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2014年4月13日日曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第七部


Another War  ―もうひとつの戦争―

第七部


Another War  ―もうひとつの戦争―





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千人の従者が女神の瞼のふくらみに従うのに
女神の支配はこの上なく和やかに揺れるのみ

(キーツ詩集より抜粋)




1


ラオディキアのラージヒル。
この惑星はラオディキアのある星、とか
老王の住む惑星とか、
帝国グラウディウスの古都などいろんな呼び名で称される。

アルアロリアの現住所のラァ・ガードもこの惑星である。
ラァ・ガードとラオディキアのある星とかとも呼ばれる。

ラージヒルの老王の私城。
老王ロームルスは妻たちとうわさしていた。
「あの女王様か…オレにいわせるとだな。うーん、女王としての資質と実力はアルアロリア譲をはるかにしのぐ。なにせ現役で帝国の政治に重大な権力を持ち合わせているお方だからな。だが、妻としての能力はアルアロリア譲に遥か劣る。なにせ女性の魅力の一部を統治につかってしまっているんだからなあ」
ひとりの女がいった。
「どんな女が妻の力が高いの、ロームルス?」
「男のオレにはそうよくわからない。だが、見当をつけると目移りしない女だ。あっちこっちいったりしないでピシッと一人に的をしばれる。たとえ苦境があっても失敗した、あー、あっちがいいと投げ出さないで腰がずっしり重い」
「それは簡単なことじゃないわ、老王。男でいえば重労働をしてくるような」
「あー、そうだろう。君たちも男の労働の辛さを知っている点で優秀だと思うけどね。でもあの女王様のせいで、あいつか…セル、セルウィーウスだったかのいる星が派手な衣装だらけになっている。オレは創始者だけど、帝国になった今、グラウディウスに譲り渡した。そう口を挟む気もない。だけど株の何分の一かは保有しているという寸法だな」

その女王様とは、セルウィウスのいる星、ジュールが親善調査団として視察に行った星に主城がある。

「それでビックパレスの女王様は結婚しているの?」
「んにや、知らないけど独身貴族だったような。でも発言権がやけにでかい。支持率の定評と手腕は正確だな」

≪太陽の車輪をよびとめて遅らせる女王≫
との異名を持つ女王

女王クリムネア



2


セルウィウスは帝国協会の質の低下にいらだっていた。
「まったくレベルの低い会議に参加した!ブッ!」
後ろの部下数人に愚痴をこぼしている。
「時空警察はおくれているなどと、あっちの本拠地で大言を吐いてしまったというのに。時空警察など最近の情報では猛者を数知れず保有しているという。それに長年の経験に裏打ちされたノウ・ハウ!われらが帝国などハリボテ!まったく協会は腐敗している。頭の悪い連中だ」

帝国の基盤を築いた老王ロームルス。

創始者 ロームルス。
初代皇帝 グラウディウス
二代皇帝 ?

未登場人物がその玉座につくだろうが、セルウィウスあたり帝国の三代目か四代目の皇帝の座に座ることになるのかも知れない。

「あの女王との面会と、グラウディウス皇帝にも召喚されている。地元での任務がたまる一方だ!」
部下がいった。
「ですが、あのアルキメデスがわざわざこの惑星近くまで接近してきてくれるとか。名誉なことなのでは」
「…フン、まあそうかもしれないが、皇帝がじかにわたしになんのようだ?緊張で内臓が病む」

このときセルウィウス、若干21歳。
飛び級で学業を修め、この年齢で統治の任務についていた。



3


セルウィウスは女王クリムネアの主城、ビックパレスの玉座のある広間のまえの扉にいた。
かつて新隊員であったときをおもいだした。
なんのまぐれか、新隊員の自分がクリムネアのまえにいた。
荒れくれものだが腕が立つという兵士が女王の叱責に暴発し、斬りかかった。
どうやってそんな謀反を働いて帝国にいるつもりなのだろう?
おそらくは女王の反対派罰に身を寄せてしのぐつもりだったと想像される。
それより恐ろしいのは、おちつきはらって玉座で腕を組んでいるクリムネアであった。
「ストップシンドローム!」
ひとことそういって魔法の法力をつかった。
あたりが一瞬輝いた。
止まっている。
時間が…いや皆、動いている。
暴発した兵士のみが制止していた。
斬りかかった格好のままで。
こともなげに無頼漢を始末した。

なるほど、頭脳と叡智だけで君臨しているのではないようだ。
セルウィウスは汗をかいて見ていたのを覚えいてる。
無頼漢は処刑された。



4


セルウィウスは扉を開いた。
入口の両わきに赤いヘルメットのような兜をかぶった兵士が二人いる。
アマゾン風の女戦士で緊張した女の声で、「どうぞおはいりください」といわれた。

女王クリムネアのとなりに男性が一人立っている。
腹心の容貌だ。

「帝国協会の会議の報告をしなさい」
女王がそういった。

「ええ、実は…どうも私の手に余るというのか…頭の固い会議でありまして、その…」
セルウィウスは教会の腐敗を訴えた。

「ふむ。不毛な議論を繰り返すだけで、さっぱり解決策が出てこないと」
セルウィウスは背中に汗をかいたが了承を得たようでやや安堵していた。
「それならば、表面的な枝葉をいじっていないで抜本的に根本の幹ごとから変えるように考えて御覧なさい」
「根本の幹を…でしょうか…」
「そうです、煮詰まった議論はいくら表面をいじくりまわしてもどうどうめぐり。なら今まで発想もしなかった基本事態疑ってみなさい。考えてみるだけタダです」
「…ハッ。ですが…時空警察領などでは、数知れぬ猛者たちが揺らめき動いている様子でして…」
セルウィウスがそう進言した。
腹心の起立した男がそれを聞いて興味を持ったように反応した。
「ホウ…貴殿が時空警察領に行ってきたという話は聞いていますが、それほどの強者が…」
「我らが帝国といえど憂いを隠せぬかと」

女王が叫んだ。
「ジェラルド!」
見えないくらいの速さで抜刀したジェラルドは剣をセルウィウスにむけた。
ビシ!

皇申剣!

セルウィウスはエアロソードを抜刀しかけた構えで剣先を受けた。
剣は胸元で制止した。

「スリースライスソード。貴殿!帝国の上位にいるものが時空警察に恐れを見せるような口を開くとは…武心に緩みと受け取られかねん。だが、話にはわたしも聞いているが」

ふたりとも剣を修めた。


その後、ビックパレスをあとにしたセルウィウスはほおを伝わる汗をぬぐった。
「まったく…あのジェラルド…わたしなど泥水を啜ってここまできたというのに…下働きの一つもせずにのうのうと貴族のような地位を泳いでいる。そういうやつは大概、後ろ盾とかそんなものにたよっているが…薄々やつは違う。惨めな思いをしたくないがために血の努力を自分に課しているのだ。敵に地に伏せられまいがために、自ら厳しい修行を休もうとしない。そういうやつだ。わたしも出世が早いといわれる口だが、奴は下っ端作業を一度もしたこともないという。時空警察なら若い奴は手を動かすことからといわれそうなものを…」
セルウィウスの部下はいった。
「エリート貴族のような青年に見えますが」
「やつは…普通の奴はひな壇にあげられて少人数の主催者に祀られると、怖気づいて数の多いその他大勢でありたいとなるのだ。見栄を張って地位が上になどなるより自分は大衆でみなと同じだと。その方が安心するからだ。だがやつはその精神の何分の一もない」
「普通は弱音を吐いて人数の多い方の味方をしますけどね」
「それでは貴族は無理だ。自分の信念を貫ける心。やつが墓穴を掘ったところをみてみたいきもするが、想像するだけで怖くなってしまう。やつでこれなら、自分はどうなるのだと。一種の安心の保険だ。あれだけ強がっていて平然としているなら、みじめな自分など首がとぶのはまださきだとな…ふーやれやれ」
「われわれも、もっと下の人間からそう見られているかも」
「そうだな…奴の悲鳴など聞いて喜んでいると次の瞬間自分が断末魔をあげていることになる…弾よけ…。そう、ジェラルドの悲鳴など世界のないもの五大リストにあげられような」




5


「時空警察と本気で戦争になったらどっちが勝つ!?」
老王ロームルスが夜食を食べながら談笑していた。
ワインをテーブルに置いて、ナプキンで手をぬぐう。
「バカ言いなさい。銀河連邦警察って知っているか!?誰が本当のトップなのか。いない。天辺のない塔が限りなく続くんだ。つまりいくらでも上がでてくるって話さ。たぶん、太古の神が置き土産に残していったんだ。自分たちは姿を消してもっと上の世界に消えたが、構築したシステムだけがのこされた。それが時空警察といわゆる宇宙の則さ。逆らったって絶対勝てっこない。部下の前で絶対口にできないが、オレは本気で時空警察と渡り合えるなんて考えてないのさ。でも、帝国はここまできたからには5600年は飢えることはない。銀河連邦警察とも手を結んだ。リッチでハッピーが長く続くことを願って死ねる…」
ロームルスはチキンに手をのばしてむしゃむしゃ噛みついた。

「でも、おとぎ話と現実の境界はどうなってるの?!知りたいわ」女の一人がいった。
「そうよ。現実って知らない人には不明だけど実際世界にあるのよ。不思議な部屋に何が置いてあるのか」
ロームルスがチキンを飲みこんでワインを取った。
「CEO室にめったにはいれないが、確かにCEOは家具や調度品を毎日目にしてるってな。オレがガキのころ。もう老王っていわれる年寄りだ。若ぶってるところがあるけどな。オレも。聞いた話がある。コンピュータのプログラムやシステムが神や半神だっていう。つまり塔の中にいるオレタチにとって壁が神、あるいは神がでてくる壁っていうんだ」
「誰が創ったの。その壁を」
「ホラ、いわゆる三神の向こうの世界のお偉方」
「気の遠くなる神の向こうの神?」
「だろうな。わけあってぷっつり距離を置いて俺たちを残して消えた」
「…」
「君たち女は現実生活をよく知るが、理論的に知ることが苦手だ。哲学者カントがいいそうだけど現物を肉、設計図を骨と帝国で呼んでいる。設計図を熟知しているやつは確かめなくても分かる。ところが女性は設計図を知らない。物理みたいなガチガチの論理ができないようになっている」

現物を微分すると設計図になっていき、設計図を積分すると現物のようすが見えてくる。あるいは復元できるようになるのだろう。
微分積分をつかってコンピュータでなにか新しいことができるかもしれない。


「それで…」
女たちはワインを飲んだり、チーズを食べたりしている。
「…男のいうことを聞けない女は損をする。男を騙す女も同じ。長距離あるいて手ぶらで帰る。電話で分かるやつは行っても無駄ってすぐわかる。だが、女は男のいうことを聞けないんだ。君たちでもオレより上の男のいうことになるとついていけなくなるだろうな。でも、それでいいのだろうけどね」
ロームルスは葉巻をとりだした。女が火をつけた。
「ふー、それに帝国ではこれも知っている。君たち女性は母なる海だ。原料、行ってみれば粘土だ」
「粘土!?」
女たちはそういって笑った。お互い振り返って顔を見合わせる。
「そう」
「男は?ロームルス、教えてよ」別の誰かがいった。
「経験、あるいは過去、カント哲学に似ているけど、混沌である海から作品や形ある傑作を生むんだ。過去の歴史の蓄積。文明そのものが男性神(アプスー:深淵)なのさ。だから、うんと勉強したやつは偉い。作品を作った奴も偉い。作品を保存(コレクション)したやつも偉い。作品があまりごちゃごちゃすると海と同じになるから整理したやつも偉い。でも、母なる海に帰らなきゃ新しい光は芽生えてこない」
「女性が必要って!?」
「そういうこと。すべてを生みだす源が君たち」
「でもよかったわ。帝国が発展して強い国になって」
「ああ、仲間たちはすごい勢いさ」