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2013年4月16日火曜日

バルハルの世界






バルハルの世界








1


宇宙船の中であと1時間で着陸といわれた。
「バルハルで目撃されにくいよう森の中に着陸する」
「こんな大きい船で?」
「圧縮できる。それと武器を渡しておく」
半柄の刀だった。パーカーが獣人とたたかうためにエカルテの武器庫から借り受けた刀。
長さの半分が柄(え)で半分が刀。エドアードがうけとった。
「柄を両手で離して握れば力が入る。しっかりやれ」
「ぼくには?」オーブリーがきいた。
「武器は十分だろう。鎧だ」
ボンバーアーマーを受けとった。
「鎧か…初めてつける」
「火薬などの爆撃に耐久性がある」

そしてライオンナイトはドアをあけてさっていった。

「君の名はエドアード…エド…アール?」
「ああ、訛りだ。どっちでもいい」


バルハルについた。
三人で歩きだした。
退屈だが、緑のある大地という感じがする。

「僕の故郷じゃヨーロッパって感じだ」
「…」

見回りの軍隊のようなのがうろついている。
「またか?また捕虜になるのか」
「おちつけ」ライオンナイトがいった。「接触してみる。戦闘準備!」
エドアールが小石をひろって投げた。「ならオレがケンカを売ってやる」
敵が気がついて向かってくる。

「なにものだ!?帝国ギズモンドの兵にむかって。ハーランドのスパイか!?」

ライオンナイトがうなずく。
「なるほど、二カ国が対立状態か」
敵はよく見ると改造ゾンビが8体くらい。騎士の格好をして兜をかぶっていない鎧の男ひとり。





2


港町、ポートシプス。
水面に面したオープンテラスの酒場。
惑星バルハルでは帝国ギズモンドの北東に位置する。

小船が何隻か浮かんでいるのが見える。
ギーギーゆっくりと音を立てて上下に揺れる。
夕の景色にキラキラ海面が光る。

潮のにおい。
カーターは病身の体ながら、ウィスキーをロックでなめていた。
気分が良くなり、ゆったりしたくつろぐ気分になる。
細かいことや難しいことを考える力を失ったが、幸福感を感じて海を見ている。

揺れる海を見ているだけで幸せだった。

インプ(小悪魔)があらわれる。
「酒なんか飲んで…地球を閉じる大地の鍵はみつかったのか!?」
「さっぱりだ。それより話しかけるな。思考が停止している」
「チッ。ひとつだけ。船で海を渡ると大陸につく。そこにハーランドがある。いってみろ」
「ギズモンド帝国と戦争している国か。政情不安定の割におついた景色だ」
「じゃあ。たのむぞ」
インプはボワンと消えた。



3



エドアールが半柄の刀をぬいた。「改造ゾンビか。前に戦闘したことがあるぜ。リベンジだ!」


ダッシュでおどりかかり、半柄の刀をふりまわす。
「軽くふるえる!柄が長いからな」
「なるほど、てこの原理か」オーブリーもブルーレイピアを改造ゾンビに叩きこむ。

刀は切れ味が良く、改造ゾンビの肩を切り裂く。
「もう技を開発したぞ!早蜘蛛」

ズビビビシュ!!

高速な動きで身動きの早い半柄の刀をふりまわす。
改造ゾンビは二三体が、あたりかまわず切れた。
ライオンナイトが武器を取っていった。
「神経の麻痺したゾンビに切り傷は意味がないぞ。力で叩きつぶした方が有効だ!!」

両端にスパイクのついたほこだった。先にとがった刃が伸びている。

「ふん!」ライオンナイトがスパイクで改造ゾンビの頭をたたきつぶした。
楯のライオンが吠え声をあげる。

さらに鎧の男に叩きつけた。
「があは」
鎧ごと砕ける。
鎧の男は剣を抜いたが、呼吸が停止しそうだった。
エドアールはオーブリーに小声で合図した。
(今、ぬけだすか!?)
(いや、やつの戦闘能力を計ってからだ)

二撃目のほこが落ちる。
「…」
鎧の男は血だらけになって砕け死んだ。

「やっ!!」エドアールは半柄の刀を投げた。
改造ゾンビにつきささる。さらにダッシュして、ステンレスソードをきらめかせる。

450

「スカラムーシュ!」

敵はいつの間にか全滅していた。



4


皆さんこんにちは。
絵本の白雪姫なんか、何回読んでもおなじストーリーなのはかわりありません。シンデレラが街に買い物に出かけたら?
捨て子として育った本来の王女が都会の都に足を運んだら?
小説や童話は一枚の絵のように動かないでしょう。
時計はぜんまいやらネジやらバネや歯車で、いきものではありませんがからくりで動いています。
歯車仕掛けの動く絵本があったら。
城の王さまは王様として話を展開し、冒険者はその都合で動いている。
幾重もの歯車がかみ合うのを、万華鏡のように違った輪切りで読むことができる。
動く小説とか作成してみたいです。

主要な人物には全物語があり、それぞれの都合で一本の物語を築いている。
人物同士が結びあうとき、人物の行動がそれたり、動いたりする。
それを違った輪切りで見物客が読める。
王様の一本の話を読み続けてもいいし、冒険者と王さまの二つが振れある目線でも読める。

スポーツの試合なんか生でみると同じ方向から見ることになるのでしょうけど、編集されたカメラだとアングルが都合よく切り替わる。



5



カーターはポートシプスの船にのった。
帝国ギズモンドの支配領にあるとはいえ、比較的中立を装うのがこの港町だった。
よって、ハーランドのある大陸への連絡船も運行している。また、帝国でも連絡を絶つのは不都合が多すぎる。お互いに。

カーターの船はそのまま海を渡り、港についた。
「イギリスとアイルランドのような雰囲気だ」カーターは地球人だ。地球とエジオンにしかいったことがなく、惑星バルハルははじめてとなる。

「本当に船着き場という感じだ。必要な施設以外みあたらない」
港の駅にみえる待合所、みたいなのにはいると地図が張ってある。
「エジオンは未来都市風だが…ここは古風だ」
ハーランド王国はかなり遠くのようだ。
「いくらなんでも馬車じゃないだろう」
みると鉄道が走っている。





ハーランドについて、宿をとった。
じゃがいものスープとウィスキーソーダ。パンとベーコンの料理を食べる。
インプ(小悪魔)がくれた小石を売ったら手持ちの旅費は潤沢だった。
米ドルは無効のようだ。

ケルト風の城がみえる。
高い断崖に立てた要塞のような城。
夕方になって風が吹き、気が楽だ。
焼き肉のいいにおいが風に伝わる。
これからお祭りでも始まるような浮かれた気分の夜だ。
ウィスキーソーダをあおり少し高揚する。

「なんか小学の時の土曜日の夕暮れみたいだ。明日は休みだぞ、みたいな」
月が見える。
地球と同じ光景だ。
「歌でも歌いたいが私は音痴だ」そこでタオでなにかしようとした。
音楽がながれてくるわけでもないが、あの城の景色が暗くなってくる夜景に映えている。
「浮かれた気分になるのはあのお城か。町も人通りがにぎやかだ」
アメリカとは違うにぎわい方だった。
「アルフレットなんかだと、ならず者とケンカしたくなるんだろう。血が騒ぐとかいいだして」
酒と料理はうまいし、体のガンはタオの力でなんとかなる。懐もこっちの世界で結構あったかい。
心配事など思い出せないくらい異国に浸かっていた。

「剣とタオがあれば、生きていけるさ…」
神経質になるような気を使う相手がいない。
それが気楽さだった。
長年住んだ都だと、お互い礼儀や風評に気を使い息が詰まることがある。
そのかわり、知人縁故などいない孤独もついてくる。
旅の恥はかき捨てだった。
あの城の城主などその反対なのだ。
常に国民から見られている。
見張られているといってもよい。
自国に閉じこもると、苦しくなるのだろう。




6



翌日の午後、カーターは城の城主に面会にでかけた。
当直の受付がいた。
なんでも退職した元ハーランドの軍人だそうで、灰色の髭の生えた歳よりだった。
「なんだってハーランド王殿下に謁見したいだって!?」
「そうだ。異世界から来たことを伝えてくれ。何か役に立つかも知れん」
「ふーん。ギズモンドのスパイや兵でないなら、書類を提出してもいいが」
「私は敵でも見方でもない。できれば傭兵などに志願したい」


ハーランド王はおもしろがったようで、退屈しのぎに王間にとおされた。
「早いなお兄さん。もう許可がおりたぞ。モノ好きだな殿下も」

大時計が城のメインタワーについて、おもちゃのお城の世界のような雰囲気だ。
ホワイトキャッスルという感じだ。
紙吹雪とチョコレート菓子が舞っていそうだ。



ハーランド王、クロニカル殿下が迎え出た。
王間は水晶のようにきらめいた青い大理石でできていた。
柱が優雅で、階段が段階を分けて殿下と謁見のものとを隔てている。
その段もまた優雅に見える。
だが、質素にも見えた。
王座の周りには高価な様子の絨毯が丸く敷かれている。

「ようこそ、異世界から来たそうな」
「カーターといいます。タオという道術をつかいます」
「タオ?」

そのとき、使いの者がやってきて、クロニカル殿下にささやいた。
「なに!?ダイアナが?すぐ通せ」

カーターはわきにつったってみていた。
ほっとかれてしまっている。

ダイアナという25才くらいの女性がやってきた。
「ダイアナ。私の求婚を考えてくれたか。私は待ち焦がれている」
「お申しにくいのですが殿下!私には婚約者がありまして…魔術を研究している魔法学者です。やはり、いまから殿下と結ばれるわけにはまいりませんと」
「なんだと、魔法学者か…そうか。わかった、悲しいが仕方ない。今度、城にその先生を連れてこさせよ!」
「ハッ」
「幸せにな」

カーターは思った。
「内輪のことで、こんなにも盛り上がっている。これだけ親密になれる国と国王なら良い政治で国がまとまるだろう。よそより内のことに気が向いていられる」

うらやましいくらいの方の国のほうが安心できる。
下手によそものに興味が向くのは内政に不満がたまっている証拠かもしれない。自分そっちのけだが、この人たちにとりいれられたら素晴らしい展開になりそうな気がしてきた。



7


それからクロニカル殿下はカーターにいった。
「すまない。内輪のことでもめていた。タオの先生、腕が立つなら私のボディーガードを務める気はないか」
「よろこんで…。剣と道術を試す絶好の機会です」
「うむ。そこの壇の下のわきの長椅子をつかうがよい」

カーターは腰かけた。
殿下はさっとどこかに踵を返して消えた。
にっこりして、なにか抱えて背を丸めている。
「カスタードケーキを張り込んだ」

カーターとクロニカル殿下はカスタードをほおばった。
「冬にはリンゴを好む」
殿下はこうもいった。
「私が暇なとき剣術の稽古をつけてもらおうと思う。
仲の良い国といえ、実力が飛びぬけていれば相手にするのは上から押さえつける仕事だけだろうがな。横に実力のたがわないものが多いため、身内の争いがあるのが現実だ。
守らなければない。
私も、身家だ!かばえと言えど、いざとなれば私を追撃しかねない相手をかばう気になれないことも多いな。

なあ、先生。一匹狼なら身を守るのは自分しかいない。だが下もいない。厄介なのは横にいる身内の敵なんだ。実力に差があってこそ、優しくもなれようけどな。下手をすると寝首をかかれん相手に用心せざるを得んのだ」

「ギズモンドとの戦争はいかに」カーターはフォークでカスタードをさしながらいった。
「あれもまずい。実戦もたびたび。それなのに身家での内紛めいたことにも力を抜けない。仕事よ」

殿下はカスタードをたいらげ、お茶をもってこさせた。
「横にいる者同士つつきあうと、他人が見てどう見える?先生」
「それは…王といえど人間かと、かな」
「器が小さく見える。下の者は実際、権力が比較にならん。寛大に接して、威光を張っていればいい。だが、権力が同じくらいなら見苦しい争いで下の者になめられる」
「なら…分不相応に器の大きいものが下の立場の者に」
「飛びぬけていようが、居心地が芳しくないだろうな」
「横どうしつつくより」
「それもある。ベストな配列があると知った。論理で追及すると、まるで死体を解剖している医者のように、気味悪がられる。だが、医者はメスを握らなければ治療できないように。王たるものも力関係のカラクリなど考えなければない。だが、人から見れば疎ましく見える。賢しらだとね」



8


百億年以上昔。
ラフムはこういった。
「我をせき止めるものは他人に非ず。
すべて自然現象(宇宙の真理)だ。
だから王者たる自分は真理を追及する。
魔法や科学すべて。
ピラミッドのような建築と最高の芸術たる美女を権力者は好む。
どちらも実現とその維持に莫大な費用を必要とする。

おのれの力を実感できるという。
単なる建築から、芸術的、あるいは発見された科学や真理、
富をもたらし、権力の維持をもたらす星雲の理解。


9


アルバート3があわられ、ライオンナイトの三人の一行に話しかける。
「バイオソードがギズモンドの城にあった」
「ご苦労。探索を空から続けてくれ」
「オレは三騎将の部下じゃないぞ」
「ふん、マハーラタ様がオーラを練って生き返る、エネルギー生命体か」

エドアールがいった。
「バイオソード!そうだ、あのときいっていた惑星バルハルってここだ」
オーブリーもうなずいた。
「探索の続きだ」
ライオンナイトがいう。
「城下町に君たちは都合がいいが私はあやしまれるだろうな」
「ああ、無理だぜ。ライオンの楯がまず捕まる」エドアールが煙草に火をつけふかした。
オーブリーがライオンナイトにいった。
「ぼくが忍び込んでバイオソードを奪取してくる」