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2014年2月28日金曜日

エドアールの修行
















1


エドアールは自分の住んでいる下宿で考えた。
世の中大概のことはトレードオフにできているんだ。
レバーを右にいじれば、ある何かが手に入る。そのかわり…別の、反対の何かが入らなくなっていく。
だから、やりくりなんだ。
余っている方をセーブして。
バカな人たちって欲張りなんだ。幼稚。いっぺんに両方全部ほしい。
そうやって無理をして失敗している。
どっちかあきらめるんだ。
両方狙うと必ず失敗したり罰があたったり、人から憎まれたりする。
欲しいものを計算して絞るんだ。
幼児の時から学ぶべきだ。

現実には無理があると。全部をねだると全部手にはいらない現実があることを学ばせるべきだ。
嫌な思いをしないと欲しいものが手にはいらない。嫌なことを全部避けてほしいものだけ手に入れようとすると気がつかない水槽の穴から幸せが逃げている。

ちょうどいいかげんにレバーのメモリをチョイスするのがいい人生だ。
オレはそう思ってこの歳まで生きてきた。

だが、計算高いというのは否めない。
それに芸術的にシンセサイザーのつまみをねじるのが習慣になり、うまく生きているようだが、消極的だともいえる欠点があると認識している。
アルフレット。
金髪の大男、あいつなんか両方欲しいものを無理してほしがるように見える。
その結果無理をして傷だらけになっている。
スマートではない人生だが底力というのか超人のようなスタミナを維持するまでに至っているように見える。
ストレートの勝負で力負けは確実だ。
オレもあいつも自分の人生の不都合を他人のせいに置き換えたりしない点で一致している。
人生のシンセサイザーのレバーやつまみをいじっているのは自分本人だと認識している。
外部の環境に左右されるのはある程度事実ではあるが…むしろ、大自然が課した修行と思った方が確実に力が上がる。

話にきく時空警察のトレーニングエスカレーターに挑もうか。
いや、パワーアップしたほうがいい。
もっと絶大な力が欲しい!



2


夜、ベットで寝ていたエドアールは夢の中で炎の馬にのった炎の騎士がやってくるのをみた。
(…!?炎の…)

気がつくと炎の女王が支配する国につれていかれていた。


「エドアール殿。しばらくこの部屋で暮していてくだされ」
そういって洒落た砂時計のようなビンをわたした。
部屋は何もない質素なかんじだが清潔でほこりひとつなかった。
「これは…」
「液体の貨幣…この炎の城で何かと入用になるかと。詳しい話は後で女王がいたすでしょう」

ビンには赤い液体がはいっている。

一日が過ぎた。
呼び出しはこなかった。
「いつだったか…同じようなことがあったな。ちょうどこんな感じだった。そうだ、レベルラハムの城で…!!」
エドアールはオーブリーを思い出した。
あのときは彼が一緒にいたんだった。

自分たちの世界でいうインターネットのような水晶球に液体のお金を使うと映画からなにから、ネットのように娯楽が手に入る。

「くそっ、ゲームセンターと同じだ。コインを使い果たすと何もできなくなって退屈する!」
液体のお金は注いだりしなくていいが使った分だけ液が減っていく。
「腹が減ったな…」

【無料広告】と書かれてレストランのCMが水晶に映る。
ドアを開くと外の世界は抽象画のようにシンプルな造り物の世界のような城だった。
白い階段や廊下、雲がすぐそばに見える。
どうやら高層階らしい。
レストランはすぐ見つかった。

やはり液体のお金を支払う。
ウェイターやウェイトレスをみてエドアールはおもった。
「生身の人間でないな。オレタチの世界でいうロボットみたいなかんじだ…」
スパゲティとチキンを食べた。

ベットで寝て起きると液体のお金はチャージされていた。



3

城の王間では炎の女王とパミラ・ミミトンという女性の側近が相談していた。
「では、あのエドアールという男をよぶのですか」
「そうするしかあるまい…」

エドアールは城を探索していた。
すばらしい絵がかけられている。
通路から絵画のように滝のように落ちる滑り台が落下している。
「完全にオレタチの世界と物理法則が根本から違っているな…」
おもいきっておちてみる。
「アトラクション会場がここでは日常のようだ」

落下する滝にのみこまれて下のフロアにおちる。
「と…」

迷路のように通路がつながる。

ソードショップがある。
「このへん同じだな」
はいってみる。
お菓子のお家のようだ。

炎の剣
1600ニフラム
刀身が炎で燃え盛る剣。火炎を手裏剣のように飛ばすことも可能
ニフラムのビン
400ニフラム
赤い液体のお金を入れるためのビン
ビームサーベル
750ニフラム
元祖、ビームサーベル。エネルギーの出力はライト正宗より大きい
ファッションリング
450ニフラム
ファッションのための装身具


「おっ!炎の剣か…いまある金は…たりないな…」
ある地点にワープポイントがあって、のると元の場所に戻った。



4



ある日、エドアールはレストランでイチゴケーキとコーヒーだけ注文して食べていた。
振り込まれる液体のお金の量で買える楽しみが制限される。
ラグナクロクから持ち物として、オーバーランスやポータブルプレイヤーなどもこっちにきている。
音楽を買ってプレイヤーに入れて聞いたりした。
そして、炎の女王から呼び出しが来た。

ウェイターとかと同じようにロボットというかんじの番兵がやってきて通告した。
そして魔法の力で王間の前の扉に立っていた。

炎の女王とパミラ・ミミトンはおしゃれなカーテンで見えないよう仕切られている。
「わたしは…男性と会うことはまれなのだが…」
炎の女王は話しだした。
エドアールは耳にイヤホンをつけて突っ立っていた。
ランスは部屋に置いてきた。

「まず、聴診器!はずす!」
炎の女王は怒鳴った。

エドアールは無造作にイヤホンをはずしてポケットに手を入れていた。
「…」

「実は用があってそなたをこの世界に呼んだ。協力してもらいたい。わたしは炎の女王。ここにもうひとり女性がいるが、側近のパミラ・ミミトンという」
カーテンに何となく影だけ映る。
エドアールは無言でうなずいた。
「…それで?…倉庫番でもさせようってのかい!?」
「ぐぬう、口を慎め」
「自分の宿題をオレにとかせて感謝の気持ちもないのかい!?あんた、人質もとってないんだぜ!?あんたのいいなりになるとおもっているのかい?」

エドアールは思った。体がやや軽い。自分は強要されている。つまり使われているのと同じだ。オレみたいなやつを使うのは重いだろう。自分も採用されにくいということでもあるが。あの女王はそれなりの玉だ。オレを使って重くなっているはずだ。自分で…いわば自作自演で動いていると重い。CEOと従業員を兼ねているようなもんだからだ。こき使われると、作業だけになるから体が健康状態みたいになる。ボスは重くなる。とくに自分の手に負えないような相手をこき使うと、余計重くなる。あとから体に来ることもある…

カッとなった女王は魔法を唱えた。
「ウィンダム・ファイア!!」

金属を燃焼させたような青白い火焔が燃え上がる。
パミラ・ミミトンは口を開けて驚いてのけぞっている。
横にせまいが高さがズズーっとある炎だった。
「…おっと」
エドアールは足をずらして軽くかわした。
火焔は燃え盛っていたが女王が手のひらを閉じると消えた。
燃え跡も床に何も残らなかった。

(チッ!レベルラハム二世…アリスタンダーと違う魔法か…)

自分の今のレベルだと、こんなふうに侵略される。いつかあった時空警察のジュール。あのくらいの力を蓄えるともう侵略されない。たとえ捕虜でも従えるのが負担になりすぎる力量だからだ。ザコのままだと簡単に征服されてしまう。でも、働くところがなくなるが…
女性の就職(嫁入り)も同じメカニズムか…

エドアールは身軽な感覚でこんなことを考えていた。


「ハハハ、生きのいい小僧だ。おまえ、私の力がないとここから帰れないよ。それに…褒美は出そう」
パチンと指をはじいた。
魔法の力で四角い台があらわれ一足の靴がのっている。
「エノクの靴」

【エノク:創世記に見えるアダムの孫】

すてきな靴だった。
(おおっ、欲しいぞ)
「前金も渡そう。この金で炎の剣でも買うがいい」
液体のお金がチャージされた。



5



カインの息子エノク。あるいは人類の七世代目エノク。彼は神と親しくなり、死なずに天にあげられたとか、天上でメタトロンという強大な天使となったとかいう伝承がある。
この小説の作者はメタトロン伝説とかあまり好みではないし、人間のエノクが修行もとくにせずにメタトロンみたいな巨大な天使になったというのは無理があると考えている。

だが、エノクの靴はすばらしく、エドアールはぜひ手に入れたいと考えた。

炎の剣も手に入れた。

「ここはコインからどのくらいのロケーションなんだ!?それとも三次元的に距離や位置を特定すること自体がナンセンスなのか?」

異世界としてのロケーションは定かでないようだった。
時間の流れも一定していないようだ。


カーテンをつきやぶり、あの魔法、ウィンダム・ファイアが襲ってきたとき少し見えた。
アートすぎてややイカレタ魔女のような女。美人なのはそうかもしれないがキテレツすぎるファッションの女に見えた。白雪姫にでてくる魔女のお妃みたいな。
実際魔女なのは確かだ。
カーテンは魔法の力でもとにもどった。

仕事の内容は…モンスター退治とかそういうのにきまっているだろうが…

相変わらず、チャージされる液体のお金でネットのような水晶で時間をつぶしたり、レストランで食事したり、おもちゃのバスのようなコンビニをみつけて煙草をふかしたりして待機していた。

スカイグライダーで途切れた通路を滑空して遊んだりした。
テトリスのように通路がガクンガクンうごいて組み合わさり新しい道ができたりする。
だが、魂ある人は見当たらない。




6



ジャイロダイン

ソードショップで客が来なく、イスに座っていた。
アルフレットがマハリクにいった。
「今の時代、エジオンでどんなTVがはやってんの?」
マハリクは答えた。
「ん、私もあまり見ない。TVってじっと見るものじゃなくなんとなくみるものだから…」
「ああ、つけっぱなしにしてなんとなく聞いたり見たりする感じか…」
「あんまり待ち構えて見ないかも」
「ふーん、そうだね。アリスタンダーがおそってきたらどうするの?」
「ん、わたしもアリスタンダー嫌いだから…」

そのとき客が来たと思った。
アルセウスだった。
「アルフレット?いるか…」
マハリクをちらとみて入口にやってきたアルフレットにいった。
「誰だい?あの子は」
「ん、ああ、まあ、いいから」
そういってアルセウスと外に出た。



7


悪くない。エドアールは思った。
炎の女王なら使われてダサくならない。

炎の剣のおかげで魔法の使えない自分でも仮想的に魔法が撃てる。
【ファイアボール】

自分がいきなり最強の戦士でなくていい。そんなのは当たり前の出来事だ。誰でも最初はレベル1だ。時空警察などに行けば猛者がごろごろしているだろう。
だが、オレはあきらめたわけじゃない。準繰りパワーアップすればいい。

上がいるからありがたいし、やりがいもある。