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2014年7月23日水曜日

プランB






プランB







1


キングレオビルにある宇宙ステーション・コスモ運営局の朝。
休み明けの出勤。

ステファノが早めに出勤すると受付はもう来ていた。
「さすが早いですね」
「おはようございます。ええ、まだ窓の外は霧がかかっているみたいですけど」

ステファノは勤務の態勢がどうなっているのだろうとちょっと考えたりした。

自分の部屋にはいる。

その日には、時空警察本部にいたときのアシスタントの男女が訪問してきた。
「あれ!?ひさしぶりですね」
「おひさしぶりです。一週間後からこちらのオフィスで勤務することになりました」
「えー、そうですか」
「それでその挨拶に行って来いと」男性の元アシスタントがそういって笑った。

それから、昼過ぎヤマダがドアをノックした。
その前にステファノのパソコンにメールが届いた。
[相談したいことがあります。都合がよければそちらの部屋に伺いたいのですが。今日中に。ヤマダ]
ネットのランが無線でオフィスに走っている。
セキュリティは根っこの部分で専門的に管理されているらしい。
内部の犯行には責任を持たないといわれているという。
やはり、業者に金を払ってまかせているという。

会議というほどではないが“ヤマダ”とステファノで話し合った。
時空警察の調書、『逆ノアの箱舟』から教訓を得るという。

ステファノはその調書を一時間前に読んでいた。
ヤマダのメールから知り、時空警察の本部にIDをつかってワードプロセッサのファイルにまとめられた調書をダウンロードした。

ステファノはイスにこしかけたまま、にっこりとほほ笑んだようにヤマダにはみえた。
「…インターネットは目的のページを探すのに労働するといっていいほど手作業をこなします。ネットは海なのでサイトを釣るという漁業が発生する。TVはチャンネルが限られていると選択という程度で、労働までいかない。ウェブにサイトが山ほどあるの何乗もあると海であり、掘り起こすという別の仕事がでてくる…」
「うーん、」
「つまり、情報の海になると“仕事”しないと情報をつかめなくなる」
「なるほど…それで?」
「情報は気体の法則に似ていると思うんですよ。つまりは熱力学に。
ランチを撮った写真をネットにあげる…情報を広い空間にときはなっているんです。いいのか悪いのか。逆に秘密の閉鎖的空間での特訓。公開しない情報はパスワードとかのセキュリティをやぶってまでこじあけようとされる。擬人化していう必要もありませんが、狭いピストンに情報をいれると、情報の方から出ようとするのか、情報が外部に逃げようというアクションがおきるようです。反対にランチの写真を公開すると、広い空間に情報を浮かべるようで気温が下がるという話があります。気になるほどか微妙ですがランチの味が薄くなる可能性とかまで。
話が変わりますが、ネットやTVというのは外の世界あるいはその情報に触れるということです。いわば、うちの中にこもってないで外に打って出たいという願望の一部あるいは全部をかなえる手段でもある。例えば小学校低学年の家族とか、人と触れているのは確かだが家族です。兄弟。だんだん人とつながっているというより閉鎖的に感じたりする。そこで外部に打って出たいという欲求ができるわけです」
「職場でもありますね。職場でこもると外部に発信したくなったり」
「試合で外部の連中とゲームをしたいなどでてくるでしょう」
「うん」
「本来の話ですがコスモなんか、時空警察から独立して打ち上げられ、閉鎖的になる可能性は怖い」
「私もそれを考えていたんですよ。ステファノさん、この逆ノアみたいに…」
「イエス。ですが、誰かれなく他人と接触しすぎることを不謹慎、あるいは無作法と考える時期があった。極論するとみだらということもあるかも。現実的な危険にさらされる。天国みたいに安心しているのも幼児までです。実際に現実的困難や危険にさらされる。だれでも接触する相手を自分なりに選択して考えるのが当たり前なのです」
「うん」
「ですが、さっきの気体の法則ですが、密閉した空間に缶詰になるのも、不都合がある。コショウのびんみたいに空気穴がてんてんとあるくらいが好ましいのかと」
「実はですね。ステファノさん。コスモの最初のなんていうのか、原理というのか、時空警察と独立して運営し、自分たちの世界を築こうというのがあります」
「イエス、なんとなくわかります」
「政治的に時空警察と独立し、連携は取りますが第二世界のメガロポリスみたいなイメージを持つ計画でしたが」
「閉鎖的はいきすぎで、風通しのある外部との流通のある世界が好ましいかと…」
「ですが、現実は思い通りに行きません。この調書のように利権を喰いすぎたりすると、外部の世界はもう戻ってくるなみたいな圧力をかけてくるものかもしれない」
「イエス…」
「最悪打ち上げられたはいいが、独立したはいいが、コスモは世界から浮いた状態にされるかも」
「ある程度はそれをがまんしなければない。独立するというのはそういうことだ。覚悟がないなら最初から計画は失敗でしょう。ですが、外来者の訪問や侵入をある程度歓迎しないと…エチオピアの女王カンダケなど、プライベートをそう外部にアピールしない。ですが痕跡程度は外部とつながりを持ち情報を流すのです。王家の秘密保持もあるが全くの密閉も。逆に売り物にするとどうでしょう?それが完全にバットだとしたら、すべてのプロ活動はありえない。仕事や金を稼ぐこと自体罪だといえてしまう…」
「なるほどなあ、選択ですね。外界とつながるのに流していい情報と悪い情報。人とつながるにしても…これからよく考えてみましょう」
「イエス」




2


キングレオビル30Fのオフィス。
宇宙ステーション・コスモ推進チームの職場。
発足直後は神経質に凍りついていた。
ステファノでさえビビりながら仕事をしていたが、気温が高くなったせいか、正反対にだれてくるムードが蔓延しはじめていた。

ヤマダも自分の部屋で女性秘書にいった。
「あー暑い。いやダルい」
「それを何とかするのが、ヤマダさんの仕事ではないでしょうか」
「んーそうだよな」

ステファノは喫茶店のとなりに小型書店ができているのを見て驚いた。
(まえは、あそこに何があっただろう?そうか…インテリアとなんとなく開いたスペースだったか。喫茶室をほんの少し狭めて書店に…、でもなぜオフィスに書店が?)
立ち読みしてみる。

【戦争と結婚】
【トロイア戦争】
【プランB

『戦争と結婚』を開いてみる。なにやら戦争のような闘争により、男性が求婚するエネルギー障壁をこえることが多いなどと書かれている。


しかも、オフィスの従業員は月5冊まで10%をオフィスの経費が負担してくれるサービスがあるという。
本の付録のインテリアが本の無い棚に飾られている。
みずみずしいハイドロカルチャーの植物があり、彩っている。

「どちらかというと、ここの仕事に関連ある書籍に偏っているな…」
知識を啓蒙して従業員のインテリジェンスを高める作戦かもしれない。
あるいは賢い本がオフィスにならんでいると、知的能力がにぶらないおまじないのような。

従業員の女性が小声で「いらっしゃいませ」と静かにいう。
「…すみません、おねがいします」
「ハイ…」
『戦争と結婚』を一冊購入した。

ステファノは自分の部屋にもどるとイスに座った。
企画室長ヤマダから内線電話がきて、会議になった。
コスモ・コントロール室長と三人で狭いがクールな会議室に集まった。

「ヘイ!気温が暑くなって職場も打ち解けた。それはいいが、なんだか気だるさが職場を覆っている。こんなはやくにばてていいのかね」
「…」
「うーん、慢性的にピリピリしているのも限界あるのもわかるけど、ちょっと暑いかな」ヤマダがそういった。
「知的に頭が働かない時期って確かにありますが…エアコンで調節できるものでもないでしょう。だるさはだるさで過ごせるよう慣れないと…」ステファノはそういったが、無責任な発言だったかな、と少し咎めた。

「物理的とか規則で対応していると、それ自体で消耗するからな…でも、なにも対策を考えないでいいものでもないしな」ヤマダはそう発言した。

所長がいった。
「コーヒーを飲んで頭をカフェインでさえさせるのもOKだ。だがすぐコーヒー漬けになってきかなくなる。有意義に過ごしたいと欲張るもの程度があるが、実際にコスモを建築している建築プログラマーと宇宙土木工学チームや工事のスタッフに合わせる顔がないぞ」

結局対策をワープロで書類にして署長に提出することになった。

「やれやれ」
ステファノは自室に戻りパソコンを立ち上げた。
アイデアの参考にするため、ニュースをみてみると、時空警察特別防衛隊・ランクBCのアルテバランとの戦闘のことがでている。
「!ランクBC。活動している…ランクAの発足はどうなったのだろう…」




3



ヤマダはデスクのパソコンに向かって対策を書きはじめた。
「あれなんだよ。受験のときの夏休みの夏期講習。夏休みにおんなじ学校行って授業と変わらないじゃんって。メンバーがスカスカなだけだったよな…夏で暑いから窓開けて。あれ?なんで夏の学校って蠅一匹も入ってこないの?」
秘書は黙っている。
「あれなんだよ、シャーボとかスマートフォンとかデスクトップの壁紙変えるとか、一時的に効果あるけど、蒸し暑さにきかなくなるんだよな。頭さえさすとかヒント手に入れようとして、ネット漬けみたいに。あと、あれか赤ちゃんいる家とか、肩身狭くないんだよ。自分にも権利があるっていう気になる。暑くてだれるのとちょっと違うか」

秘書がいった。
「コンピュータも暑さでスローテンポになりますが、インテリジェンスはやっぱり熱に弱いのでは」
「冬だったらガリベンできるかって、そうはいかないよな。頭の思考と意思がストップしたら、教科書もうはいらないもん」

オフィスではパソコンを前に固まって動きが取れない従業員が40%ほどいた。
頭の中が空白になり、意欲が減退していった。
それ以上意欲がなくなるとケンカごしになるかもしれなかった。

「そうならないだけ、まだいいと思います。ですが…」
「まあ、いい日も来ると思うけど、スパイラルに向かわないといいけどなあ」


一方ステファノは…

表計算ソフトでデータを閲覧していて気がついた…
(予算…?もしかして職場のやる気が減退した時期と予算が補われた時期が一致している…)




4


ステファノは考えた。
「論理的なだけで現実を含めてない結論だが、人類は常に飢えてないとシャープでクールでいられないということになってしまう…!!」

所長とヤマダと会議室に集まった。
ステファノが発言した。「ええ、ですから予算の一部を返却してしまいましょう…!」
所長は驚いていった。「なんだって!?バカげている。予算なんてあまったって返せるものか?もったいない」
ヤマダがいった。「…なら、予算の一部を不動産とかみたいな資産に変換して保持するというのは…?それでは効果がない?」
「わかりません」ステファノがいった。

予算がたっぷりすぎて、飽満になり、クールを維持できなくなる。
ステファノの理論はそれだった。

オフィスでのイライラは止まらなかった。
手掛かりはできたが、実行するにも予算を捨てることなどできない。
無理に頭を働かせようとすると、まるで罵倒されたかのように精神がいらだつ。

「ゲームでの熱狂なら面白いのですが…」
いさかいが始まっていた。

所長とヤマダ、ステファノも責任者としておそれ慄いた。
「…冷静なものはあと何人いるのかね。管理職から頭を冷やせと号令をかけるか!」所長もいきどおっていた。
ヤマダはいった。「予算ってそんなに大きいんですか」
「イエス、なんといい加減なのか、時空警察はリッチなのか3年分まとめて予算が入っています」
3年分!」

悪意みたいな目に見えないものがオフィスに漂っている感じがしていた。
一次的なものならよいが、グレートシティもその周辺も気温の高さと精神的エンロトピーの崩壊の模様がつづいていた。
ながくつづくと、職場崩壊につながる。
「ヘイ、冷静なうちの職員がどうした!?」所長はあせった。
「うちだけじゃないな…グレートシティ全般のニュースでも熱くなりすぎている」

次の日とうとう職員どうしのケンカにステファノは遭遇した。
険悪さはただようが、原因は目に見えなかった。
(オウ…ここで「お互い冷静にいきましょう」などと仲裁に入ったら、自分も巻き込まれてしまう…かといって自分はここでは仮想責任者だ。それが職業だ。アルテバランのようなモンスターじゃないんだ。プレスローラーで破壊して止めるわけにいかない…時空警察の資本は増えすぎたのかもしれない)

あるいは、また例の如く、エンロトピーを崩壊させるモンスターの仕業か?
恐怖を感じて怖気づいているステファノに対し、恐れの神経が不足しているのか神経が怒りにむかっている職員のケンカを止めるのは大変だった。





5



会議室でステファノと男性秘書。ヤマダとその女性秘書の4人が集まって話していた。
ステファノがいった。
「通常業務を2時間カットしてオフィスとデスクの整理整頓をさせてみたら…」
「うーん、おちつていたらいいけどなあ。いまのゆでダコみたいになった職場じゃ」
「頭のたたき合いの一歩手前に見えますよ」ステファノの秘書がいう。

所長が入ってきた。
「私の先輩の上司にきいてきた」
ステファノもヤマダも(そんなひといたのか…)と思った。
(時空警察は広し…)

所長がいう。
「コーヒーを一杯入れてくれ。やはり予算を土地みたいな資産に変換すると、全体的な経済で血のめぐりが悪くなったり、支払いが滞る可能性があるらしいぞ。わたしは経済の専門性はないが、きいたはなしだとそうだとかいう。だから…収入源をいくつも用意するのが正解なんだとか」
ヤマダがいった。「なるほど、株とかもそうだけど」
所長がいう。「自転車操業なんだ。遠慮して稼がなくていいなんていったら、自転車はどうなる!?」
ステファノがいった。「イエス、常にこいでないと倒れます」
「それだけじゃない、左右どちらかに偏っても倒れておしまいなんだ。予算に余裕があるなどといっているとすぐ使い果たしてすっからかんだ。どんな金持ちでもだ。だから少しでもいいんだ。小口に稼げる収入源みたいなものをようして操業してないと」
ヤマダの秘書がいう。「私も思います。資産なんて相対的なもので…みんなと権利の背丈比べなんですよ。これだけあったらもう十分なんて落ち着いていられないんです」
所長がコーヒーをすすった。「明日にもこのオフィスはじり貧になる。金が余っているなんて考えては。それよりこげばいくらかはいる自転車をもたなければだめだ」
ステファノもいった。「資本とか相対的なもので、不変なものではないのですね。クールになるには自転車操業して必死にならないと倒れるってまで予算がなくなるしか」
「バランスだな。すこしでもクールで知的な職場にしたい。でも金を捨てるのは無理だ。エンジンのメカニズムみたいにくりかえし運動だっていうことだ。そこでわしはキングレオビルの31F29Fのフロアの地上げをしてもらってコスモ計画のオフィスにすることにした」

ステファノがいった。
「オフィスも地上げですか…」
「二階建てですか」ヤマダの秘書がいった。









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