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2013年12月24日火曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第五部



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Another War  ―もうひとつの戦争―



Another War  ―もうひとつの戦争―











1


アルアロリアを乗せた移動戦艦がメガロポリスに向かう。
時空警察ではその対応に追われた。
「宇宙船格納スペースのVIP用駐車場の予約を入れておけ!」
「どのくらいの規模の戦艦で来るのだ!?」


ヴィクターはタナトス・パレス・ホテルの専用スィート・レストランでアルアロリアとその両親と会う。
ホテルのロビーでジュールがヴィクターに忠告した。
「お告げだよ。食べ物は喉につかえるだろうから、お茶とか飲み物にしとけってさ」
「…ああ」

正午に近い時間。
宿泊客の外出による混雑はおさまっているといえるが、外部からの客も多く来ている。昼食や打ち合わせなどでホテルを活用する客でにぎやかだ。
メガロポリスの首都グレートシティ。そこにある時空銀行直結のホテル。
VIPが宿泊している情報は流れていないはずだが、要人の警護の警備者やガードマン、ボーィやドアマンの動きや人数がわずかに違う。
ホテルに詳しいものや関係者、従業員は気がついていた。

アルアロリアたちはタナトス・パレス・ホテルに幾種類かあるスィートルームに宿泊する。
グラウディウス帝国からの要人としてデコレーションルームが用意されていた。

ジュールと別れ、エレベーターにヴィクターは乗り込む。
エレベーターガールに階(フロア)をきかれ、VIP専用フロアと答える。
ヴィクターは証の提示を要求され提示した。
「かしこまりました」

チン
ついた。

ゲートがあり、磁気カードを読みこむ。
さらに通路にボーィが待っている。
証をみせると「お待ちしておりました。ヴィクター様」といわれて通された。

そのVIPフロアは彫刻を兼ねたアーチがあり、園芸的ではあるが無意味なスペースなどがとられている。
半立体画のアートがならぶ壁。彫刻の銅像が並ぶように見せかけている。
横の窓からさすお昼の日差し、品のよい絨毯が敷き詰められている。
誰も人の気配がない。
専用レストランは奥だ。
窓辺にはプチトマトが栽培されていた。


ヴィクターはやや緊張してきた。
鼓動が早まる。
意識するとまた早くなるようで、深呼吸した。

向こうが時空警察領に来訪するのだから、自分はひとりでいいと決めた。
初顔合わせの初対面だ。
ロビーでさっきジュールにいった。
「オレのおふくろも、行儀悪いところは行儀悪いからな…」

向こうはまだ着てなかった。
専用レストランは夜のコンビニのようにかなり明るかった。
外の光が暗い室内をまぶしく照らしているのか…?
係の人がいて、少し落ち着く。
全部自分一人で仕切ろうとつい気が焦る。

すぐ後にきたアルアロリアとその両親。
測定した身長はヴィクターのほうが高いだろうけど、ヴィクターにはアルアロリアが大柄の女性に見えた。服装のせいもあるのかもしれないが、ヴィクターは一目見てパニックのように冷静さを失った。

アルアロリアの胸元のダイヤモンドの宝石が共鳴して光っている。
ヴィクターの力が上がった、精神が上がった、知力が上がった、魔力が上がった、勇気が上がった、上がった、上がった…

核融合反応のようにあたりが爆発して輝いているかのように感じていた。
ヴィクターが舞いあがって狼狽しているので、レストランの係員と向こうの両親とが新郎に気を利かせてうちきりとした。

飲み物も飲んだのか残したのか記憶に残らなかった。
衝撃だけ受けたと感じている。
30000ダメージ受けたより、心と体がグラグラ揺れていただろう。
ほとんど無意識のうちに降りたのか、或るフロアのエレベータの出入り口に並んである化粧張りのイスに腰掛けてうなだれていた。
ジュールに助けを求める体力もなく沈黙していた。
げっそりした人がよくああいうイスにうなだれているが、このときのヴィクターも死人のようだった。

アルアロリアのほうも胸がいっぱいになりスィートルームに引き上げた。

「ハイ」気がつくと、会議室のようなパレスホテルにしては質素な控室なのか部屋にいた。
ジュールがぬるめのお茶を入れてくれている。
だが、ヴィクターはいった。
「いい、飲み物も入る気がしない…」

ジュールは立ったままイスでうなだれているヴィクターをみていた、がいいだした。
「…シンデレラの王子様はなんでシンデレラに動揺しないんだい?」
ヴィクターはお茶を口まで持っていったが気力が足りなくてまた机にカップを置いた。
「一介の田舎ざむらいには荷が重すぎたでござるか…」ジュールはそういいながらも休ませた。

メガロポリスの詩人が雇われた。
彼は学校を中途退学したあと、貧しい暮らしをしながらも詩を切り売りして生計をたてていた。
食いつないでいるだけあってちょっとした有名人であった。
“メガロポリスの乞食詩人”といわれていた。
「評価されるのは死んだあとだな」口の悪い友人はそう冷やかしていた。
その彼が雇わられた。

丈夫な模造羊皮紙に銀の尖筆(せんびつ)で書かれた。赤いモロッコ革の表紙を絹糸で閉じた。
新郎側、新婦側、ホテル用と三枚創られた。

〈恋の情熱に、焼き咲かれ、脱力せし若者よ。恋の謌とともに記憶に刻まれよ。世すぎて老年になりしころ、もう一度、恋の葡萄酒をあじわえりけり〉


帝国グラウディウスでも宮廷芸術家に作詩させた。

〈情熱につぐ情熱の息吹き。恋の羅針盤も狂いみちあやまたる。広い航海(ふなたび)に飛び出せしは無情なり。晴れ渡る海上の景色は稀有にみられぬ〉

「これは…見慣れない書体だな」
宮廷芸術家は答えた。「書体ごと新しく考案しました。詩を美しくレリーフさせるこころみでございます」

メガロポリスの若者詩人はこれを聞いて笑った。
「僕の詩は文字だけでの勝負だ。こっちには絵の具だのデザインだの道具が何もないんだ。イタリックだのなんだの書体にこだわるのは反則さ。アートとしては認めるが詩はぼくの勝ちだ」
貧乏詩人はこうもいった。
「僕が死んだら詩が台無しになるんだ。僕が死なないようせいぜい仕事と金をくれよ…」




2


VIP専用スィートの窓から下のほうにレストランがかろうじて見える。
人は影ではあるがチラホラとみえる。
アルアロリアはVIPあつかいされ、裏口から通されることが多いが、隔離されている、あるいは仲間に入れてもらえないと感じることが多かった。
侍女によると、人の多くいるところも善し悪しがあるという。

スペシャルゲスト用のロビーが部屋の外にある。
時空銀行の頭取ではないようだが、「お偉いさん」とタナトス・パレス・ホテルの支配人が挨拶に来ている。
アルアロリアの両親が話をしている。
「この絵はグレートシティの画家が描きまして。彼は今はもう絵をかいていないんですが…」
「素晴らしい絵だ。どうどうとして見ごたえがあるな」
「本当、大きくて飾ってある場所も的確に感じますわ」

額縁にはいった大きな絵画。
「よければ絵画展がホテルにあります。彼に絵を描かせる会というものもありまして」

窓の方に行って両親が訪ねている。
「あの不釣り合いに見える建物…下が細いのに上にでかい頭みたいなでかい物が乗っているが。そんな遠くないのにトリック撮影みたいに遠くにかすんで見えないか…」
支配人が答える。「あれはですね。反重力装置が見えないワイヤーのように補佐してまして。つまり地震でも何でも揺れても支える技術が…」
「みえないワイヤーか」
「さらに、上部の建築物は空を飛ぶようにできております」
「なるほどそれで」

窓の外は高い。それに向こう側に見ごたえのある高いビルがならぶ。
見えそうで見えない人影がみえるが、これも計算して作るのだろうか?
あっちの建物では別の人たちが別の何かの用事でなにかしているのだろう。
それぞれのイベントに都合があり、ひとが行動している。

蜂蜜入りの菓子がおいてあるが誰も手をつけない。
侍女も二人付き添ってきている。




3


ジュールはいった。
「どうするんだい。新婦側が時空警察領に逗留するのも、一週間とかだろ?」

おりしもパンドーラという稀代の傑作が話題になっていた。
宝石のブレスレットで今世紀、無比の作とある。
「あれでも見てきたら?」

ヴィクターはいった。
「さて、どうするか。食いものはまずい。なれるまで、か…」

アルアロリアの両親も支配人たちから聞いて「ぜひ見たい」といっていた。
だが、「パンドーラの名の通り、人間で第一級の貴婦人のために制作された腕環でして…2/3が神1/3が人間のアルアロリア様には不釣り合いの作かと、存じまして」
結婚に縁起がやや悪いという。

ジュールがいう。
「高いらしいよ。王冠一個や二個する(クラウンという桁の金額の単位がある)らしい。泥棒も狙うだろうな」
「パンドーラか…」



4


帝国グラディウスにおいて貴族といえる立場のフォイエルバッハ。
歳は四十をこえている。
壮年といえ貫禄がついてきているが、まだ若者の雰囲気も多い。
やはり騎士として剣を磨き、時空警察のソルジャーのように戦闘能力もそれなりに高い。

が、その彼が帝国の基盤を創った、創始者といってもよいロームルスに呼び出されている。
老王とよばれ、グラウディウス帝に実権をゆずってなお独自の権力を維持している。
帝国軍とは独自の身辺警護の武装兵をいつでも動かせるばかりか、なにより帝国の国民全体の支持が絶大だった。軍人からのあこがれの支持が強い。
それに、頭脳というかノウハウ。
実権を握っているグラウディウスからすれば、自分の力でどうしょうもないとき、あてにできるのが前任者ロームルスの知恵だった。
全部自分で始末できれば首を垂れる必要もない。
だが、こんな巨大になった帝国を牛耳るに際し不安がないわけがなかった。
小惑星の国ではない。
帝国で謀反がおきたら?そこまでいかなくとも動揺したとき自分の力だけでは心細い。

恐れられかつ国民の支持を受けている引退してなお権力をほこる老王。
当のグラウディウスでも議会の連盟の承認などに決定権は薄い。
大事を動かすにはやはり議会にかけるしかないのだ。
だが、反対派もいるのが事実だ。
引退してまで建国者といえど、でかい顔をしすぎるという批判。

フォィエルバッハは緊張して手が震えた。
ドアを開け中にはいる、大型のベットによこたわる老王が暗く見える。
「フォィエルバッハ参上いたしました。老王。この度のお呼び出しはどのような御用件でしょう?」
「おお!よくきたな。体を壊してこの通り半分寝ていることが多い。健康は大事だ」
影になってみえるが、書類をサイドテーブルに放り投げると、ビンを取って飲みだした。
女が数人ベットの横に立っている。
介護というほどでもないが世話をさせている様子だ。
「…」
フォイエルバッハは何をいわれるのだろうと息を飲んだ。

「ハッハッハ、硬くなるな。硬くなるな。ここにいるのは我が妻たちだ。老人に女が集まるようでは国の先が細い。結婚はしているな?フォイエルバッハ四十いくつのはずだ。あー」
「…いえ、もうそろそろと心得ておりますが」
「あー、そうか、そうせかす気もない。気を長く持ちたまえ。帝国の繁栄はここまできたら5600年は燃え尽きない。突発的な現象でもない限りな。ハハハ、それでアルアロリア嬢と時空警察の結婚の話だが、わたし専用の諜報機関に調べされたが、なぜグラウディスはわたしに何も連絡してこない!?」
「ええっ!?そ、それは」
「さっき、ここにいるのは妻たちだと言ったのは、誰も口を漏らす奴などここにはいないという意味だ。グラウディウスがわたしをあてにしないで独自でやるのは構わん。そのくらいの気概があって困らんからな。だが、不可思議だ。隠すようなことでもない。寿だぞ。わたしが絡むと婚姻に不吉か。そうか…そこまでいわれるならしかたもないがな。ハッハッハ。お前の様子を見ると何も知らん様子だな。グラウディウスの側近のはずだが」
かなり青い顔をしてフォイエルバッハが立っているのに気がついた。

女の一人がいった。
「ブランデーでもお出しする?老王」
フォイエルバッハは手でそれを遠慮した。動転まではしてなかった。
「…しゃべりたくないというより、知らないという感じだ。よい。だが奴は何か企んでいるのか?きになる。それにまだ縁談が途中とはいえ親善の贈り物がセコい。時空警察と不可侵条約だ。結構なことだ。うちがなぜここまで強大な世界になったのか?最初から計画していたわけではない。なりゆきだが、自分なりに分析してみるとだ。フォイエルバッハ君。ハッハッハ、寝ている時間が多いのでたっぷり思考する時間がある。グラウディウスとのわたしの違いだ。
帝国は骨と肉。物事の表面をいじって変えるのと、骨格になっている原理を動かす違いに徹底してこだわった。高度な数学など骨だ。公理の発見。根本を改革するには表面を変えてもだ。飴の色だけ変えた商品のレパートリーくらいしか変革にならない。
物事の法則の根本を追及して改良したからだ。
ライプニッツの『事物の根本的起源』に書いてある。宇宙は善に向かっている。だが禍や不幸は遠くの善に向かう短縮された通路なのだ、と。
骨格をいじる作業などひらめきだと考えられていた。昔はな。だが一発で解決するロジックなどの発見など骨が折れる。頭だけでなく禍を権利者が頭からかぶることが続いた。それに気がついた。肉をいじる鈍痛にくらべて手酷い。偶然でないと判断した。トンネルなんだ。未来の奇跡のような良いものを掘るにはトンネルを掘って近道しなければない。そのために工事の労力、あるいはワープのようなものは…」
老王は女に飲み物をとらせた。

「ゴホッ、いいか。都合のよすぎる最短の通路は莫大な苦難を伴う。物理学みたいに考えてみたまえ。法則はそんなのが普通だ。仕事があるから遊びが楽しい。楽あれば苦あり、表裏一体。すべて一貫している。不幸や災いは嫌だ。だがそれはトンネルを掘る費用になる。普通の労働と同じさ。その分基本恒久的にいいものがとりだせる。だが、それも飽きると気が来る。時間とともにだ。ライプニッツもいっている。音楽でも苦と快楽が交互に来たりする。なぜか、甘いだけだと食いあきるからだ。苦を薄めて食っているんだ人間は。企業でいえば採算が取れるくらいが都合がちょうどいい。苦に対し抵抗する勇気が必要だ。その結果、善を手に入れられる。苦と戦う勇気をテーマにした作品は映画でも音楽でも人気が出るだろう。それに関した著書を送れ。国内の国宝となるものはまだまだあるのだ。いや全部は送るな。もどってグラウディウスにつたえろ。やつはアルキメデスか。あいつはアルキメデスが好きだ。わたしも乗ってみたい。ハハ、ではよろしく頼むよ」




5


時空警察

人類はこの世の根本的なことを操作できない。
死んだ人間を生き返らせるとか、奇跡でも出来かねるようなことなども。
だが、表面的なことならどうとでもできる。
机の上のペン。これを動かす。
誰でもできる。
紙ねんどに色を塗る。
なに色を塗るのか選択肢がたくさんあるだろう。

原子力など、根本の骨組みごといじると無尽蔵に事情を変えることができる。
一般の人は金の工面が大部分を占めた課題だ。
金を稼ぐのは難しいが不可能ではない。
大金になるほど抵抗が大きくなり困難になる。
が、大金を手に入れるとできないことが可能になったりするだろう。

まったくなかった新しい発明、技術、アイディア。
それらは宇宙を底で支える怪物たちとの戦いで手に入るのかもしれない。
当然、根本をいじるほど強力な怪物が襲ってくる。
手に入る宝も強力だ。
怪物と闘うのは至難だが勝てば文明や知恵を得てより人間は世界で自由を手にいれることができる。
魔界あるいは宇宙の底にむかえばむかうほど、現実の常識を覆す根本的事象をいじる力を得られるのかもしれない。
おかしいと考えたことがないだろうか?
紙の上の計算でビルが立ち(物理学、工学)、設計図が製品現物の何億倍の価値もある。
ピカソの絵など100億円はくだらない。

すべて、宇宙の底の生物が守っているのかもしれないのだ。


ジュールとヴィクターが廊下を歩いている。
「まだ、あのとき消失したエネルギーが戻らない感覚なんだ」

「ぼくもだよ。あの化け物普通じゃない。別世界のラストボスだ。別のプレイヤーの最後の敵だよ。でなきゃあんなにつよくない」








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