ページビューメ-ター

2014年11月21日金曜日

World planet huger ワールド・プラネット・ハンガー 3






3


World planet huger
ワールド・プラネット・ハンガー

閉ざされた世界









8 ぬるま湯から極寒の地へ


マチルダ達は小康状態をへた。
アリアネロン国の国民ともだんだんおりあいがついてきて、雪解けの春のようなぬくもりが少しずつのびてきた。
「私たちも頑張っているということでしょうか」
マチルダが少しうれしそうにいった。
「お人よしすぎるぜ。世間知らずだ。そんな甘いもんかよ」
アレクセイがペチカの薪を積みながらいった。
「でも、結構気を許してきているよ」
スピカがそういう。

もともと、アリアネロンの市民はどちらかというと朗らかな連中が多いのが特徴だった。
だが、アレクセイはいった。
「俺たちなんか何も達成しちゃいねえ」

そのアレクセイですら、ぬるま湯でカミソリの切れ味がにぶっていたと一か月ほど後で思い知ることになる。
「ベザスの地方へ?」
「ああ、ハーモットの旦那がいけってさ」

ストーリートリッチという桃のブランデーの瓶をマチルダにわたされた。
「いってらっしゃい。あっちは寒いと聞きます」
「ここから行って帰ってくるのに宇宙旅行だぜ」
しかし、なめられない。他人に対してではなく、自分に対して。
緊張感が危険を伴う宇宙旅行なみだ。
恐怖感を伴うために大事業を遂行するという迫力を感じていた。
楽勝の旅なら子供の遊びに感じてしまうだろう。
山道をこえなくてはならないうえ、距離的にも遠い。
燃料不足で餓えにも遭遇しかねない。



9 軍隊のバスで



「軍隊の占領車両バスでいくけどな。途中安心できるポイントがいくつかある」
強がったが内心アレクセイは不安になった。

バスの中は体格のいい男が何人か乗っている。
かさばるウィンドウブレーカーのような防寒具を着て、サンタ帽をかぶり、手袋を装着して。
でぶっちょを見てあったかそうだと考えた。
寒さが体をきしませる。
バスのエンジンからくるヒーターをさぐる。
拳銃も携帯せずにいると、周りに比べ体格で劣るアレクセイは腰が頼りない気持ちで弱気になった。
ホビンに教わって買ったハンディコンピュータをみる。
案件ごとにノートやネットのきりぬき、データがまとまるようにできている。
二つの案件がアレクセイのハンディコンピュータに構築されていた。
ひとつはアリアネロンにもどったら実行しようとしているプラン。
もうひとつは今の旅の記録。
カメラで窓の外の写真を撮り保存した。

バスは走り続ける。
窓の外の太陽は、地球でいう白夜のような暗さだった。
揺れ方も最初は新鮮だったのが…体に疲労を感じさせるようになってきた。
体の苦痛。座っているだけで揺られていても、窮屈だったり疲れてくる。
ゆっくりリラックスできる中継点についたら手足をのばせられるが…
聴診器をあてるように、神経を体の内部の苦痛に走らせると、だんだん自分は具合が悪いのではないかと臆病になってくる。苦しいのは当たり前なのだ。大したことない。気にするな。いっそ苦痛を無視して我慢したほうがつらくない。だが、ある程度聴診器で体の声をきかないと危険でもあった。


10 宿泊地での


ベザスまでの結構な距離。
中継点の宿泊施設にやっと着いた。
道は険しい。
「あー、やっと休める」
乗り心地の芳しくないバスからおりて、施設にはいる。
周囲のごつい男たちも一緒だ。

オニオンとガーリックのスープがでた。
結構な料金をとる。
がつがつみんなすすった。
鍋はあったかかった。そして完全に空になった。
パンはひときれしかあたらなかった。

ひと心地ついた。
マチルダがくれた酒には手をつけなかった。
旅の記録をインプットしていると、女将にがつんとあたられた。
最初何が起きたのかわからなかった。
だが、だんだんアレクセイははらがたっていきた。
「おいおい、料金支払っている客にそれかよ…」

向こうは、手慣れているのかぬるま湯で切れ味の悪くなったアレクセイのすごみなど、かんたんにすりぬけてしまう。
「チッ」
アレクセイは横を向いた。

アリアネロンこそ、一種の緩慢な雰囲気が流れ、愛想の一つもあるが、この土地では通用しなかった。極寒の地を思わせる。
女将はあっちで夫婦喧嘩をこんどははじめている。
(胃薬と頭痛薬を飲まなきゃ眠れねえぜ)
アレクセイがそう思っていると、またやつあたりをされた。
面白くないのは匠のようなそのすり抜け方だ。やり返そうと力んでもアレクセイの数十倍ずる賢い。

「な!?なんなんだよ。てめえに常識はないのか!」

面白くない思いで寒いベットで眠りこんだ。
マチルダ達が懐かしく思われそうだ。

朝、洗面してバスに乗るとき女将がまた顔を見せた。
アレクセイはこっちからふっかけた。
指をボキボキ鳴らし無言で睨みつけた。
「フン!」
向こうも狂面づらをして、さも面白くない思いをしたというようにムカつかせる顔をしてきた。

「おい、ボウズこんなところで面喰ってちゃダメだぜ。首都からきたんだろ!?もっと南に移動するとこんなもんじゃないぜ。首都は反対側からするとお坊ちゃんの国なんだ」
「フン、バカ野郎にケンカ売られたくないぜ」
「政府がこんなんじゃあな。太陽も影っているし。なあ、ベザスにいくんだろ!?首都の精反対までいったら凶悪犯の砦だっていうぜ」
「そりゃあ…おれも世間が狭いぜ。いい勉強になった」
「なかなかいい。鼻水が凍りつくだろ」


                                                    
11 ベザス到着


道は悪路から、だんだん通常に舗装がきいた道になってくる。
バスの外から風のうねる音が聞こえてくる。
それは自分には計り知れないものが空を支配して揺らしているかのようだった。
あまりに自分とはかけ離れた冷たさ。ビューとうなる恐ろしげなストームの音。
標高の高いところの冷たさといえば、アルプスの空に近い地点で雪崩が起き、落雷のような音とともにすべてをおしつぶす。
低いところでは、南極の氷山がぶつかりあい、くだける。
大自然の厳しさは父でもある。
そして甘い。
クールなアイスクリームの冷たい甘さだ。
無情なる大自然は父であり、それに甘えるアレクセイの心は共鳴した。
優しいとともに厳しい大自然が圧倒的で無情に自分を殺してくれる。
それは死への甘美さだった。無常だが命をとり楽にしてくれる。
どうあらがっても勝ちえない轟音の鳴る雪の塊や雪山の厳しさ。
その雄大さは、それは命をたやすく奪ってアレクセイを楽にしてくれるだろう。
そこに、大自然の持つ優しさを感じ取った。

寒さ対策に毛布をもってくればよいのだろうが、アレクセイの体力だと荷物に重い。

ベザスについた。

ゲノスという男と知り合いになる。
占いを道端でして稼いでいた。
「このご時世に占いなんかで稼げるのか」
「まあな、よく、あたるからな」

アレクセイは占ってもらった。占いというより、医師とか拳法の師範のようだった。
ゲノスはいった。
「だいぶ、気が弱くなっているな。不安な長旅だ。なれればなんともなくなるさ。オレとあんたで、つるめば強気になるな。男はそういうものだ。だけど気が大きくなって暴れちゃいけないぜ」
「…自分は地元でも緊張してるってことかよ」
「…緊張を解くのは無理だな。ここは首都じゃない。それだけだ」
「…」
それから、ひとこと、みこと話して別れた。
「また会おう」
そういってゲノスは笑顔で手を振った。



12 焼き肉小屋


ベザスの街は首都と違うがそうバカみたいに違わない。
スキー場のロッジふうの建物に入る。
中はいろんな店舗がなかにきれいに入っている。
悪いうわさからすると、そう首都と違わない。

通路をはさんで離れのような焼き肉小屋にはいった。
鉄板焼きを食べる。
ひとり用の肉を焼く鉄板がかわいらしくテーブルに埋め込まれている。
鉄板はよくつかわれていて、脂がしみ込んでいて黒くて分厚い。
だが、面積は一人用なので狭く感じる。

アレクセイは寒さのために焼酎のような酒を一杯だけたのみ、焼き野菜と肉をだしてもらった。
隣の男は日本でいう力士のようなおおきさで、ろくすっぽ肉を噛まずに丸飲みにしている。
どんどん、肉が焼けるごとにたいらげていく。

(このおっさん…いくらタレが強くしみ込んでいるからって、肉を丸飲みにして怖くねえのかよ)
アレクセイはそう思ったが、喉も詰まらせずどんどん喰い、さらに二人前追加している。
アレクセイは酒で冷えた体をあたためながら、肉をよくかんで味わって食べた。
タレがよくしみ込んでいてうまい。焼き立てのため肉の熱さが口を熱くする。

その夜、宿に寝ていたアレクセイは角棒で頭をガツンとやられた。
「うっ、いってえ、どいつだ!?」

頭から血が出ている。
賊は巧妙に消えていた。
「くそ、やっぱ危ない土地かよ」









0 件のコメント:

コメントを投稿