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2014年3月25日火曜日

ステファノのビジネス







ステファノのビジネス







1


ステファノに電話がかかってきた。
「では、明日の二時に応接ルーム199で」
向こうはそういって電話が切れた。
企画はまだ見せるほどできていない。
なんとなく感想をパソコンに入力した程度だった。

当日、応接ルームであった。
ステファノはバインダーノートとペンだけ携帯して来た。
このあいだの眼鏡の中年男性の営業マンはあたまをさげていった。
「それでは」
ステファノは少し慌てたようにきりだした。
「実はプランはまだまったくまとまってなくて」
「そうですか、ゆっくり進行してください」
案外期待されてないのかな、とステファノはやや面食らった。
すこしせっつかれるかと予測していたが無関心な風を感じる。
「実は、テナントで担当のフロアにはいる民間の業者のパンフレットとリストをもってきたんですわ」
「ええ、ハイ」
「ざっと目を通して…」
電話番号や店舗名。
なになにラーメン、和食のこれこれ、ブテック、無印良品、などがリストアップされている。
パンフレットはすでに完成しているが、向こうの業者がきちんとつくっているらしい。
「それできいてますか、アシスタントにひとりあなたに就く予定ですが」
「この仕事に…?」
「ええ、あーまだやってないのか、ちくしょう…、ま、そのうち話が上から来ると思いますんで」
「アシスタントって軍人の?」
「いえ、民間ですな」



2



ステファノはデスクにもどったがパンフレットと資料の山を机に置いた。
「ふー、テナントの出入り業者かー」

さらに次の日、女性のアシスタントと男性のアシスタントの二名が派遣されてきた。

ステファノはいった。
「さすが時空警察。でも二名も来てなにをさせたらいいんだ?」
とりあえず、クリアファイルにパンフレットを整頓させてもらうことにした。
「わたしが目を通したパンフレットを机に置きますからファイリングしてください」
「ハイ」

男性の方はネットの業者のホームページのリストをブラウザにお気に入り登録させた。
ページアドレスのノートソフトにリスト化するより機能的だと判断した。

「えー、仕事って言ってもこんな作業しかないけど~」
向こうはよくわからない顔をした。
「ノルマもしめきりも無いようなのでのんびりやりましょう。実は自分でも何をやったらいいのかわからないので」
ステファノはふたりにそういった。
なにをするのかというより、することを考えるのと同時進行なので、交通量は抑え目だった。

デスクの電話がなった。
「イエス」
テナントではいる業者の一部の営業マンが仮想責任者であるステファノに挨拶するという。
「わたしに……?」
「ええ、では明日の三時にいつもの199で。お願いしますわ」



3


応接ルーム199

向こうの業者とお茶を飲んだ。
ステファノ、業者の営業二名、いつもの彼の四人でソファにかけている。
いつものメガネの彼が最後に締めくくった。
「生体系を宇宙ステーション・コスモにつくろうということなんですわ。まあ、最初はメガロポリスから資金も物資もうけとりますが、一度軌道に乗ったらあとはもう生態系のように独自に収支のカラクリを…。ミドリの植物も酸素も、肉もエネルギー生産も、貨幣も…。まあ上もそういっておりますが、どうぞよろしくおねがいしますう」

挨拶にきた業者の営業にお菓子をもらった。
(自活している独自の生態系か…)
ステファノはアシスタントのふたりにいった。
「休憩のとき食べて下さい」
「ハイ」
お菓子は水ようかんとモナカだった。

休憩のとき聞いてみた。
「ふたりは前はどこの部署にいたんですか」
「アシスタント部門にいます。いろんな現場にアシスタントとして派遣されます」男性のアシスタントがいった。
「プロのアシスタントをめざしていますので」女性のアシスタントがいった。
「へえ…そうですか」

ふたりもアシスタントがいるがする作業がない。
「楽にしていてください、アハハ」と笑ってごまかした。
ふと見ると、髪の毛をほじくり返している。枝毛を整えているらしい。
隊長のときはやかましいが、ビジネス部門に疎いステファノは黙認した。

(サーベル〈剣〉がないと迫力でないかな…ハハハ。でもまあこのふたりはよくやってくれている。それより企画も作業も思い浮かばない。ふたりに企画を書かせたらアシスタントでなくメインがあっちになってしまう…)

「え…と、ふたりは今日のお昼はどうするのかな?」
女性アシスタントがいった。「わたしはお弁当なのでオープンフレッシュルームで食べます」
「ああ、えーと10Fの」
男性のアシスタントがいった。「ぼくは1Fのコンビニで買ってきて食べます」
「あー、それなら今からお昼にしましょう。それがいい」
切りがいいのでお昼休憩になった。

午後もどってくると、パソコンにメールが来ていた。
みるとビデオファイルが添付されている。
つけると工事現場の映像だ。
「おー、宇宙空間で工事している」
パソコン上で厳密にシュミレートされたロボットがソフトウェアによる完全自動で工事を進める。
重力のない空間なので、ロボットたちはスケートのようにすべったり加工したり組み立てている。材料を運ぶロボットがガスを噴射している。

メールによると、何組かの段階があり、区切りになると完全停止する。人間の作業員が現場で確認作業をする。
確認だけはロボットではできない。
データを電波でおくって検査するのもあるが、現場確認は手作業だった。

ステファノは映像を無言で見ていた。



4


ステファノはパソコンのノートソフトを立ち上げ、かきこんでいた。
小売り店は買ってきた品物を並べてさらに売る。
自分で製造しない。(製造する小売もある)
製造はメーカーという。
つまり小売業者は手数料で金を稼いでいる。
サービス業とある意味一致する。
つまりはだ、客が喜ぶサービスを用意して、手数料をいただくと。

ステファノは小売業の経験がない。
そのため頭の中の論理だけで考えて実践で通用するかは不明だった。

アシスタントのふたりにはショッピングモールに実際に足を運んでもらい、意見文を書いてもらうことにした。
それを企画の参考にする。

彼らはいった。
「単純作業でも楽しくできるくらいでないと上にステップアップできませんから」
「なるほど」
ステファノは逆に教えられていった。

コピー用紙一枚の意見文を男性のアシスタントが書いた。女性の方は四枚にわたっていた。
「ふん、ふーむ、ふむふむ」

また応接ルーム199で挨拶をされにいった。

「今度は素材セットをもらってきましたよ。帰りに好きなのをもって帰って下さい」
ソーメンセット、サラダオイルつめあわせ、鰹節セット。それと仕事になるパンフレットの束。