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2014年3月31日月曜日

文字だけの設計図で一度も絵画を描かなかった画家、ソルコリギター・ソリィコギッチ







文字だけの設計図で一度も絵画を描かなかった画家、ソルコリギター・ソリィコギッチ



パァンとサアカス番外編







1


なぜ彼は音楽の楽器にもたれかかっているのだろう。
画家といっているからには筆とパレットをもっていてほしい。

要するに彼は少しおかしい人なのだ。
なにも、画家が楽器をいじっても変でもない?
クスリもやっていないのにおかしくなれるところが彼らしいが。
それはそうだが、彼は実際に絵具をのばしたりはしない…。
おいおい話が語られてゆくが。


ある日の目玉焼きはソリコの心を発奮させた。
彼は画用紙店に足を運んだ。
手持ちの金で面白いように絵の具とパレット、筆を4本、スケッチブック。
学生用の道具を揃え、これから一人前に仕事をおっぱじめるかのように意気込んだ。

「ハムを我慢し、ターキーを水に変えれば買えるさ」

だが、準備万端。彼は道具を並べて、満足した。



2


彼は知り合いの画家何人かとつながりがある。
ドアをノックする音が聞こえる。
「ハロー、ソリコ…」
「シニョール…いい絵がある。買ってみるか…」


ソルコリギター・ソリィコギッチはれっきとした絵を描くイリャーヘンに紙切れに書いた詩の断片のような絵画を売りさばく…
イリャーヘンはコインと交換でこの紙切れを買っていき、設計図に従い絵をかく。
「…これなら、銅のコイン一枚だ。それ以上はビタだせない」
「まあ、いいさ。釣りにシガレット一本おくれ」
イリャーヘンは紙切れを眺める。
【二つの画材。人物でも可。よりそう、が反発する。男女なら仲の良い兄妹だ。恋人の図なら磁石のようにくっついてもいい。コンビの男でも反発しながらならぶ。静物で意外性のある絵になる】
「トムとジェリーみたいだ…」
「それをモノで描いてみろ」

薄暗い室内で煙草のけむりがただよう。
「一杯やっていくか…?居酒屋にはつけだけあって払う金がないな」そういって白い小型冷蔵庫をあける。戸がへこんでいる。



半分以下のウィスキーがある。
こきたないグラスについで飲みだす。
イリャーヘンがいった。
「オレはパリの生まれだが…自分がもの心ついたときには、オレはそれなりに広い家に住んでいた。だが生まれた家は、結構高層のアパートだった。あのパリだとかスペインによくある。全部はでかいが一部屋は狭い。それに電気も水道も通っていないような。映画によくあるだろう。あれに家族三人どうやって生活していたんだ!?想像がつかない。それも清潔にだ」
ソリコがいった。
「ナガヤだ。日本の長屋なんか台所がある。ところが流しの出口がどこにいく?当時の人に聞いてみたら、あれがこうなってと説明がつくさ。だが、画家や映画監督なんかにきいてみたらどうだ」
「詰まるか…ドブに木でできたつつがつながっているのさ」
「うちは清潔だった。生活の知恵だけで俺は育てられた」
「当時の人はその常識があったんだ」

ソルコリギター・ソリィコギッチはイリャーヘンの腕をつかんだ。
「!?なにするんだい」
「きみの体内を循環する気を自分に移してみる」
しばらくして、ソリコは苦しそうにいった。
「がほ、こりゃ苦しいぜ。君、片方の肺で呼吸しているぞ。神経を左半身に偏って使っているな。脳もだ、左半分ばかり使って疲れているぜ」
「わかるのか…」
「ごっほ…神経質になって意識がちぢこまっているんだ。僕にもこんな時期があった。夜寝る前でいいから体全体に意識を広げて見てくれ」
「ベットでかい」
「そうだ。入浴中とかな。こりゃぼくの中学の頃だ。ビビって全体を見渡せないんだ。ストレスを感じて戦っていると感じてるな。貝のように心を閉ざして、神経を左だけに閉じ込めて、右半分を見ないふりしているんだ。右の肺も吸っても怖いからすぐリターンしちまうんだ。前の奴は上上下下ってゲームのコントローラの意識がこびりついてやがったな。なんでブロックみたいな矢印にこだわるんだろと思ったが」
イリャーヘンが興奮していった。
「君の体になったみたいだ。気が流れ込んでくるぞ!君の言う通りだ。右半身に血流が流れ出したぞ!暖かい。熱いぞ。疲れ切っていた左半分がリラックスしだした」
「なかなかできないが、人がいないときだけでも全身に気を配って解放してみろ」
「いままで使ってなかったエネルギーに気がついたみたいだ。全身の力を活用しているぞ!あらゆる映像が強烈だ」
ソルコリギター・ソリィコギッチはたばこを吸いながら、偏った血流をどう直そうか考えていた。





3


ソルコリギター・ソリィコギッチはキエフ(ウクライナ)に鉄道で来ていた。
往来を歩いていると、ふと以前と違う違和感を感じた。
「?キエフか…なんだか違うな…いつもと雰囲気が違うぞ」
歩いていると気がついたが、街路樹がいつもより高い。
覆いかぶさるようだ。建物もこんなに高かったか?
まるで飾り付けられたクリスマスツリーが杉の木の根元から斧で木こりに倒され、倒れかかってくるかのような気分だ。

「なんだか、優しくあたりに包みこまれている感じです」
そのうち歩いていると気がついた。
アウトローの野郎から殺気を感じない。
「これでは怖くない代わりに、殺気を感じないので不意打ちをくらったらかわしきれませんー」
そのかわり、髪のめかした女から殺気を感じる。
「はあああん、これは…!女性の体になったようです。往来を歩いている女性の呼吸の型や神経パターンが飛んできてダウンロードされたかのようです。風邪をひきましたか」
※どうやら、飛んできた型をダウンロードしただけで、通信しているのとは違うようである。

上からつるされているアートや単純な色ペンの書き文字に目が行く。
「こんなの単純な色文字だとおもうが、今はきれいに感じる。なんでもクリスマスが年中街中でイベントされているような違和感を感じます」

ソルコリギター・ソリィコギッチはこれなら女の体のほうが楽に生きられると考えた。世間が優しく保護してくれていて、自分は常に頼る側だ。
たかがキエフなのにグレートシティに来たようだ。
「いつから、こんな偉大な街になったんでしょうか。自分は広大で優秀な人の住む街に溶け込んでいればいいのです。どこの女性の神経が飛んできて憑依したのでしょう」

おしゃれしている女性をみるとすごんでいるように感じてしまう。
「ははぁ、ピンときた。女性のおしゃれは今までただの飾りだと思っていましたが…ヤンキーの尖らした髪とか、モノノフの刀と同じなようです。モノノフは刀を持参してもよいが…農民はマゲを結いません。女性同士の序列のようなものがあるとふみました」

街中のアートや絵をみるといつもと違う。
「うん、完全に客だ。ふだん、絵のここがこうとか考えてみるので疲労するが…完全に閲覧に徹している。見てて疲れないしよく見える」

「だんだん、戒めに縛られている気がしてくる。剣で力づくでこじ開けたい気持ちになる」
殴ったり怒鳴ったりで物事が解決すると考えているCEOは多いだろうか!?

女性が並んでいると「自分も並ばないと」と思ってしまう。
女性の習性でしょう。

パソコンがどう見えるのか家電にはいってみた。
「はああん、パソコンはパソコンです。たいして違いありません」
※パァンとサアカスがいつの時代のロシアなのかはっきりしない。
カラフルなペンに目が行く。
力強さを感じる。
「うん…画材を買ってきて絵を描かない自分と同列だ」

書店に突入した。
微妙に足が重い。

普段なら母親にしがみついていそうな男の子の児童が飛び込んでくる。
園児くらいの女の子がピースしてくる。
「なにかの合図かのようです。これはいったい…?」

難しい本に興味がある。
開いてみる。
「これは…!!いつもより四割増に難しいです。中を判読しようとすると目が回る」
非常に疲れる。
婦人雑誌がどう見えるか並んで見た。
「これは…なんとも、外国の…異国の本という感じか」

専門書のところに移動した。
「うん、前世でこういう本を読んでいた気がしますが今はただの壁です」
絵本のコーナーに児童と母親が集まっている。
「児童に魅力を感じる。この子は力強そうだとか、期待できそうだとか、面白そうとか、未来が開けそうです。さっきの女の子が乗り移ったか…それにしては絵本そのものには興味がないようですが」
だんだん頭が痛くなってきた。
「そろそろ、もとに戻るか」


だが、ソルコリギター・ソリィコギッチはどうやったら普段の自分に戻るのか知らなかった、半時間ほどもとにもどらなかったという。