夢十夜(後編)
1
第八夜
その日は朝から曇りだった。
城の中でも、昼間っから灯火やランプやローソクがほしいくらいであった。
朝のそんな早くない時間、ぼくがメリーサ女王の王座のまえにでかけると、女王はうなだれてうつむいていた。
「女王…おは…」
声をかけようとすると、女王は陰鬱な表情で顔をあげた。
天気が暗いせいかな、とはぼくでもおもわない。
「ああ、あなた…ワンウリー城にきてながいわね。…そろそろ、ここをでて里に帰る支度をしなさい。わたし、あなたとはいられないわ」
それだけ言うと、けだるいような陰鬱な表情のまま黙りこくった。
夢十夜といいながら、昼間の出来事だが、コインや旅先の時空警察、グレートシティやグラウディウス帝国のハイテクシティや魔人との決戦。華々しい出来事の多いそれらの国でのエピソードに対し、ここ惑星バルハルでの、ワンウリー城でのエピソードは辛気臭く、だけど、幼稚に感じられないせいか、もとの世界に帰った後、夜に酒を飲んだ時などこの時代のことを思い出し、新鮮な空気に浸ることがよくあった。
そういう意味で夢十夜なのだ。
都合のいいコインの世界などの出来事は小学生がはしゃいでいるのをでかくしただけみたいに幼稚に感じられなくもないのだ。
ここの頭の神経というより、内臓に負担が来そうなおもぐるしい、ハッピーとも違う空気は、知的にすら感じられる体験だった。
「…そうします。メリーサ女王。お世話になりました」
すこしだけ、機嫌が直ったように軽い表情にもどった女王は、リバーサイドドラゴンを再びたずね、もとの世界に帰る方法をきいてはどうかと打診してきた。
ぼくはかなり気圧されていた。逆らえない空気。女性特有の…なにかよくわからないが、神経質な不機嫌な意思決定。
だけど、こっちにしても、ハイそうですねと言わざるを得ない。
支離滅裂なアホな命令をしてこないところにメリーサ女王に対する安堵と好感を持てた。
ロビンが遅れてきたが、僕は女王の気分が悪いといって下がることにした。
女王はぼくらを呼びとめた。
「ああ、あなたたち…いえ、あとここにいるのも少しね」
そういっていた。
2
第九夜
「亡霊船!?」
女王はうってかわってカラッとした空気の表情になっていた。
「そうなの…海岸のほうの漁師たちが、恐れているわ。あなたたちの最後の仕事ね。いってらっしゃい」
夜…それこそ、第九夜は十夜だ。
海岸にロビンと二人で向かった。
ローソクと火打石をもって砂浜まで歩いた。
「夜の海は寒いずら。風が冷たいぜ!?」ロビンが寒がった。
「船をいつかは浮かべるんだろ」ぼくはそういって歩いた。
海辺に打ち上げられた木っ端が乾燥して落ちている。
その手頃なのを選んで、ブーメランのように海に向かってぶん投げた。
「その歳で、子供みたいずら」ロビンは僕(オーブリー)をみてあきれていった。
そのとき暗くて視界のきかない、夜の海の水平線あたりに鬼火のような明かりがたしかにみえた。
「ああ、あれずら」
3
「…ホントだ。確かに見える」
それとともにエンヤートット、エンヤートットという幻のような声が聴こえてきた。
「おい聴こえるか?」
「…ああ、恐ろしいずら…死霊の声ってかんじだ。かすかに」
なんというのか、遠くの声で幻聴か、風の音が間違って耳にはいるみたいに聴こえる。
死人の苦しさみたいな、怨念のような、あの世に行った現世と違う亡者の声のようだった。
ぼくはラッキーストーンをにぎりしめた。
「怖くないずらか」そういうロビンは落ち着いていた。
「アンデットごときでそうびくつかないさ。実際ゾンビをふっとばしたこともある…」
目に見えて襲ってくるゾンビと違う、はかない恐ろしさみたいなものはある。
夏の怪談で蒸し暑さが吹き飛んで背筋が寒いような。
あっちの世界からお呼びが来たような。
「で、対策はどうするんずら」
「…筏で船まで行くのも無理だ…」
「落ち着いてきたずら。害はないようだし」
「ああ」
そのとき風の乗って飛んでくる、宴会やお祭りの盛り上がって波が飛び散るみたいな、「ワッ」という、何か大変なことになったような声が聞こえたきがした。
あの世とこの世の境目で、あられもないことになったら怖い。
「…ひとごとだけど、やめてほしいずら…」
「…」
遠くに浮かんでんでいるような青白い船の幻が帆先の方からばっくり、海に沈んだ。
頭から海に顔を突っ込むように。
オン…オン…オン…怨
「やらせだ」僕は強がった。
「助けてやれないずら」ロビンは小石をひろって海に向かって投げた。
4
第十夜
「いよいよ、お別れね。明日の朝出発か…もし、縁があったらまたワンウリー城にきてね。そのときは私はもういないかもしれないけど」
「え?」
「大神との約束…この土地で女王を務める代わりに…任期を終えたら、華やかな土地に転生してもらえるの」
「そうずらか…」
「だから、あなたたちもしっかり。人生は修行なの!」
リバーサイドドラゴンの川にロビンと二人で向かった。
ロビンはできればコインについてくるという。
リバーサイドドラゴンが川からでてきて、事情を話すと、タイムテレポートの魔法をぼくらに向かってかけた。
ものすごい衝撃を感じた。
痛みではない。
決定的に神経が活性化した。
気がつくとエカルテの野原にロビンと二人倒れていた。
ぼくは家に帰らず、クラーク王に会いにいった。
「なんだって!?オーブリー!?バルハルにいってた!?」
「結構な長旅でした」
このときはまだ知らなかったが、長旅は連続してこの後のぼくの人生に降りかかってきた。
「そっちの弓矢の狩人は?」
「ロビン…森の勇士ロビンです」僕は紹介した。
ロビンは城の一室を借りて住みこむことになった。
ぼくといっしょでフリーに雇わられる、庸兵のような立場でエカルテ兵とは別にエカルテ王国に勤続することになる。
「エカルテか…お話に出てくる世界みたいずら…」
ロビンは結構感激し、エカルテの風土を新鮮に体験していた。
異世界に来てしびれるという感じらしい。
「ワンウリー城でも都会だって感じなのに…森の小屋で暮していたオイラには刺激的だな」
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