!」
ワトソンの腕にささった。
「血…グッ、やったな」
いきり立ったワトソンは両手持ちでステンレスソードをかまえると、勢いよく振り落とした。
ギリ
聖人殺しの体に縦にはいる。
「ぎょうううう」
「エクセレントソード!」
ドガ
蛮族の片手が落ちる。同時に血が噴き出す。
ギロチンアクスをトマホークのように投げてきた。
「とう」宙返り、カーターは軍靴で蹴り落とす。
そのすき、バーラルナイフが襲う。
ザシ
かすり傷だ。
だが、カーターのヒザが聖人殺しの後頭部に叩きこまれる。
「グヘ」

ワトソンも勢いづいてステンレスソードで斬りつける。
ギロチンアクスでひっかかれる。
「くう」
カーターがエクセレントシュートを放って決着はついた。


「ハァハァ、しんどい」
あたりは血だらけで草原の草が赤黒く濡れている。

イスカンダールの鎧を装着して歩くことにした。



3



日光が強い。
「ハァハァ、カーター吐き気がして来そうだ。少し休むぞ」
「…そうだな」
落ちている枝を集めて火をおこす。
しけこみやすいように荷物を囲うような位置に並べる。
水筒の水を飲む。
「あまり飲むなよ」
「はぁはぁ、それどころじゃないよ。徒歩だぞ」
軟膏を取り出して傷口に塗り込む。
「血もかわいてるぞ。傷は深くないけど」
「弱気だな」
「そうなんだよ。アメリカにいたときからさ、なんか最近そうなんだ」
携帯非常食を取り出してかじる。
日が傾く。
夜になると寒い。
毛布をだしてくるまる。
「おお、いカーターあの星空!地球かここは」
「…季節や気候によって星が全然違って見えるのはあるけどな。これはバルハルの空にもみえるが」
「バルハルだって!?」
「何となくそう思った」
「やれやれ異星に飛ばされたか、ハッハッハ」

次の日、あるきだした。
道は平らで木がまばらで、地面は歩きやすい短い草で楽ではあった。だが、荷物が重い。
カーターの奴やけに平気な顔をしているな。
カーターは修行により超人と化した。だが、ワトソンは体を壊しぎみなのか、カーターは頑丈で膂力に満ちているように感じる。
「力が充満しているようだ。仕事で精神的ストレスと戦っていたが体を使ってないからな」
「それはこっちもおなじだぞ」

獣の骸骨になった死骸がころがっている。
「半分腐った肉がついてる」ワトソンがいった。
「ああ、それらしいな」

テントがみえる。複数だ。人がいる。小屋もある。



4


カーターは片言だが言葉が通じた。
ワトソンも何分の一か通じるきがした。
カーターが金貨を見せると受け取って中で休ませてもらった。
「自分のテントがあるからいいが…」
「それで荷物が重いんだぞ」

襲われた蛮族の話をすると、「西の蛮族か…気をつけなされよ。そなたたちに血がしみついている。血のにおいを覚えてどこまでも刺客をさしむけてくる」
カーターとワトソンはぞっとした。
ピザのような小麦粉を練った生地を釜戸で焼いてカレーを間に入れたものが出された。
「ここはインドとかなのか?カレーだぞ、カレーのピザというか、サンドイッチ、どら焼きだ」
「どうかな」
生乳がでたが生臭い。
「腹を壊さない程度にのみなされ」
「どうするカーター」
「自信がなければ少しにしろ」

老人は長々と話をし出した。
楽にしろと合図する。
火にあたりながら、時々たきぎをかきまわす。
「若い娘たちは朝早くにわき水や小川から水を甕に入れて運んでくる。それが日常で習わしじゃ。水汲みの仕事のおり、世間話をするのが彼女たちの楽しみであり日課となっている」
「俺たちでいう情報端末だな」小声でワトソンがいった。
「おしゃべりは大概は男の話をする。自分の意見と周りの娘の意見がどう違うのか同じなのか。彼女たちの生活を制限しているネックが結婚というわけじゃろうな」
「…」

「厠(トイレ)の掃除を男にさせる家はつぶれるという習わしがある。皆ここの女どもは釜戸と厠の手入れに熱心じゃ。競い合って磨いているといってもいい。そういえば、お主たちの名は?」
退屈そうに火をかきまわしていたが、突然ハッと希望を見出したかのようにきいてきた。
「ランドルフ・カーター」
「ワトソンといいます」
「そうか、それはの」

そのランドルフ・カーターがいった。
「男性の仕事は」
「星を見て外の世界を知ろうとする。予測や予知、あるいはシャーマンのようにな。実際お主らをおそった蛮族とは仲が悪い。やつらが邪魔をしなければな…外の世界には高い建物もある国がある。そこからたまに人が来る。モノをもってくる者もいる。今のお主らのように」
外国の情報や物語、商品をもってくる物を楽しみにしているらしい。実際、放牧の仕事と自分たちの生活だけでは退屈するという。
「星をみて、いつ外人が来るのか占う。これがかなりやりがいのある仕事となっている」

カーターはいった。「それじゃ、お世話になったお礼に水汲みの仕事を明日やりましょう」
「フォッフォッフォッ。男が水汲みの仕事に混じると嫌がられるぞい。それに男性が汲んだ水は腐るのが早いともいう」
ワトソンは保持している細菌のせい?と考えていた。
結局マキ割りをすることになった。
カーターはテントをはり、ワトソンと休んだ。



5


日が暑く昇るころ、カーターとワトソンは慣れないような、慣れているようなマキ割りにはげんでいた。
「ふう、汗をかいたぞ」
ぬるいお茶が運ばれて、渇きを覚えていた二人は飲み干した。

「腕力がおありになる」
長老なんだろうか、そういわれた。

昼ころ飯を出された。
蜜のような甘いシロップがかかったホットケーキのようなパンだ。
だが、量が少ない。
また話を聞かされた。
「マッハールという若者が期待されている。トマシーナという娘と恋しそうでいる。」
歯に衣着せたようにいいよどんでいる。
「わしら民族では、結婚やその後の後ろ盾となって、なんだ…面倒を見たりする。だが、その恋は、いさかいも犬も食わん。自活している二人が尊ばれるな。あるいは面倒をみない部外者がありがたがるな」
ワトソンがいった。
「後援会はありがたがらないが、ギャラリーにしたら魅力的に見えるんだよ」
「それじゃな。お主らの世界の話を聞きたいが」
「それだったら」
カーターは寸前までいたアメリカの話は嫌なのでバルハルのハーランドの話を聞かせた。
「ふむ。わしらの民承に似た話がたくさんあるの。あとで書き留めておこう」
そして、お礼にと話をしてくれた。
「厠の話じゃが、おまけがついている。親がいなければ、親になってくれる兄貴分に恵まれなければ、男の身で厠の掃除をしなされ。親身になってくれる男親があたるとの伝承じゃな」
「…」
「なるほど」
老人は唐突にいった。
「…ギャリコという娘がマッハールとトマシーナのふたりに横恋慕しておる」
カーターとワトソンはあぐらをかいて座っていたが目を閉じてじっと伏せた。
「マッハールはむこうの、ここより人数の多い街にお使いに行っている。そろそろ帰ってくるころじゃ」



6


日時計によると午後二時ころ、テントの日陰で休んでいた。
カーターはペーパーバックを読んでいる。
「おい、カーターやっぱり地球かここは」
「いや、日時計のなんたるかを忘れた」
「筋肉痛でひどいぞ。足も腕も」
「なまっているからだ。鍛えればいい」
「巨人と連戦していたころはもっと柔軟だっけ…」

マッハールという若者が馬に乗って帰ってきた。
「おはよう。蛮賊に襲われなかったか」
「今朝はいなかった。いたとしても、分断してやるさ」

テントから二人組はでてきた。

夜は星を見ながら宴になった。
馬頭琴という楽器をマッハールが演奏する。
塩の羊肉だ。
どこから買うのか鉄板があり、ブロックでささえ、火をおこす。
水でさんざん薄めたウィスキー風味の酒のようなものがだされた。
穀物で醸造するのだろう。

「星の形を見ていて、あるとき気がついた。生まれ変わりにだ。そしてその形が星座とおなじように似かよっている」
「ほう」
カーターはウィスキーもブランデーも好むが、薄くて飲んでも酔いが届かない。
へたばっているワトソンにはちょうどよかった「ハイボール割りの感覚だよ」
「生みの両親の形、職業と仕事、生まれ変わると形が違う。それに意味を持ちだした」
「女性は結婚の形が毎回生まれ変わるごとに違う」マッハールが馬頭琴を引きながらそういった。「それを七星宝(しちせいほう)と呼ぶ」
「マッハールさんはその星占いの仕事を?」カーターがいった。
肉の脂がはじけて飛び跳ねる。そして煙が黒い夜に真っ白な煙になって巻きあがる。
外での宴なので外気がすぐ運んで消し去る。
「マッハールにはまだ早い」老人が先にそういった。
「そう、先輩を何よりあてにするところがある…差し置くやつは未開拓の森林に進む猛者となる。生まれ変わりも、その形も先輩がどうなのか教えてくれる。あるいは伝承とか。それを参考にしないと成功しない」
「自力で成功したやつは偉いが火の道を突き進む」
カーターが馬頭琴を貸してくれと頼むとマッハールはわたした。
カーターは自分が覚えている旋律をかなでだした。
「おい、弦が違うんじゃないのか?」
「なんとなくだ。即興のほうがいいかも」
馬頭琴を放したマッハールは酒と肉をがっついた。
塩が油の水にとけて薄まる。
だが、それが焼きたてで美味しかった。
空が深い藍色のふたのように覆いかぶさる。それに星がトンネルのようにか、光を導く。点滅するまたたく星さえある。


トマシーナの話になった。
カーターがいった。
「その女性たちは向こうのテントからでてきませんが」
「あれは女性たちの取り決めじゃ。わしらには口を挟ません。なにかやっているらしいな」老人がいう。
「先祖の伝承とかから取り決めたとかだろ」マッハールがいう。
「男女が触れ合わずにどうやって結婚までのいきがかりを…?」カーターは馬頭琴を休めて尋ねた。
「触れ合えば不衛生。全く接触しなければ婚姻も恋もなくなり、多産でなくなる」
「すると?」
肉がなくなって焦げ付いた鉄板から匂いだけ上がっている。
酒がたされた。
「すると?」
「美しい方式で男とつながり、結ばれる。これをよしとする。それを人生の一大仕事と考えて大切にしている。人の真似もダメではないが、長く続くと悪臭(悪習)となる。自分の知恵を使わないということだからな」
「美しくない方式なら?」
「予後が芳しくないという」