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2013年9月11日水曜日

Another War  ―もうひとつの戦争― 第一部

夏の小説祭り









時空小説一周年記念














Another War  ―もうひとつの戦争―

Another War  ―もうひとつの戦争―


★★★★★★★★★



■ 


★☆★☆★☆★☆★☆
★☆







飛空要塞アルキメデス。
高度な数学力を駆使した文明。
身分の高く派手な女性たちが、
ぜいたくで豪華に暮らす都市。
高い技術力と百万の富が揺らめく大世界。
時空警察に変わろうとする新政帝国。
            
驚異的な短期間に経済力と軍事力を
身につけてきた新世界クラウディウス。
軍事力と経済支配で弱国を次々植民地支配する。
彼らのみいだす正義とは?

公理の発見は天才的、
道徳に関しては三流。
力をつけた彼らは時空警察を模倣し上回ろうとする。
時空警察との哲学の違い。

時空警察は新興帝国クラウディウス
をどう対処していくのだろうか?

時空を超えるもうひとつのSFロマン。









    ■第一部








1



ジュールとメラネウス、二名がマンデンブルー大佐に呼ばれた。
「新興帝国クラウディウスが次々植民支配をおこなっていることは知っているな」
スクリーンに飛空要塞アルキメデスがうつされる。
移動できる巨大な要塞だ。
砲撃用の巨大なノズルが見事に並んでいる。

ジュールがいった。
「こんな巨大な艦隊!時空警察の新たな敵ですか」
「驚異的な速度で文明と経済力、軍事力をのばしている新興帝国だ。近いうちにわれわれ時空警察の力を上回るかも知れん。支配エリアをどんどんひろげている」
「うーん。それだけなら、ぼくたち時空警察も人のことをいえないよ」

「圧政により苦しんでいる植民地も多い。だが、必ずしも搾取は違法といえない範囲でもある。莫大な資金力とつい最近になって発達した軍事力を背景に経済支配をくりかえしている。連中は高度な数学を駆使するなど論理的な頭脳派集団だ」
ジュールがいった。
「つね日頃、怪獣と戦っているぼくたち時空警察なんて政治的闘争に弱いんだよ。政治問題の範囲なら口をはさめない」

「そうもいっていられない。連中の幹部たちは自分たちの優越を決して否定しない。自分たちを高等民族と称し、支配下の民族をバルバロイ(わけのわからない言葉を話す民族)と呼んではばからない。公理の発見は天才的、道徳に関しては三流の連中だ。幹部たちの婦人は着飾った衣装をまとい、豪華でぜいたくな暮らしをしている。支配下の世界にたいし高圧的なまなざしとともに優越感をいだいて暮らしている。時空警察にとってかわろうという思想さえもっている」

メラネウスが口をはさんだ。
「われわれ時空警察も権力で幅を利かせているのは確かだ。だが、一緒にされたくない。我々のスタンスは?」

マンデンブルー大佐は後ろをむいた。
「圧政に苦しむ星の一部ではグルーザー女史を女神とあがめるところさえあるという。彼らはどちらにしろ、誰かに支配されないと今の暮らしを維持できない。完全にクラウディウスから独立すると、生活が苦しくなる。支配してくれるなら我々のほうがましという寸法だ」
「両帝国のあいだで自分たちの王に守ってほしいわけだ」
「『自分たちにはグレートシティに別の王がいる』といってクラウディウスから派遣された総督と対立を繰り返している。が、クラウディウスの傘下にいることを喜ぶ惑星も多いのが事実だ。政治、軍事両面からこの問題とつきあっていく」
「ラジャ」



2



ジュールは帝国クラウディウスに向かう船にのった。
親善と偵察をかねた、親善調査団の隊長として。

数名の部下を連れて旅しているが、任務の重さが違うため相談相手にはならない。
上司と通信で会話することはできたが、旅の事前で済ませ、出発してからは
意識的に通信をしないようにしていた。
それで船内では自分一人でいるような孤独を感じてすごしていた。
仲間が誰もいなく、会話の相手と連絡が途切れたような実感は、編隊を組んだときの隊長などの任務でよく経験している。

何人かいたとき、一番下っ端でいるほうが一番会話の相手がいる気がする。そんなものだ。
なにかのトップをやると自然、目線が敏感になり他と話がずれていくのだ。

今まで分かった範囲でのクラウディウスのデータ報告書を読んでいる。
活字だけが話し相手だ。
異国を旅するものの小説などによくあるスチュエーションだ。
あるいは大航海時代の船長など。

それと、姉さん。
姉さんにメールを書くことにした。

得られる情報から想像すると、
ぼくの頭の中で想像するアンシャルとキシャル。
これが帝国のイメージに何となく似ている気がする。
文献にのる異世界の果て。
滅亡したと伝わる古代の遠い世界。
だが、アンシャルとキシャルは文献や言伝えでしか知らない。
あるいは向こうからの来客か。
帝国は情報がまとまってはいるのだが、ページが薄い。
これから、自分の目で見て、帰国してから報告書に自分でまとめる。
それがぼくの任務だ。




3




到着した。
船は空港に不時着し、迎えの行列がまっていた。
少し後でわかったが、どうやら帝国の支配圏のなかでもグラエキアだかエラダとかいう地方らしい。領域といった方がいいのか。
もう少し詳しくなったら、細かくわかるだろう。

「おまちしてましたよ。時空警察・親善調査団・隊長ジュールさん」

彼がぼくの相手をしてくれるらしい。
背のひょろ長い、痩せているようで引き締まった体格だ。

「はじめまして、私は第一階級(クラッシス)百人隊・若頭のセルウィウスといいます」


ギターとかやっている、妙にヘラヘラしているわりに自信たっぷりに話しかけてくる大学生くらいの若い奴に雰囲気が似ている。
連中は肩ひじを張っていないが、それでいてはっきりしゃべる。音楽とかで自信をつけているのだろう。
が、この男は?

「はじめまして。こちらこそよろしく。セルウィウス殿」
ぼくはやっと返事をした。
考え事をして、あいさつが遅れた。
相手は変な顔をしたが、張りきっている様子でいった。

「実はあなたが親善に訪れると上から聞きまして、なにを催したらいいのか悩みましたよ。あまりチャチな催し物もなめられますし、それで、軍事演習が定番かと」

後ろを向くと「いったい何に使うんだ」というような、派手なデザインの大型の剣を背負っている。
タラバガニの棘を連想させるような、機能性とは無縁なのかギザギザの鞘でいったいどうやったら抜刀できるのだろうと考えた。

おそらくは機械剣、電磁剣だろう。ぼくのグレートソードなんか古代の剣といった感じだ。

海の見える、空港で、海軍・空軍・陸軍そろっているという感じだ。
海と滑走路。
船と空母、バトルヘリ、建物に…
目がまわる。
新鮮なものが一度にはいってくる。
この星の特徴なのか、土地、季節なのか…この気候、
真夏のからっとした暑さを感じる。
それでいて風が強くきもちいい。



4


セルウィウスはいった。
「コーヒーをおだししましょう。飲み物は船の中で飲んできて飲みたくありませんか?」

客用の喫茶店などというより、モータールーム?とかいった雰囲気の空港の搭乗口から歩いてすぐの所に白いペンキのテーブルとイスがある。

時空警察の隊員はとなりのテーブルに席に着いた。
ぼくとセルウィウスが同じテーブルにつく。
コーヒーが運ばれてきた。

「わたしがあなたのお相手を務めますが…」

軍事演習は明日見せるという。
拝見させてもらおう。
ぼくはそう思った。

今日の残りは街を少し車で見せて、ホテルにおくるという。

車に向かうとき、彼の背中を見ていて考えた。

(もし、ぼくがいま剣で斬りかかったら!?)
ぼくは頭の中でシュミレートしていた。
あの背中にスキは…そして、殺気はあるだろうか?
ぼくの剣をかわせるか!?
シュミレーションの結果はこうだった。
ぼくの剣を、想像はできないが、無理な体勢であの剣を抜き、ギリギリなのか余裕のなせる技なのかかわし、…あの剣のなにか隠された機能でぼくに攻撃が来る…

ハッとした。
親善なのに攻撃的な妄想にいる。

「エラダの港町を海岸沿いにまわります。そして丘の上のホテルに…。クラウディウス帝国の視察にはもっと本拠地を見た方がいいのでしょうがね」

気遣いが確かだ。
好意的だが、真剣さというか、若いのに気がきくが、学校の卒業式みたいな生真面目さというか、重々しい態度がない。
責任をあまり感じていないで軽薄で身軽な態度にみえる。
浮かれてうれしそうというのか、何か自信のある奴の態度だ。
帝国にそれだけ活気があるということかもしれない。
戦闘艦だとか、新型の機械剣とか、独自のコンピュータシステムだとか、自慢できるものたくさんあって、得意になれるだけ気軽なんだ。

百人隊・若頭…どういう階級なんだろう?

ぼくの気持ちを悟ったかのようにしゃべる。

「ああ、階級なんてどこでも組織によって独自ですよ。若頭なんて翻訳してあなた方の階級に正確に照らし合わせるのは無理です。朕なんて呼称、始皇帝がつかったのか、その昔の紂王は朕なのか余なのか。皇帝だとか覇王なんかもそのつど、前例とか考えて造り上げるものでしょう?」
「たしかに、そこそこでオリジナルで通してもいいけど…」
「逆にいうとデタラメがデタラメじゃない。要するにあなたのききたいのはぼくの偉さだ。ぼくは帝国でそんな偉くありません」

笑いながらいう。
根が親切なのか楽しいからなのか、愛想がすこぶるいい。

車で“海岸沿い”を通る間「カメラは?」と尋ねると、「どうぞ、自由に。観光客でもだれでも自由ですから」

写真は小型のデータチップにデジタルデータとして保存される。
このチップが大切だ。
大切な情報をこんな小さいメモリーに集積する。
時空警察に持って帰って貴重なデータとなる。

ついこの間まで、存在を気がつかないほど小さかったのか?本当に…インターネットの人気サイトみたいだ。
自分が気がついたときは、もうメジャーなたくさんの人を会員にしている巨大サイトだ。

こんな巨大な帝国に今の今まで気がつかなかったなんて…




5


“海岸沿い”はおしゃれで風通しの良いリゾート地のような建築物が並ぶ。
そもそも車なので商店やなにかの建物にはいってみるわけにいかないが、なんとなくこの世界を見てきた気分になる。
だが、これだけでは“よくある世界”にみえなくともない。

丘の上のホテルについた。

機能や役割ではなく、飾りのための橋が重なるようにかかっている。
要するに庭園だ。
なんだか、あれこれ考えながら観察しているし、最初から疑ってかかっているから頭が疲労してきた。そもそもこの仕事は偵察なのだ。

見晴らしを重視したのだろう。
海が遠方の下に見える。
標高に段差があるからだろう。

テラスみたいな半屋外にレストランがあり、そこで夕食を出された。

冷たい前菜に酸っぱい貝のようなものがでた。ダイコンかニンジンの葉っぱをちぎったようなのがかけられている。それと海藻のサラダ、オリーブ油の仔羊肉焼き、ナスをくりぬいてひき肉やかゆをつめたイエミスタ、あとパスタが少量。
食前酒にウゾという強い酒。アニスの実で風味をつけるという。

「これは…ごちそう?」
セルウィウスは相伴しなかったが、最初ぼくのテーブルのわきに立っていた。
「ええと、こいつらはうちの国の家庭料理でして。あしたはシーフードカレーの予定で…いや、これは余計なことを言いましたか」
郷土料理?と聞けばよかったと後悔したが、おいしく食べた。

途中まで彼は行ったり来たり何かしていたが、「それではごゆっくり、明日うかがいます」と言って去っていった。

ホテルの自室で一人になり、バスに湯を張る。
グレートシティからもってきた小型のモバイル。
必要なデータを見つくろって入れてもってきた。


視察に大型の端末は荷物になる。
船の中にならあるが、今の時代性能がいいから小型で十分だ。
ワードプロセッサーの機能を呼びだしてタイプする。
みてきたこと、小型だが気持ちよくタイプできる。
カシャカシャ音がでる方がリズムが良く打てるタイプだ。
頭の中身をそのまま投影するやつは脳が疲れる。

それと、メモ帳。ポケットサイズの紙の手帳。
これも持ってきた。
紙にペンで書きくことと、モバイルにプロセッサーで打つことをわけてる。
どう分けているというほどでもないが気分で。

アナログだが、紙にメモランダムに書いた方がスムーズにアウトプットできるときがある。図とか絵や記号でメモするときもある。
いまホテルの部屋でメモ帳に記録をつけている最中だ。

バスに浸かったら、TVをつけてみよう。
室内なのにそよ風が来ると思ったら、真っ白い扇風機が回っていた。
室内なのに外にいる気持ちよさと、強い日差しを避けられる室内の良さのいいところを合わせたような空調だ。


セルウィウスがいった通り、シーフードカレーが翌朝でた。
小型のエビと海藻が入っている。




6



軍事演習

戦艦クロノスという軍事船にのせてもらった。
惑星が遠くに見えるくらいの宇宙空間まで飛び、新型の波動砲を見せるという。

セルウィウスは昨日とおなじ、三角のギザギザがついた派手なギターのような鞘の剣を背負いながら解説する。
「たとえばですね。あそこ、あそこら辺にみえる。じゃりみたいなの。拡大するとわかるけどでかい小惑星ですよ。あれをみじんに消し飛ばしたりできます」

そこまでなら、よくある。最新式の波動砲というほどでも…

セルウィウスが指図する。
「クロノス砲、スタンバイ」
船の操縦席で彼らの軍人がカチャカチャ操作する。
重たいレバーを最後に引いた。

クン…グン…グンとトップまでなにかが満たされていく。
振動やノイズでわかった。
なにかのエネルギータンクが満タンになった。

「GO!!」
とセルウィウスがいって、操縦士がハンドルを操作した瞬間!

次々と連射して波動砲が発射される。

「おおおっ!?」ぼくは歓声を上げた。
小惑星の塊はクロノス砲をうけて光って消し飛んでいく。
「バリアもなにもない小惑星とはいえ、われわれの標準的な大地と比較して考えてみてもドでかいですよ」

確かにそうだ…
それにあまりに連発している。
休むことなくクロノス砲が発射されている。

さすがに停止した。
「ね、あれなら魔王アリスタンダーでも風穴をあけられますよ」
セルウィウスは自慢げにいった。

「あれだけエネルギー砲を連発したとしたら、電気料金がバカにならないはずだけど!?」
「さすが、カンがいい。でも、それ以上は教えられませんね。親善とはいえ、対立国の可能性も大だ」
「そりゃそうか…」
「オレたち自慢の装置とだけいっときましょうか。数学的公理からみちびかれたんですよ。経験を積んでいたら開発が間に合わない。ニュートン氏の“仮説をねつ造しない”じゃなくて、最初から開発を意図して造り上げるんです」
「…」


(なぜ、あれだけ連射できるのか…か)

「だけど、この船、法外な値段がするでしょう」
時空警察の隊員の一人がきいた。
「ええ、まあ、横流しなどしたら『いい商売』でしょうか。でも、今のところ“販売”はしていませんので」

そのあと船内を見せてもらった。金があるという感じがする。
「『チャチな催し物なら、なめられる』と昨日言いましたが、あなたがた時空警察は植民地の連中と違って、最新兵器を見せたほうが喜ぶでしょう。あなたがたは設計図を見せるか、それがダメならゲンブツを見せた方がありがたがる。設計図があれば自分たちで作れるインフラ(基盤)があるからです。植民地の連中はそれができない。みせびらかすより、侵略して指図してあげた方が喜ぶのです」

「…」
「時空警察と帝国クラウディウスのスタンスの違いがあるのはわかりますがね」

くるりと後ろを向いて歩きはじめる。

「我々はこんなことも知っている。
あなたは喫煙はされないでしょう?でもお酒は飲むようだ。教科書や読書などで頭にインプットする仕事、あるいは部下がいても痩せ我慢するような、耐える任務だと喫煙がおいしく感じる。
イライラのストレスを踏みつぶすのが煙草のおいしさかも…。
逆に発想…ひらめかないと沈没するくらいのプレッシャーに耐える仕事とか、部下がいても怒鳴って統率する任務とか、まあ、恐怖と闘う仕事は酒や飲みのもの美味しく感じるんです。
恐怖と闘うとカラカラにのどが渇きますからね。
発想や発明みたいなひらめきに恐怖は必需品でして…不幸だと思わないでありがたがったほうがいいと…
安穏とできるイスに座ると、なにも思いつかなくなりますよ。
あと、あなたは独身のようですが、家庭を持ったら喫煙がおいしくなるかも…いや失礼、喫煙を勧めているわけではありませんが、妻や子供は切り捨てるわけにいかないから、地味に我慢する。恐怖はありませんがね」

「…子供が小さいうちとかね。なるほど子供をたくさんかわいがるお父さんとか、パイプをふかしている…」
ぼくはそういった。


7


港の空港に戦艦クロノスはもどった。

ぼくらは案内されて、街の広場方面にでたが人だかりができている。
時空警察との親善のことがニュースにでているので集まっているらしい。
ぼくはすこしあがった。
軍人ではない一般人は男性も女性も着飾っているという雰囲気だ。
お出かけだからなのか、それが普通なのか。

「うちの帝国もハリボテといえば、そういえる部分がまだまだありますからね。もろいですよ、ぼくに言わせると…」

ぼくはこういってみた。
「女性がずいぶん派手で身なりがいいみたいだけど!?」

幾何学的な計算されたスタイリッシュなデザインだとか、原色をくっきりさせて涼しげなスタイルとか、知的に計算されたファッションだ。
貴婦人とかそういう雰囲気はどこかあるかもしれない。
だが、…
奇抜でどこか普通じゃありませんという態度。言ってみれば頭がよすぎて、どこかおかしい世界の人間という感じもしないでもなかった。

「ええ、うちの国の女どもは派手ですよ。オレはイイと思っているわけではないですけどね…時空警察の方から一言注意してやって下さい。うちの姉なんかも派手な格好をしてまして、あれでイイものかと…」

「…」

視察だけでこのエラダの人たちを見て思った。
口をきいたわけでもないし、個々の建物など中に入って見たわけでもなかった。
通りすがりだが…スパルタ教育…そんな雰囲気もどこかある。
本来の意味と違うのかもしれないがそんなニュアンス。
自分たちはいやいやだが、しごかれて鍛えられました。
そんな雰囲気の若者たちだ。
年寄りは妙に体が頑丈そうに見える。

それを悟ったかのようにセルウィウスはしゃべりだす。
「うちの帝国は今、潤っています。だが、そのために確かに厳しい統率を国民に強いている。ぼくも軍人だが、この世界では統率者でもある。ローマ帝国みたいにね。要するにシビリアンコントロール(文民統制)ではない」
「殿様が政治と軍事活動、戦争を全部やるスタイル…」
「帝国ですからね」
※ここでいうローマ帝国とは地球のローマのことなのか、違う世界なのか不明である。

セルウィウスはしゃべり続ける。
「知ってますか。ローマ帝国では火災が多かった。消防の体制を整えるために奔走した皇帝もいる。ぼくはこう考えている。圧力をかけて国民を牛耳るしかないですから。そうすると不満で火災が増える。うちもそんなところがありますね」

そのときぼくは気がついた。
ぼくは現場をいくつもまわって時空警察で見てきた。
だが、ぼくのは研修どまりだ…

このセルウィウスは直接自分で大勢の人間を統治している。
それもかなりの期間におよんで。
それが、ぼくとの違いだ。
おそらく、意図的に長い期間、直に統治する職務に向かわせられている。
ぼくはたらいまわしで体験を詰め込まれている。
ぼくは人を統括する現実に浮いているんだ。

現場知らずで上の集まる会議室の勤務のほうが長い、彼と比べると間違いなくそうなる…



8



ローマ帝国の伝説上の創始者、ロムルスは捨て子で川に流され、雌狼の乳を飲んで生き延びたという。
彼は30年以上よくローマを統治したが、嵐の日に忽然と姿を消し、天に昇ってクイリヌス神となったという。
だが、一説によると彼の存在はローマが建国されてから伝説として生まれた作り話で、史実ではないともいわれている。
順序が逆でローマにちなんで建国者をロムルスと名付けたともいう。

西ローマ帝国最後の皇帝、最終皇帝となったものの名はロムルス・アウグスツルスという。


ぼくは試合をセルウィウスに申し込んでみた。
「ええ!?試合でしょうか?『ムサシとコジロー』みたいな海辺の果たし合いを私と…。親善のための交流でそんなことをすると、上にいわれますので…」

意外と嫌ってきた。

「あなた、あなたの体格を見てわかります。しろうとの戦士ではないでしょう?アリスタンダーを倒せるまで鍛えたレベルとみた。私など自分の統治している領域で果たし合いなどして、大勢の市民のまえで恥をかきましても…」

「…」
しばらく彼は考えていたが、こういってきた。
「あなた、あなたの興味のあるのは、このエアロソードでしょう!?親善の余興にお見せしましょう」

海辺の砂浜までいくと、彼はいきなり背中の派手な剣に手をかけた。
もはや迷いのない手つきで、訓練されて型にはまった動作だ。

「ハッ!!」
ズウギャア
ガシャン、ガシャン、ガシャン
なにかロックが解除される音がする。
「?!?」

ズッザアアアア
足腰に力を入れて、見たことのない剣の動作だ。
プッシュウウウ

電子炊飯器のかまのふたが開いたような、いや、蒸気機関車の煙突から水蒸気が噴き出すような。

ものすごい圧のガスがさやからか抜刀した剣からか噴き出す。

「るおおおお、エアロソード、スプラッシュ/クラッシュュス!!」

ザァアアン

海の水が「ムサシとコジロー」風に見事に真っ二つになる。
(ジェットだ、高圧の気体、エアロソードの名前からもわかる!蒸気機関車のように高圧ガスを噴射させる機械剣!!うちのジェットソードなどと比較にならない)

セルウィウスは今度はぼくにむかって剣を撃ってきた。
「ハッ!!」

「!!」
ぼくはグレートソードで受け止めた。
ガギャアアン1Ё!!!

素人の剣と違って猛烈な重さがある。

「これがエアアタックのように豪風をあやつる機械剣、エアロソードだ!!」
ニッと笑う。
その顔には得体の知れない殺気が込められている。

背の比較的小さい男がいつの間にか立っている。
「フン!盗んだカマの飯を素手でつかんで喰えるくらいでないと、これからの世代は生き残れん!!火事場に盗み食いもできない輩は、普段自分はなにも役に立っていないという認識から弱気になるのだ」

「盗んだカマの飯は、今や時代錯誤でして…」
そういってセルウィウスはエアロソードを背中の鞘にしまった。
ぼくはこういうのが精いっぱいだった。
「…蒸気ガマ!?……」

プッシュウウウウ…
ガシャン、ガシャン、ガシャン
ロックが自動でしまった。

「なにがあった…!?」
セルウィウスは小声になって話している。

「なに!?老王がくちばしった言葉で今度の市民議会が動く!?」
相手はうなずいている。

あのセルウィウスが汗をかいて怖気づいている。

「老王!?」ぼくはきいてみた。
「老王ロームルスはあまりに過酷な前半生のためかカタワになりまして、私も数は少ないですが面会したことがあり…ホラー映画のように片目が飛び出してまして、カルデヤ人の捨児伝説のように孤児で育ったとか…ワシだかタカに育てられたとか、彼が若者の時代は当時の主人公のような英雄だったのでしょうが、年老いて体を悪くした今でも発言権があまりに大でして…正式発言でなくとも帝国を左右するというバカげた存在感の持ち主で…。
彼は本当にまずい存在なんですがね…」

「そんなに恐ろしい人物!?」

「私も彼ほど過酷な目に会ってあんなカタワみたいになるのはごめんだとつねずね…権力を持てるのはある意味うらやましいのですが、実の双子の弟でさえ素手で殴り殺しただとか、現地人ではなくアンシャルとキシャルから宇宙船で捨てられてきただとか…おひれはひれがついてまして」

背の小さいのがいった。
「カタワはどこにいっても自分たちと違うと仲間外れにされるものだ。老王の過酷な前半生など、われわれなど一時間でギブアップするだろう。時空警察もそうだが、大人数の帝国などわたしでも標準的存在でありたいと願う」

彼はその急用のため、ホテルに戻るよう勧めると引き返していった。
ぼくは戻らず、そのまま自分たちの船でグレートシティに帰還した。


















            第一部 完



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