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2013年3月25日月曜日

スライムパニック ― モニカの涙 ―



時空小説をひと休みして

キャリーの十字架、ウルフマンにつづく


スライムパニック ― モニカの涙 ―



1 新居を探す



「エドワルド君よく、やってくれた。支店を完全に君に任せてもいいだろう。わしの予想以上だ。キャロラインが戻ってきて本社もうまくいっている」
ジョンがそう言ってくれて大変うれしかった。
久しぶりの本社では、キャリーと新入社員の青年がやり取りをしていた。
「なぜコンピュータが共用なんですかキャリーさん」
「私のコンピュータだって共用よ。専用のパソコンなんて自分の部屋をもてくるらいになってからよ」
「会社はとはそういうものですか、キャリーさん」
リフレッシュ・ルームで昼食をとり、オフィスにもどると、ジョンとキャロラインがケンカをしていた。
「キャロラインたのむ、モニカがエドワルド君と結婚しても仕事をやめないように君から二人にいってくれ」
「いやです。なんで私が。それにまだ婚約の段階ですよ」
「しかし、新居を探して二人で暮すといっている。モニカは支店に転勤願いをだしておる」
「だから、しりません。私におっしゃらないで自分で説得してください」
モニカと婚約して、二人で新居を探すことになった。






2 スライム



古い家だが広くて見晴らしのいい土地に建った家がみつかった。
価格が法外に安いのは雨漏りがするからでそれは自分で直すという約束だった。
夜、寝室で休んでいると、顔に水滴が落ちてきたのを感じて目が覚めた。
(これが、例の雨漏りだな…)
そう思って、消灯ランプをつけようとしたとき塊の液体が落ちてきた。
あわてて、顔を手でぬぐうと手にはべっとり緑色の粘液質の物質がついていた。
パニックになりそうなのを抑えて、隣のベットで寝ているモニカをおこした。
「モニカ。モニカ!みろ。スライムだ!」
「どうしたの、エドワルド?」
モニカがおきて消灯ランプを点けた。
「スライムだよ。また化けものだ!」
「スライム?どこに?寝ぼけているのエドワルド?」
気がつくとどこにもあの緑色の液体はなかった。
「疲れて嫌な夢を見たのよ。おやすみなさい」


3 パニック



今度は、家の天井から壁から、いたるところにスライムがへばりつき、しかも、グネグネと動き回っていた。
しかし、モニカをおこすと、幻のように消えてしまう。
終いには、水道をひねると緑色のスライムがキッチンにあふれるほどでてきた。
今度もモニカが来ると消えるかと思ったが、消えない。
しかし、モニカには見えないらしい。
最初は疲れて幻を見たと思っていたモニカもキャロラインに相談してみるといった。
「モニカには見えないのにエドワルドには見えるスライム?ストレスじゃないの?医者に相談したほうがいいわよ」
私はだんだんと神経質になっていき、睡眠不足で衰弱してきた。
さすがに、明日、仕事を休んで医師の診察を受けることにした。
その夜、一つの塊となったスライムが私の体を包み込んだ。
モニカに助けを求めようにも、声がだせない。
口のなかにスライムが侵入し始めた。
体表からもどんどん浸透してゆく。
気がつくと、病院に運ばれた後だった。

4 モニカの涙


以前、私が入院した病院にエドワルドは運ばれた。
すぐにICUに入ることになった。
あのときお世話になった医師が、ICUから出てきていった。
「ひさしぶりですな、モニカさん。今度こそ力になりましょう」
「エドワルドの容態は?」
「採血をしてみたら、血が緑色だ。成分の分析結果は後まわしにして、体内の血液を完全に人工血液に置き換えます」
「助かるんですか?」
「前例がないため確実なことは言えませんが、血管にしか緑色の液体は入り込んでいないようだ。あとは体が自然に作る血液と置き換わるのを待って様子を見ます。今話せますが、お会いになりますか?」
ICUに入ると、衰弱したエドワルドがベットに寝ていた。
「モニカ、僕はもう駄目だ。もう助からないだろう。さようならモニカ」
「だいじょうぶよ、しっかりしてちょうだい。エドワルド」
エドワルドにはそういったが、キャリーが病院に駆けつけたとき、私は涙を流した。


5


キャリーが私たちの新居に泊まりに来てくれた。
「ありがちだけどモニカ。スライムを退治しない限りエドワルドは回復しないわよ」
こういって、ナイトキャップをかぶるキャリー。
「子どもがかぶるナイトキャップみたい、キャリー」
「これがないと眠れないのよ。眠ったらまずいんだけど」
気がつくと、スライムは魚の群れのようにいたるところにうようよしている。
キャリーはナイトキャップをかぶったままマルコフソードを突き立てた。
しかし、スライムは何もなかったように蠢いている。
「やっぱり、剣じゃスライムには通用しないわ」
そういうと、キャリーは大きなカプセルを取り出した。
「やつらはタンパク質の塊。剣は通用しないけど核をカプセルに封じ込めれば一網打尽のはず」
そういったとたん、すべてのスライムが集まり巨大な塊となる。
キャリーはマルコフソードで、ゼリーをすくい取るように、スライムの核を救いだいした。
そして、急いで、カプセルに核を入れるとふたをしめた。
残骸のスライムはただのタンパク質の塊となり、刺激臭を発して蒸発した。
「核は病院で処理してもらいましょうモニカ」
キャリーがいてくれて本当によかった。
エドワルドは退院し、私達の新しい生活が始まった。