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2013年7月12日金曜日

千年王国の王女


















1


天界のバビロンに猫を連れた男が訪れた。
羊や牛が雲の牧場をうろついている。
クピドーは雌雄が男性的にできているが、中性の精霊がほとんどで両性具有である。
赤ちゃんのような天使がおおく、鳩のような翼をもっている。

マリーサが男を見ていった。「ここは天界…バビロンにようこそ」
「…」
ヘンリー・クローバーはマリーサをみていった。
「わたしは…いや、人の死の時の姿がわかる能力がある…あなたは」
そういいかけてやめた。
マリーサは首をかしげている。
「いや、大司祭殿、アロン殿に会いたい」

バビロンは宴の準備をしていた。

使いの精霊がつたえ、とおされた。
クピドーがはじでみていた。

「バビロン第三代城主、アロン殿。貴殿にお目通りできて光栄です。わたしは千年王国からの使者」
アロンは返事をした。
「これは、こちらこそ。あの砂金の砂漠をこえてきたのか」
「…もう少し早く来られる方法があります。空飛ぶ魔法のじゅうたんとか」
「みたところ、つわもののようだ。間もなく宴がはじまる。少し休んでいってはどうですか」

「…そうさせていただくことになるかもしれない。我が主(あるじ)からの土産物になります」

「これは」
「切手というか、この世界での紙幣のようなもの。千年王国で商品を買うことができます。あるいは記念に飾りものとしてもよいとの話です」
「それは結構だが、話はそれだけでは…」

「…これを、我が主からの手紙」
アロンが巻物を開くとホログラムのように映像が開かれた。



2


ひさしぶりである。アロン。話は察しているかもしれないが、余の三人の娘がもう嫁に行っても良い年齢(とし)となっている。ついては、婿となるにふさわしい人物を紹介していただきたいと思ってな。
そなたからの紹介ならまず間違いあるまい。


ひとりはサンゴのかぶり物が似合い、知力と理力がけた外れで、美しさは比類ない。体の健康さも取り柄の一つだ。余はこの娘の婿に、千年王国でかつてなかったほどの天守閣を備えた、美々しい宮殿と魔法の御殿をつくらせて住まわせてもよいと思っている。

もうひとりは優しさと慈愛にかけて一番すぐれている。髪の長さと美しさ、視野の広さ、さばく能力、美術の造詣の深いことが利点である。花園という花園や永遠の楽園の伊吹と賞賛されている。

三人目は恥じらいの心、自制心に満ちて、料理や裁縫を得意とする。詩をそらんじ、自ら詩を生む。あざやかさが青空のようである。砂金の砂漠のオアシスすべてと対等と詠われる。

姿を写すことはあたわぬが、勝者にはそれがかなうであろう。
父親のわたしがこのように褒めるのもおかしいが、反対に嘘偽りのないことを保証するものである。

それぞれ百人のすぐれた侍女にかしづかれ、日々を送っている。
千年王国では婿選びの話でもちきりだ。
まず余のしもべの魔獣と対戦し、倒せたものが縁談の道への切符を手にいれることができる。

どんな武具をまとってもかまわん、意思あるものは受けるがよい。
余も毎夜、酒を飲みながら英雄が魔獣と対戦するのを見ている。

以上、話せば長くなる。だが、大意は理解できたであろう?

千年王国の大王は大勢の人に深くお辞儀をされ、人々は整列しているのが見える。
左右に何人も…
その後ろには兵士が武具をもって列をつくって警戒している。



象にカラフルな敷物の鞍をつけ、ひとがのっている。
闘技場の様子が映る。
対戦する魔獣はみえなかった。
ラクダが何頭もみえ、大勢の観客でにぎわう。
特等席に天幕があり、大王と三人の王女が見ていると思われる。
美しいテントからは、尊い気香がはなたれ、清潔な力強い晴れ渡った気分にさせられる。

「これは…恐ろしくて誰も巻物を開かないぞ」アロンはうなった。
そしてヘンリーに問いかけた。「あなたも、この話の魔獣と対戦されたのか?」
「…いえ。わたしは。だが、試合を見たことはある。ものすごい強さの怪物で到底、よほどの勇者でも歯が立たない。何人もの対戦相手がやられて二次試験にのぼれなかった」
「だろうな。この魔獣などアリスタンダーを一対一で敗れるほどの強さでないと勝てないだろう。さらに難題がぞくぞくとだされる。それをクリアしないと王女と会うことはできないんだろうな」
クピドーがうなった。
「ひええ、トライアスロン!」




3


地球―ロシア―イワンの洞窟

時空警察のジムがおとずれている。
ホワイトグラスで時空警察の本部と連絡を取っている。

「あ、ジムですイワンの洞窟にきていますが、完全に閉じられています。ええ、はい、開け胡麻も、ええ、ダメでした。え?ぼくが、ランクCの…」
≪そうだ、時空警察、特防隊ランクC、V.キャノンの隊長を命ずる≫
「…!V.キャノン」

バビロンの宴には結局、カーターとクロニカル殿下がまねかれた。
鉄のパイプの骨組みを組て、運動会でよくあるテントがくまれた。

精霊が肉や野菜、たまねぎを包丁で切っている。
ドウガラシで味付けしたり、塩コショウなどで味付けしている。
首なしの牛やヒツジの丸焼きが見世物のように吊るされる。

丸焼きは食べにくいので、普通に調理して焼いている焼き肉もある。
パイナップル、リンゴ、柑橘など果物も切られ、赤、白のワイン、ジュースも配られている。

アロンがいった。
「戦士は包丁が苦手にできている。刃物が恐ろしくないというなら、敵にバッサリ斬られているだろう。戦士として職を極めると、調理人にはなれなくなる」
「なるほど、闘いのカンが邪魔する」ヘンリー・クローバーも串にさした焼き肉やら、鉄板や網で焼いた焼き肉に手を伸ばし、ワインをごちそうになった。

カーターがいった。
「それでその、千年王国の話をもっときかせて下さい」
ヘンリーがいった。
「毎日、御馳走がふるまわれ戦士が試合をおこなって、歓声が飛び交う。敗者は都の大通りに十字架につるされる。安易に挑まないためで、そこは厳しい。飲み物も食べものも宿泊も無料で取り放題だ」
「食べ放題といっても、腹にはいるのには限りがあるでしょう」
クロニカル殿下がいった。
ヘンリーはうなずくと続けた。
「入場券の長いのを手に入れるのが難しい、3日限りのチケットなど手に入れやすいのだが、見物したい観客でふくれあがっている。挑戦者はもてなされ方が違う。高級な宿泊施設を解放され、御馳走やら接客がちがってくるという」
カーターがワインを一口、口に入れながらいった。
「そのかわり過酷な試合がまっているというわけだ」
「そう」



4


クラークのところに退院したアランとアルセウスがやってきた。
「クラークさん、アリスタンダー討伐の旅につれていってくれ」
クラークはしばらく考えていたが。
「…わかった、暇なとき検討するから、ああ、メモっとくか」バインダーのカルテに万年筆でメモした。

「わたしも、必ず奴に借りを返す」
「強いぞーでも。ザールがやられて帰ってきたらしい」
「わたしもニュースでみた。彼の分も返す」

クラークはコーヒーをもってこさせた。

アルフレットもいった。
「クラーク君。忙しいのにスマンがぼくもだ。第二次討伐隊を編成してほしい」
「ああ、わかった、わかった。あとでな」
そういって書類を見た。

スフィンクスに電話がきた。
ゴールド・ウィン王からだ。
≪クラークさん、アリスタンダーも攻めてきませんかな。レーダーに映らなくて幸いだが≫
「ああ、討伐隊を…」
みると手に大学ノート10枚分ほどをバインドクリップでとめているものをもっている。
「いそがしくて…」
≪わたしも火急の用ですよ。火急のように忙しい。昼食などカロリーメイトで間に合わせがほとんどだ≫
「へー、あっちはそんなに」

アルフレットとアランたちは猫とコーヒーに手をつけて飲みだした。
「エソプレッソだ。アメリカ人のオレがいうから間違いない」

≪それがつづきますな。暇な時は月二回くらいでしょう≫
「いや、激務ですね。それでそのノートは?」
≪はっはっはっ、次世代の新製品の設計図です。このノートがあれば開発できる≫
「へえ、何のマシン?武器!?」
≪そのうちわかるでしょう。ノートさえあれば落第しない≫


クラークも休憩してコーヒーを飲んだ。

ヘラクレスが面会したいと来た。
「とおしてくれ」

ヘラクレスが単独でやってきた。
「クラーク王。アリスタンダー討伐のことだが、私自ら向かうことにした。ついてはすまないが、兵を貸してほしい」
ゴールド・エクスカリバーを持ち歩いていた。

クラークは考えていたが、こういった。
「わかった、アラン、アルセウス、お前たちいけ」
「なに!?」アランが驚いた。
「…私は構わない」アルセウスがいった。

「おまえたち二人はもともと、パーカーのエジオンのソルジャーだ。俺に決定権はないけどな。いいんじゃないのか」
「…そうだな」
「あと、若手のポールもつれていってくれ」

「すまない」ヘラクレスは頭を下げた。
アルフレットがヘラクレスにいった。
「…その装備で行くのか。強い剣は?」
「魔王を封じて結界を張るので、力を果たし、強い武器をつくる余裕がなかった。メガロポリスでグッド・ソードをかっても、今のほうがいいし」
「確かに…よければ正義の剣を貸すよ。お宅にお似合いだ」
「助かる!恩に着る」

ザールに続いて、ヘラクレスの一団が三日後に出発となった。
ヘラクレスの宇宙船にのりこみスタートする。




5


地球―オレゴン州

ワトソンがパソコンで原稿を書きながらTVを聞いていた。
ふとみると、サブオリンピックの話題でもちきりだ。

「あ!パーカーさんだ」

エジオンからパーカーはギリシアに来ていた。
挨拶している。
「前例を壊して特例をつくることは、戒めなければいけない。タガがはずれた門は、敵に容易に侵入される。だが、スポンサーがついて、競技が注目されれば、4年に一度のオリンピックにサブオリンピックという、番外競技があってもいい」

パーカーはサブオリンピックのスポンサーとなり、大金を出していた。
ギリシアで開かれるという。

そして、金メダル選手の一人がエジオンの軍人としてパーカーに雇わられることになっていた。

「エジオンはモンスターに襲撃される。金はある。だが、軍人が慢性的に不足する。エジオンの若者は軍人になりたがらない。強いソルジャーにきていただきたい」


6



アルセウス、アラン、ポールの三人はヘラクレスの宇宙船にのりこんだ。
自動車の大型車の座席のようなイスに座る。
中型の宇宙船だ。

「出発するぞ、席についたか」
小部屋がいくつかある。
基本、運転席の後部の座席にすわっていることになる。

「すごい、新品のような座席だ」アルセウスがいった。
「よほど汚す人じゃない限り、こんなもんだ、くっつくな」ポールがいう。
アランがいう。「どのくらいですか?」
「近道の時空の揺らぎが発生する場所が近くのはずだ」

レバーを操作し、エカルテのエアポートから船がでた。
駐車スペースからゴンドラで上にあがり、ファイアガンのノズルを巨大にしたような、出入り口からでる。

グオオオオオン

「しまった」ヘラクレスがいった。「水薬は持ってきたか」
ポールがいった。
「いちおう、リックにいれてある」
「そうか」

火力が強まり、スピードがあがった。



7


「どこで昼食をとるんだ」アルセウスがいった。
ヘラクレスが答える。
「どこで食べるかで頭を悩ませるのが嫌いなたちだ。座席でとれ」



惑星バルハル ハーランドから船着き場に向かう道

鉄道で船着き場にカーターはついた。

「あいかわらずさびれている。この船にのってポートシプスだ」

そのときインプがボワンとあらわれた。
「なんだ?イスカンダールの鎧なんか着て。それはパズズさまを地球の大地に封印した王の鎧だ」
「双角のイスカンダールか」
「それに天界にも行ってきたな。消毒薬くさいぞ。オレにはな」
「それでアリスタンダーの部下か、お前のボスは」
「いや、まったく違う悪魔どうしだ」
「キャラがかぶっていないか」
「知らないな。アリスタンダーなんて。とにかく大地の鍵は空港だ」



8


ヘラクレスの一行は、とうとう“きらめく水晶の宮殿”についた。
「カンテラもいらん、壁が輝く。ロープもいらん、非常出口のような通路から出る」
「くわしいですね」アランがいった。
「もちろんだ。私がつくった」
「なるほど…」
「結界もな」

結界がすぐあった。
ヘラクレスは自分のオーラと同じ素材のバリアなのですどうりできた。
アラン、アルセウス、ポールも無音で振動すらしない。

「この結界から魔王がでるには、自分の力を弱めなければでられない」
アランがつばを飲んだ。「なるほど、あの時よりまだ強いのか本場の魔王は」

狭い通路がガバとひろくなっている。

宮殿があり、魔王がたっている。
見上げるほどの巨人の悪魔だ。

アランもアルセウスもポールもヘラクレスがいなければ逃げだしただろう。
相手は意思疎通の常識の違う魔王だ。
そう一同気がついた。
言い訳も説得も不可能だ。
剣のみが通用するかもしれない唯一の論理かもしれなかった。それもヘラクレスだけかもしれない。


9


「喪に服するの時の教会の鐘が聴こえてきそうだ」アルセウスがいった。
音速カブトを深くかぶり、遮光カラーのはいったゴーグルをふかくかぶった。

眠っているか、瞑想しているようだ。

「無言だぞ」ポールがいった。
全員汗がにじみ出てきた。

ポールがリュックから水薬の未来風の銀の魔法びんにはいったものをだした。
「俺も」
アランも自分のを用意した。ガラスびんだが、強いガラスでわれない。だが重かった。

ヘラクレスがさけんだ。
「アリスタンダー!いくどとない、悪神と善神の戦いだ。二度、私が勝ち、一度お前が勝利した…」
「こんどはこっちの番だ。蓄えた魔王の力…」

ゴゴゴゴゴゴ

目覚めるとともに振動しだす。

アランがいった。
「あのときの借りに、一矢報いる」

アランは目標を明確に持った。
(何撃か敵の…魔王の究極攻撃をかわす!力と頭脳を駆使して。よけられないのが当たり前の強敵からいかにミスをとるか!長持ちしてダメージを)

魔王の爪

剣と反対の手で魔王は切り裂いてきた。

アランは素早くよけてかわした。
「危ねー…」

アルセウスは思った。
(よくよけられた。最初から構えていたな)

「フフフフフフ」
魔王の指先に火がともる。
ゴゴゴゴゴオオオと火焔が燃え盛る。
火力がふきだし、魔王本人が焼けるかと思いそうになったとき、火球がアランを襲った。

「ム」

アランの体格のいい体だが、鎧をきてなく、普通の私服体だ。

ポールは思った。
(ぼくより、数倍ガタイがいい。だが基本が我流だ…はたして)

ゴールドエクスカリバーをかまえた。
(よけない!?)

まっこうから、真っ二つに切り裂いた。
耐熱剣で斬られると火焔はチリジリニなって四散する。

アルセウスとポールはとっさにとばっちりを喰らわないよう避けた。
(危ない。相手はあの魔王だぞ。火の粉だけでも用心だ)

耐熱剣といえど、エクスカリバーは赤熱している。

アランは足をもつらせ、一仕事終えたかのようにふらついた。
「なんとか…!?」

そのまま熱を持ったゴールドエクスカリバーを魔王の胴体に叩きこんだ。

ゴン!

熱剣 784

ヘラクレスは思った。
(魔王はどうやら体が重い。動きがスローだ。以前の奴より頑丈のようだが)




10


「もう一発」
熱は引いていた。
ガン 415

アルセウスはゴーグルを通して見ていた。
(あの魔王にダメージがある…相手にならないのかと思っていたが!?)


アリスタンダーは地震をおこした。

ガクンガゴンガガンガンガンガンゴゴゴゴゴ

天上から岩石が落ちてきた。

「あああ、危ない!アラン」

アランはよけないで剣を真上に持ち上げなぎ払おうとした。
それがよくなかった。
勢いと重さは半端ではなかった。
アランの怪力でもびくともしない。
バッシーン
洞窟内にエコーした剣と岩石の軽い衝突音がひびくが、…

アランは岩石の下敷きになった。

ヘラクレスとポールが助け起こす。

鼻からダラダラ真っ赤な血が出ている。腕も骨折していた。
ポールが水薬を顔にかけて洗い流した。
折れた腕にもバシャっとかけた。
さらに気を失う前に残りを「全部飲め」と飲ませた。
さらにリュックから包帯をだして手当てし、毛布にくるませた。

ヘラクレスがいう。
「そのまま休ませとけ」
アランは気を失っていった。