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2013年12月18日水曜日

メシド氏の揺り椅子2

























ふれやく:前作の続編、ラジオ教養小説がはじまります。メシド氏の揺り椅子2です。
王様:わしもみていいのか?
ふれやく:たぶんいいかとおもわれます。では幕引き。




メシド氏の揺り椅子2












1


郊外の土地の広い一軒家。
住宅がまばらに建っている。

古い昔から生えているひょろ長い木や雑草が整わずにか、あるいはこれが均一というのか生えている。

前作のメシド氏とは違うアナザーワールドのメシド氏。
前作では妻を亡くし、使用人と二人暮らしで最後に冥福された氏だが、パラレルワールドの同一人物は子宝に恵まれ、孫に囲まれ暮らしている。
夏休みに孫が集まってきていた。

ルーシーとアリスがはしゃいでいる。
二人ともメシド氏の孫だ。


午後三時過ぎ、日あまだ長いが、陰りが見えてくる。
暑さが蒸してきた。

そこらの棒木をのこぎりで切ったり、蹴り倒したりしたら根から水が出てきそうだった。

ホースから水をだして庭の草花にかけたり、自分がかかったりして遊んでいる。

庭の端にはバスケットのゴールが片側だけ備えてある。
ゴールのバックには背の高めの木が適当に気軽に生えており、あまりスピードをあげてシュートはできない。なんだか緑が密集してボールが飛び込むと探しにいくのが嫌になる。
ツタのようなのが絡み合って奥が見えない。
茂みの向こうに何があるのか孫たちは知らない。考えたりもしない。

そこでジュニアハイスクールスチューデント一年生のトムとマイケルが軽く跳ねて玉を入れて遊んでいる。
わざとゆっくりはねていれる。

アリスの声にドリブルを止めてふりかえってルーシーとアリスにいう。
「おまえら、爺さんにバースデー祝ってもらってうれしいのかよ」
「自分だって学校のバスケットゴールよりひくいのに玉入れて楽しいの」
「バカ言えダンクができるぜ、オレでもホラ」
敵度にかしがっており、学校の体育館のものよりはるか低い。

「おれらもつきあうぜ」
「ご馳走食べるだけだよ。このひとたち」

そういって走って去っていった。
トムとマイケルも孫たちだ。
アリスは8才。ルーシーは6才児だ。

メシド氏はリビングのソファで帳簿をみていた。
万年筆工場の経営者である氏は、目を通すがざっとでいいか、今回は放っておく書類が山ほどあった。
届くのが今かと焦る手紙や連絡などもっと若い日の頃で、昔の出来事をあれこれ思い出すのとTVや雑誌や新聞記事、仕事の連絡や報告だけで毎日がつぶれていく。

この歳になると退屈な日などなかった。
決まり切った毎日だが、もし空白などあると昔を丁寧に思いだす。
走馬灯のように映像が映り、へたなTV番組より楽しかった。

孫のキャーキャーはしゃぐ声が庭から聞こえる。
TVでは午後の人形劇が終わりニュース番組を耳で聞き流していた。

台所ではジャム(10才)が料理をつまみ食いしている。
男の子だ。

ニュースでは“購買意欲の存在がビジネスの需要をつくりだすのだから、経済の推進力は金を使いたいという意思だ”などといっている。
「金を使う動機やきっかけか、売れなければ働きたくても手を動かしようがないからな。トランプのカードをケチくさく守っていると、どんどん国の仕事が減って、摩耗していく。年寄りからするとインターネットの中がどんどん充実していくのは売れるからだ。ネットの中の世界が勤勉で濃密になっていくな。はやりすたりだ」
風が少し冷たくなってきた。
昼のセミの鳴き声がきこえなくなり、シーンとしたような静けさだ。
だが、汗を洗い流したような心地よさに感じる。
外からルーシーが走ってメシド氏の膝の上にのった。
今日はアリスの誕生日だ。

「ぶー。はー」
口をカパアとあけてメシド氏を振り返る。
前歯がきれいに抜けていた。
生え換わりの時期だ。
ニコニコ笑って爺をみる。
舌を歯の抜けた隙間から出して動かしている。
ゆさゆさ揺れるように動き、人形が動かなくなるように静止する。
「急に大人しくなったな」そういうと、キョトンとふりかえり、不思議そうな顔を見せる。
しばらくのちに「はー」と笑いだす。



2


テーブルにはパイ、チーズケーキ、フライドチキン、スープ、チーズとシーザーサラダ、大人たち用のワイン、マーケットで買ってきた炭酸ジュースのペットボトルとオレンジジュースのペットボトルにきれいな色柄のガラスのコップが人数分、ワイン用のグラスが三つ。

メシド氏がいった。
「じゃあ、アリスの誕生会をはじめるか」
そのときチャイムが鳴った。

「すみませーん。ポールさんのお宅は?」
「ああ」
拍子が抜けたが、

氏の娘の一人マイアモンド(25歳)が玄関に出ていった。これもまた娘の一人ダイナモンド(38歳)があとから、追加するように追いかけた。

しばらくしてふたりがもどってきたときには、もう御馳走に手がつけられていた。
氏ははじめコップ半分くらい、炭酸ジュースを飲んだが、そのあとワインを注いだ。

みんな子供たちは御馳走をほおばる間、無言でムシャムシャかじりついている。

氏もパイをひとかけら食べ、チキンをかじった。
トムがTVのチャンネルをいじった。
「バスケ見るぜ」
「あーダメだよ」アリスが騒ぐ「アリスのムービーみるんだよー」
冬に映したホームビデオをメシド氏に見せる予定だった。

「いつでもみられるぜ」
「まあ、アリスのムービーは後でゆっくり見よう」

ここから、小説はメシド氏の目線にうつる。
メシド氏は御馳走は娘たちにまかせ、TVは孫にまかせ、料理をつまんだり、酒を少し口にしたりしていた。

マイアモンドとダイナモンドは料理の皿やテーブルのことと自分達が食べることとしゃべることに夢中になっている。
孫の男の子はTVのバスケと御馳走をややスローになったがもぐもぐしている。
女の子たちはすこし不満そうだ。

トールという、巨人のような選手がシュートを撃つ。
メシド氏はワイングラスを持ったまま思った。
(ああ!すこしフォームが崩れた。ながれたな)
ジャム(10才)は無言でチーズケーキをぺちゃぺちゃ食べながら見ている。
マイケル(中1)が「くずれた。ぐちゃぐちゃ。でも入る」と騒いだ。

投げ飛ばされるかのようにながれながら、シュートはゴールでいったんリバウンドしてすっぽり入った。
TVから歓声が流れる。

メシド氏はボーッと、ワインを飲んだ。

ルーシーが氏にいった。
「もうはいらないから、ジュース飲む。コップにいれてくださいな」
ダイナモンドが炭酸ジュースをコップにいれてルーシーに渡す。
メシド氏は自分の心の中の海が波風が立って、応対にそのときにより差があった。だが、氏は経験により羅針盤のように海の荒れ具合に任せた方が正確だと知っていた。

「みてろよ、おれらなみのダンクがでるぜ」
一瞬のうちに、敵の玉がトールのチームにはじきとられ、攻撃している。
TV画面だと狭く見えるコートにボールが一瞬にわからないうちに走り、トールが巨人のような図体でダンクをかますのがアップで映る。
ただでさえ長い体をまだ無理して片手をのばしてゴールに押し付ける。

「な、おれらみたいだろ」
「えー、うちのゴールなんか小学生の高さだよー」
娘たちはTVをまったくみていない。

歓声だけ聞いていると、何があったのか不明になるほど白熱していた。
トールがゴールの真下から背伸びする様に跳ねた。
「おおう」
ガン
だが、今度はボールをリングに押し付けるように失敗する。
こぼれたボールをトールのチームメイトがさらおうとするが、タッチするだけで逃げた。
敵の手にすっぽり入る。

電磁石がNとS極をいれかえるように、逆転して走る。
先にいる味方にボールが届く。
3ポイントかギリギリのラインから、槍なげのように投げる。
「はいった!」

氏はフォークでチーズのかけらをさして口に入れた。
その間にTVのバスケはもう走っていた。
トールがこんどは手を真上にあげるのではなく、よこからフックのようにシュートを出した。
(まただ、倒れそうな姿勢から、あんなアバウトで)
ボールは回転し、ゴールのボードにあたった。
くるくるゴールのネットに吸い込まれる。




3

御坊さんが瞑想してθ波だかがでたみたいに、メシド氏はアルコールとTVのバスケのプレイに神経の大部分を任せてしまっていた。

プレイはゾーンのような落ち着いた守り合いから、走っていれ、走り返して突破する動きにかわっていた。

「見ている方は面白いけど、自分でやったら疲れるぜ」トムがいいながらオレンジを飲んだ。
敵陣を猛スピードで打ち破るようにシュートする。

「モンスターだ」
モンスターとあだ名される、トールの敵チームの猛者がおいていかれて、悲しそうな表情をした。
「やつは高校生じゃないぜ、反則だ。あれ!?でも調子悪いな」マイケルもいう。
「もう食べないの?ケーキは?」
「ああ、チキンだけ食べる」
チキンは脂とレモンの新鮮な汁で艶やかに照かっている。まだ熱い。

メシド氏がきいた。「モンスターとトール以外のメンバーは?」
トムが答える。「ああ、知らないぜ。有名じゃないんだ」

モンスターが自分で玉を走らせて体重を乗せて突っ込む。
ふさごうと、すばやくあつまる。

「ふさぐのがはやければ、さっきみたいな落ち着いた守り合いが始まるんだ」
トムがチキンをかじりながらいった。

空中でモンスターがあばれた。
敵のガードから、さらに上を狙って空中でモンスターがシュートを撃つ。
短いきよりをポヨンとまたいでネットをボールがストレートに落ちている。
反則?にみえる…メシド氏は無言で何となくそう思った。




4


ジャムがコップをこぼした。
「こぼすなよ、ブッチャー」トムがジャムに向かっていった。
「コラ、ブッチャーはやめなさい」母親に注意される。

「ダメだよ、泣かしちゃー」ルーシーが前歯の抜けた口を広げていった。
アリスもいった。
「そろそろアリスのムービーみるよ」
「いいぜ、つけろよ。オレたち、歳の割に精神年齢高いっていわれるぜ。わがままは状況を心得ていうことにしてるんだ」

アリスは無視してリモコンを操作する。
トムはなおもいう。
「おめかしだけして、偉そうにしている女なんて、マンガだけ読んで強くなった気になっているサラリーマンに等しいぜ。サンラストブレイク!」
ブッチャー(ジャム)の頭をたたく。
「ブー」

「本当に偉いレディは息を吸ってはくみたいに、大人の分別をつらぬけるんだ。はったりで大人になんてなれないぜ。スタースタートブレイク!」
「コラ!トム!やめなさい」
無視して、アリスのムービーが始まった。

メシド氏もみていたが、雪道の戸外でアリスがあまり動かないで映っている。
「なんだ、あまり動かないな。なんのビデオなんだ」氏がワインをつぎ足しながらいった。
氏の思考は孫を注意したりするどころではなく、酒でぼんやりしていた。

「んとねえ、アリスのお家の前だよ」
つぎ足したワインがぐるぐる頭を回る。

トムがまたいっている。
「まったく、オレに注意させるなよ。爺の仕事だぜ」
マイケルもいいだした。
「兄弟が多いからまだ、オレたちものわかりがいいんだ。おかげで、大人になることを覚えたぜ」

氏の頭はいつか、雪山で遭難していた。
救助犬が遠くで吠えている。
近くなりそうで遠くなっていく。
(いいんだ。助けてくれなくても。精一ぱい生きたさ。もう満足だ)

メシド氏はソファでうつらうつらやっていた。



5


メシド氏の夢はいつの間にか、自分の工場で、なぜか工員として働いていた。
他の従業員がメシド氏の仕事を妨害してくる。
ソファによっかかったまま氏は夢を見ている。
「なんで味方同士なのに作業を妨害するんだ」
メシド氏は腹を立てた。
だが管理職の職員は注意しようとしない。

今度はけん制してくる。
「わしが、いままで楯つかれなかったのは単に社長だったからで、サラリーマンというだけでこんな仲間割れされたりする物なのか!?」

従業員同士は仲良しではなく、たがいいがみ合ったり、それでいて仲良くしたりする。メシド氏の目には不思議だったが、雇われ人同士では当たり前らしかった。
「足を引っ張るんじゃなくて、助け合うんだ」メシド氏はもうすこしで、こう叫ぶところだった。
だが、目の前の作業が迫ってくる。黙って手を動かすしかなかった。


ハッと目が覚めた。
アルコールの酔いは少し醒めていた。
「すまん、すこしジュースをくれ」
氏は腰が重く動けない人みたいに、頼んだ。
病院のベットで寝ている人などが、お見舞いの人に世話してもらうときなど、楽チンでずっとベットに倒れていたい気がするだろう。
だが、意外と気を使ったり、頭脳を消耗するのかもしれない。

「ヘイ、ジジイ寝るなよ」トムがいう。
「ああ、トム…ケンカはいかんぞ」
「なんだよ!?ジジイ」



6


メシド氏は足の膝が悪くなり、杖をつきだした。
リビングのソファに腰掛けると、長い時間動かなくなる。
トムが横に座ってきた。
息を少し弾ませている。バスケットのボールを抱えている。
「TVつけるぜ」
「…」

メシド氏は無言で書類のたばをバインダーにはさんだものをいじっている。
ペンを動かして何か書いたりしている。
「あー、いつ帰るんだ?トム」
「あさってだぜ」
「そうか、ふー」


足が悪く、腰が重い代わり、他のことは機関車のように動けた。
夜寝ているときの、ベットに沈み込む感覚が日中も出るようになった。
そのかわり、深く精神だけになることができる。
精神作業に集中できた。自分ではθ波が出ていると思えた。
管理し、企画する。腰が重い代わりにコンピュータのCPUのように不動で計算処理できるかのようだった。

メシド氏は書類から目を離し、壁にかけてある絵をみた。
「あー、額の絵をそろそろ変えるか」
「そのままでいいぜ。オレも紙きれいじるぜ。なんだよ、画版にのせてカルテ書きこむのかよ」

メシド氏はペンを動かした。
かさかさ、紙切れにメモをする。

「あまり、ジジイといると、使われるぜ」そういってトムは庭に出てバスケを始めた。

ルーシーがいれかわりにやってきて、氏の隣に座る。
指をすりむいていた。
氏はヨードチンキをとってこさせ、綿棒につけると、チョンチョンと、傷につけた。
「よし」
そういって包帯のネットをかぶせる。

パソコンもいじれるメシド氏だが、キーボードをタッチすると不安になるくらい不安定なポーズをとることになり、歳に負担が大きかった。
書くのは早いが、疲れる。
紙切れをいじると神経が安定する。



7


夕食後、ルーシーがメシド氏の横に座って甘えている。
トムとマイケルがやってくる。

「バスケでトールの試合がはじまるぜ」
メシドもみたくなった。
「あのトールか」
ルーシーがいう。
「バスケットみるの…?」

トールの対戦チームがアップででている。
ブラウンというあだ名のキャプテンが地べたに座り、ボールによりかかるように、まわりの選手に神妙に何か話している。
会話は聞こえない。
身振りを使ってチームに働きかけている。

「ブラウンだぜ」トムが解説する。

ルーシーはゆさゆさはじめる。
タプンタプン子供の体重が揺れる。

トールのチームはのびをしている。
試合が始まった。

トールと…ブラウンではく無名の選手だ。
対決!

ブラウンのチームがボールをとった。
カットというかスピーディに…もうゴール前にいる。
「はやいぞ」メシド氏が興奮する。
マイケルがいう。「トールも危ないぜ」

片手をのばして、すごい高さまで上がる。
トールともうひとりがブロックしようと空中でじたばたうごく。
「なんだありゃ、やるきあるのかトールは」
「あとすこしでバイオレーションもらうぜ」

最高の高さまで上りきってさらに片手をグーンとのばした。
ピッ
手首の返しだけでブラウンはボールを放つ。

トムがいう。「腕力がなせる技だぜ」
空中でバタバタもがいたトールたちはもう落ちていくタイミングだ。

スポッとボールはネットにすいこまれていく。

トールがボールを運ぶ、どう攻めるか悩んでボールを回している。
金魚すくいのように、すばやくブラウンのチームにもっていかれる。

どうやってバリゲードができるまえに突破するのか!?
二名が追いつく。
だが、ゴールがもう近い。

ブラウンはためらわず特攻した。
コンドルのように空中に舞い上がる。

両手でしっかりボールを持っている。
ディフェンスのふたりはシンクロスイミングのように同時のタイミングでピョンと跳ねた。

ブラウンはシュルルとボールを空中でスピンさせる。
デフェンスの二人はそのフェイクにだまされた。
同時のふたりは空中でもがき、落下が早まる。
まだ、視界が邪魔だ。

スピンしたボールを片手で器用にとめて、手首で飛ばす。
スポ

「もう4点入れられたぞ」
「トリッキーな才能のなせる技だぜ」

トールたちはつかれたようにドリブルして攻めてくる。
玉をパスしあうが攻められない。

ブラウンが責任を感じたように突然動きだし、ボールをカットした。
こんどはトールが追いかけだした。

猛スピードのブラウンはそのままリングにななめ45°につきさすように飛びあがる。
「でた、スカイソーサーだぜ」
トールは横くらいから飛びかかるような、ほっとくような感じでとび上がる。
長い腕はそのままボールをおいてくようにちょうどリングに突き刺した。

ワーッ!

と歓声が上がる。

メシド氏も「よし!」とうなった。
どっちを応援しているのかわからなかった。

60だ。トールのチームはどんどん置いていかれる。



8


ルーシーとアリスが絵本を読んでいる。
『いばりん坊の巨人』
『巨人の庭』
トムが解説する。
「巨人は子供が遊びに来なくなると病気になって寝込むだろ」トムがいう。
「うん。そうだけど」
「うちの爺もそうだぜ。でも、あんまり遊びにきすぎると疲労して疲れるんだ。狙い目は夏休みとか冬休みだぜ」
「わかった」

トムも、アリスもルーシーも、マイケルも、ジャムも、娘のマイアモンドもダイナモンドも帰ることになった。

「また、バスケ教えに来るぜ」
そういってトムはドアを閉めた。
メシド氏は閉まったドアをみてリビングに引き返した。




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