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2014年11月6日木曜日

World planet huger ワールド・プラネット・ハンガー 1






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World planet huger
ワールド・プラネット・ハンガー

閉ざされた世界










ギ・ド・モーパッサン「脂肪の塊」、ロシア名作「ドストエフスキー」などをモチーフにつくられた読み切り小説。
餓えた世界。


1 アルヘレンのアレクセイ


時空小説ともパァンとサアカスとも、ワインと革命とも違う異世界。
そこは40年ほど前から太陽が弱り、熱量の不足と食料不足に苦しむ閉ざされた世界。

惑星アルヘレン…

「よるな、よるな、お前たちが来ても役に立たん。それどころかこっちが喰う糧も不足しているんだ!」
言いがかりをつけるように群がる若者や若い女、歳とった群衆。
ただでは帰るかというように粘りこく、因縁をつけてくる。
話がかみ合った会話とか、そんなものは向こうは期待していない。
ただ、糧を欲しいがために、無駄とわかっているのかしつこさだけは熱量が豊富だった。

「ああん、わからんやつらだ。ここにきたってなにもないんだ。オイルや食パンや金…いや、最近は貨幣もあんまりあてにならんくなってきているがなあ。石油やガスをもってくるやつがいたら、確かに物々交換できなくもないがな。気違いみたいになってしつこいぞ、うせろ、バカども。お前らが群がったって太陽の不足も畑もおがらん!」
若者の一人がいった。
「ちっ、どうも本当に食料もないらしいぜ」
「バカが!だからないといっている」
「ハハハ…だからって、話がわかるようになるか。俺たちは河童なんだ」
「くっ、この!おちょくって」

本当は侮辱できるだけでありがたかったのか、群がる群衆の心理は不明だった。
だが連中はひきあげていった。
食パンにもありつけなかった。

「しかたない。薄い紅茶に角砂糖一個溶かして飲むか」
「それで飢えをしのぐしかないわね。夜にはパンにありつきたいけど」

向こうから罵声がきこえてくる。
「こらあ、角砂糖も取り上げるぞ。何も食ってないふりして角砂糖もっているじゃねえか」
「そりゃあ、俺たちの取り分だ」

群衆は自分たちの方が飢えているといいながら食料を隠し持って地味に食ったりしていた。

太陽は今日も暗い。


コンビニエンスストアの店員が店前でどなった。
「卵とココアの大売り出しだよ」
「本当かババア」
群衆はタンパク質にありつきたいのと、あったかいココアで体を温めたい思いで近寄った。
「ああ、そのかわり売り出しはサービスだってことを忘れないでちょうだいよ」

なにかのときは、ちょいお目こぼしや助けてほしいという商魂のようだ。
「ああ、わかっている。いくらだ」
「おお、この値段なら今持っている金で食える」
「がれきの木材に火をつけろ!ココアをあっためるぞ」

たちまち火が起こされた。
安売りの卵とココアは金にかわって店員のお婆さんのレジにはいった。
群衆は卵は夕食に、ゆで卵にするか、目玉焼きにするか考えていた。
「塩も買っていこうかしら」

ココアを買った男たちは缶を火であっためた。
「甘くてあったかいものにありつけるぞ」
寒さは死なない程度に体を通り抜ける。
その微妙さが神の思し召しかと考えると惑星アルヘレンの民たちは心痛にさらされる。

あっためたココアをすすりだす。
だれかが本をだした。
「新刊か」
「いいや、だいぶ前の印刷だ。でも面白い」
物々交換が始まった。
胃袋と寒さの餓えをごまかし、読み物で精神的な餓えをもみたそうとした。
「ありがたい。読み物が欲しかった」

そのとき声が聞こえた。
「こらあ!火を起こしている!」
女の憤った声が響いた。
「役人も…!」

「国がぐずぐずしているから」
「働いて生産するにしても、どうにもならないだろ」
「そうだぞ、お前ら役人がちゃんとしろ」
「図太い女だ」
役人はそれだけ言って、勧告だけして去っていった。

「働けばいいっていったって、がむしゃらに走って、気がついたときは落ちたら怖い綱の上をわたっていたらどうする!?結構新聞やネットでみるぜ!?」
「怖くて綱にしがみついている奴がたくさんいる」
ココアの最後を飲みほしながらいった。

この惑星は科学技術は現在の地球と同じ程度か、まだ上の技術もあった。
だが、太陽の衰えは難しい課題であった。
すべての生命の源は太陽から降り注がれる。
石油も原理的に太陽のエネルギーだろう。

それが枯渇してしまっては…

そのときぶらっとアレクセイが近寄ってきた。
「火か。あたらせてもらうか…」
青い色のサンタの帽子みたいなのをかぶり、着古したジャンパーをはおって、リュックに荷物を詰めて歩いている。

「さっきの、みんなとりぶんあったから、腹膨れてケンカにならなかったけど…チーズパイのひときれのとりあいだったら、膨れツラしてケンカになってたはずだぜ」
アレクセイはそういってリュックを地面に置いた、そして火のそばに腰かけた。
「いつものことだ」
「おごれっていったって無理なときは無理だろうな」
「ハハハ…こんな空じゃ」
アレクセイは力弱く笑った。

太陽は力弱く光っている。

「おれはさ…映画とか全部見ないで、いや乗ってきたら全部行くけどさ。途中までしか見ないんだ。そのかわりたくさん数こなすんだ」
「ふん…」
「そのほうが得した気分になるんだ。“おち”がきになるやつってそんなないだろ」
「まあな」

がさごそ、おちつきのないやつがいた。
アレクセイは冗談半分に怒った。
「なんだよ。落ち着きがないなあ。こっちまでざわつくだろ」
「おちついていられるか、うすらぼんやり!なんだか役人どもが小うるさいぞ。あいつらだ、ざわついているのは」

惑星アルヘレンは地球より小型の惑星だが、国は一カ国しかない。
統制国家として一カ国が全域を支配していた。
だが、長い歴史ではそうではない。
分裂、内乱、統合、戦国さまざまな形態をとり進化した。
40年前の太陽のほころび…
それ以前189年前から一カ国の統制がつづいている。
太陽が暗くなったときの国家は大変だったらしい。

国民も大変だが…
地球と違う民族の歴史…





2 救世主の若き女王、マチルダ


アリアロネンの国がとった作戦はマチルダを女王として祭り上げるとこだった。
たしかに才能のありそうな女性。
だが、若い女の子に国や世界が救えるのだろうか?

つれてこられたマチルダは用意された王室に案内される。

「マチルダ様のご来場」
あたふたと役人が動く。
ハーモット伯爵が王座にすわらせる。
「いきなりですまない。マチルダ女王閣下」
「ええ、ですが…」
「まあ、今日はゆっくりとしていただく。立て込んでいる仕事はゆっくりほどいていくことになる」



アレクセイはスマートフォンをいじっていた。
「スマホか」
「ああ、和風。将棋スマートフォン。キーが王将とか歩になっている」
燃やせる角材はまだ転がっている。
「へえ、どういうボタンだ」
「ファンクション(機能)キーに近い」
「設定するのかい」
「夕暮れまでここでたむろさせてもらうかな。旅館にあんまりはやくいってもいれてくれないし」
「旅しているのかい」
女が煙草を吸いながらきいた。
「うん。そうだ」
「ロビーでまたせてもらいなよ」
「うんにや、レストランで何か買わされる…」
アレクセイはそのまま夕暮れまでぐずぐずしていた。
「妹は?」
「死んだ…」
「なぁ、何の旅?」
「城によばれているんだ」



次の日の朝、
マチルダの前にアレクセイがあらわれた。
「この人は?」
マチルダはアレクセイをみると横にいる兵士に尋ねた。
「は!ただいま大臣を呼んでまいります」


「おれはな。呼ばれてやってきたんだ。あなたお姫様か」
「いえ、女王の任務を務めることになりましたマチルダと申します」
「……」
ハーモット伯爵がやってきた。
「アレクセイか。君がそうか」

お茶が配られた。

「それで」アレクセイがいった。
「将棋指しに政治をまかせると?将棋指しが幕府を動かすと、作戦とか知恵がつづいているときは、まだ何かしら話が進むかもしれねえ。まだ、ましな世界になるかもしれない。だけど、戦略のレパートリーが底をつくとじわじわ動けなくなるぜ」
「だが、君の物事を組み立てるノウハウというのか技法を買われて抜擢されたんだ」
「天才は技術屋や理論家に劣る。最初からだいたい正解をつかむ力を神に与えられている。だけどな、煎じつめた技術や理論には勝てなくなるんだ。プロっていうのはそこまで煮詰めて追及する」
「天才だと最初がいいだけに後の努力をさぼるのでは」
マチルダが口をはさんだ。
「それもあるだろうな…でも、誰でも何かしらの才能を持って生まれてくるし、何かの分野では天才の天分を持ち忘れている。でも、落ち着いて長い間研究や努力した結晶のノウハウで天才に勝てる。それがオレの持論だ」
ハーモット伯爵もお茶を皿に置いた。
「それで、プランの断片はいくつかある。まあ、それもゆっくりとだが…ざっとはなすと、原子力発電機関を宇宙空間に構築する!宇宙空間なら原発事故も安全性が地上よりはるかいい」
アレクセイがいった。
「なるほどな。暗くなった太陽の熱量をそれで補うのか」
「そうだ。太陽にカンフルをうつという作戦もあるにはある。あるいは原子力で発電するのではなく第二の太陽のように爆発させるとか。草案だが…」

現実の世界だと中国が研究開発しているという宇宙空間での原子力発電だ。

「おいおいやっていくが…技術者のはなしでは星から遠いほど安全だが…発電した電力をとるのに難しくなる。電波にして受信するのはロスがでかいし、電池をロボットが半自動で回収するのも往復のエネルギーがかかる。だが、うまくいけばエネルギーがただになる。星も安定する」
アレクセイがいった。
「エネルギーはどこまで行ってもタダにならねえ。効率で安くはなるけどな。でもインターネットは無料になりえる」
マチルダがいった。
「インターネットは…政府が無料にしていますが」
「ときどき、抜き打ちで請求させる」アレクセイがいった。「それにネットで稼ぐともっていかれる」

話は打ち切りになった。

昼飯を食べにアレクセイが城の食堂で食べると出ていこうとした。
マチルダが声をかけた。
「先に城に来て知っていますが、あの食堂は有料で高いですよ」
「将棋のタイトルをとった賞金がある。ハハハ…3分の2を税金に持っていかれたけどな」





3 エンジニア、ホビン



「天分が与えられていない分野に関しては技術を会得して技能でカバーだ」
アレクセイは笑ってマチルダにいった。

「それにしても、将棋のタイトルの賞金…半分どころか3分の2もとられてくやしくないのですか」
「まあな。ハハハ…でも、チェスの勝負から離れたいとき、手を休めても生きていける社会だ」

そのときハーモット伯爵が新しいメンバーをつれてきた。
「はじめまして、ホビンです」
「新技術を開発している技術者だ」ハーモット伯爵がいった。
「エンジニアの職務を果たします」


ハーモット伯爵を入れて四人のメンバーで王宮の会議はすすめられていった。
ホビンはこの暗黒の世紀末に新技術を研究している連中の一部であり、ハーモット伯爵により王宮とつながりをえた。
ホビンはたまに会議に王宮に来る。あとは自分たちの研究所で何かしているらしい。
アレクセイが考えたのは、
大気圏をこえるのに爆発すると危険なので、バラバラに宇宙におくる。誘爆しにくい方法で。
さらに原料とロボットを宇宙空間に送り、あとはソフトウェアを地上で組んで、飛ばす。
つまりいったりきたりしなくても、電波でソフトウェアが書きかえられ、ロボットが原料を使って宇宙工場のように新しいものを作る。
地上で何か発明されると、それを送らなくても、デジタルな電波の送受信で向こう側に新製品が作られる。
新技術など向こうで作るのだ。

「なるほど」
ホビンはハンディコンピュータにメモしていった。
アレクセイはいった。
「原子力で危険で人間は行きたがらない。かも」
「だから、ロボット?」
「そうなる」

「太陽にカンフルを撃つ作戦というのはどうします…」
マチルダがしずかにいった。
ホビンは「それは自分たち保留の技術じゃないので、ぼくは」と話から外れた。
「プランだけほったらかして、あとにする」アルクセイはそういった。



4 ギャル、スピカ


誰がつれてくるのか。
スピカという女がメンバーに加わる。
アルクセイとマチルダは常勤のように城にいる。
ハーモット伯爵は時々顔を出す。
だれが中心にいて起動しているのかよくわからないが、一応歯車は回っている感じだ。
その間も暗く寒い国での生活は動いていた。
温かいスープもゼロではない。
パンも。塩の味がするパンは寒いこの惑星でがつがつ貪られた。
たった一個の王国が一個の球の星を支配する。
指令がいきわたらない。
物資や頭脳がナーバス(神経)を通して伝わらない。

スピカは技術とは無関係だった。
「おまえ、それじゃなんのためにここによばれてきたんだよ」
アレクセイはそうスピカにそういった。
知らないが、役人に任務だと催促されたというのが答えだった。

マチルダの役目は乏しい糸のようなこの仲間たちの惑星を救う計画に意志力をもって壊れないよう維持することだった。
マチルダの女王にという話は、その意志力を評価されてのことだった。
目に見えない意志力。噂なのか、わかるものにはわかるのか。
政府も生き残るために必死で情報網を張り巡らしていたのだった。
そのマチルダですら嫌気がさすことがあるという。
「こっちがお世話になって、しかも恩賞をよこすというのです」
マチルダにしては怒っていた。
「プンプン怒りしていると、本当に怒っているときわからないですよ」
技師ホビンがいった。
マチルダは別段怒っていないとき、周囲を凍りつかせるような念を発するときがある。
だが、マチルダはそのとき正真正銘怒っていないのだった。
マチルダはいう。
「その反対が腹が立つのです。これだけ嫌な思いをさせておいて、こっちに見返りを要求するのです」
スピカがいった。
「仲がいいってそういうことあるよね。でも…反対だと」
アレクセイがいった。
「仲良くなれるつながりっていうのか、最初からうまくいくやつって種類が決まっているのさ。ハハハ、いくら努力してもうまくいかない種族とは大損させられてばかりみたいに感じるからな。どだい意思疎通は不可能だぜ」

スピカが料理をこさえるといったとき、アレクセイは、
「おまえ、このご時世にギャルみたいな格好しているけど、料理なんてできるのかよ。畑違いに見えるけど」
スピカは手早く支度をして料理をこさえた。
じゃかいも、ワイン、白パン…

あるとき、王間にきたとき、アレクセイ以外そろっていた。
「なんだよ。この口にききにくさ。イーハートーブなのは確かなのに。政府の中央にしてこれかよ」
スピカの哲学はこうだった。
「話しやすいメンバーって、いつのまにかすぐに、なんだこいつかってなるよ。口ききにくいってかなり長期間新鮮でいられる」
マチルダもいった。
「ガラガラ崩れ去らないよう、神がこのチームを選んだのでしょう」









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