ラグナクロクの恋
1
幕間
詩人役
布令役(ふれやく)に促され、唱を詠う。
神々の戦いも、原初の生物もいいが、
国を築いた、野盗から身をおこす国王もまた良いが、
何代もの歴史を引き継いだ、貴族。
同じエピソードを繰り返すうち、
あやまりや、くい違いが洗練されて、
すごしやすく。
川の石が削れて、なめらかに洗われるように。
先代の教えが、さらに歴史の重みに研磨され、
あるいは、教えがゆがめられ、禁を破り、
自分で体験するという貴重さと、
取り返しのつかない、過ちとを両肩に乗せ、
磔の刑となり自滅した、
若き青年の恋物語もまた良い。
与えられた世界、
親戚のつながり、
代々の家の敷地の中での冒険といえ、
自分の戦争にとびだす勇気は、
はげしく心臓が鳴り響く。
悩み役 「こんどばかりは、厄介な悩みだ。恋の悩みを肩代わりして、大いに悩む。私が悩むから恋人役は劇に専念していてくれ。そのかわり役がおわったら、劇を見せてもらう。肩代わりだ」
詩人役 「謌に音楽はつきもの、詩を詠うと楽器と、しくじったときの心配は悩み役にかわってもらう。だから安心して音色に専念できる…悩み辛みを愚痴も言わずに我慢してると思うと、自分も無理して走ろうと思える」
幕引き
2
浮遊円盤状惑星、コインメタトリーのラグナクロク国。
4月の春。夕方だが雨が降りだし、ガラスの大きな窓に雨粒がぶつかる。
季節にしては暗い天気だ。
22歳のアルバリシアは母親に呼び出され、音楽会場に付属した喫茶店でお茶を飲んでいた。
いつもなら今の時間何をしていただろう。記憶が即時的に起こらない。
ああ、昨日は…?
雨のせいで家に帰るという選択肢が消されて、あきらめて建物の中にいようという気分にさせる。
そうでないと…早く家に帰りたい!そんなことになる。
母親が現れない。
ひとり喫茶店のイスに座っている。
喫茶店の出口から、ロビーとホールがあり、音楽館とつながる。
レストランや売店、そのほかのホールがあるらしい。
アルバリシアはラグナクロク国王の娘、カロリーナ姫と親籍筋で、友達でもある。いわゆる名家の出身で、ラグナクロク国に限れば、結構な伝統と名声をいまだもっている。
だが、空飛ぶ円盤が4つつながり、4国が同盟を結ぶ、コインメタトリーのほかの国まで足を延ばすと、その知名度は絶対とはいえない。
自分とよその国の国王でさえ、それほど関心をもたれるほどでもないのに、名門の血筋といえそこまでの、つてはない。
母が来た。
「ごめん。おくれて。雨が強いわね」
そういって母親はイスにすわった。
アルバリシアが母に尋ねた。
「演奏会が今、終わったの?」
「みたいプログラムは見てきたわ」
母親の話はこうだった。
戦争にいっている、これまた親戚の青年エドアールが、もうじき帰ってくる。軍人ではないがガオン討伐の部隊に参加している。
ラグナクロク国の空き地の多い端のほうの土地に住居式宇宙船を停泊させていた。
国王はクラーク王と共同で戦闘マシーン:アーレスを開発しようとしていたが、計画は未定になっている。次の軍事対策として志願者を国家の一次帰属傭兵として雇う方針となった。
名誉と年金が手にはいる。
そのエドアールとの縁談の話だった。
3
詩人役
気高く美しい女性を手に入れるには、
もっとも価値ある報酬を獲得するには、
多大な労苦と忍耐のすえ手にはいるという。
古今東西、富を得た者も、
奇代な作品も、強い武器も、
シチリアの高級な葡萄酒よりも、
尊ばれるという。
サイコロギターを放り投げて、音楽を奏でる。
それが詩人の仕事。
悩み役は恋人たちの苦悩を肩代わりする。
見物人たちは、劇中の苦悩を
分けていただき、
苦悩のワインに酔いしれる。
(ポリフェノール類とか)
外の雨はやみそうにない。
帰りは母はタクシーを使うだろう。
「あなたも子供のころ何回か会っているのよ」
思い出した。
昨日の今の時間、スタンダールを図書室から持ち出して、自分の部屋で読んでいた。
「とにかく、あなたも結婚のことを考えて頂戴…」
結婚…確かに親戚で話に聞いたことのあるエドアール…子供の時会ったことがある。
アイスのレモンティーをストローでかきまぜ、考える。
歴史的にゴールド・ウィンよりあとにつくられたラグナクロク…
エカルテみたいな古さがないのに、しきたりみたいなものがあるのは自分の家くらいだ。それこそエドアールとかカロリーナとか親せき筋の。
学校の歴史の時間、教科書に自分の家の先祖の名前が出てくるのが恥ずかしかった。
翌日 晴れ
ラグナクロク軍
エドアールたちはガオンを駆逐して勝利して帰ってきた。
雨が草地をぬらしている。
空は快晴。
未来都市ラグナクロクはエカルテに負けないくらい、自然そのままの自由地がのこっている。
手入れもしないから、立地のとき生やした雑草が生い茂る草原だ。
エドアールは仲間の兵の肩をたたいていった。
「戦闘ロボにたよる自衛から、有志の傭兵だ。まだ若いうちは、頑張れと尻を叩かれるが、本当に無理になる前にドクターストップをかけてくれる。いい国だ」
「年金で町工場を始めるつもりだ」
もう一人の青年がいう。
「机に向かって授業ばかり聞いていると、体がなまる。重いものを担ぐと骨がきしんで楽になる」
「あまり続くと関節を壊すけど?」
「敵度なら腰が楽になるさ」
「あまり象みたいだと、ストップしてもらえないぞ」
「エドアールは何に金を使う?」
「もう前金でもらっている。現物支給さ。グッドソード。遠くの星での新作品だ。いいとこゴールドエクスカリバーをもっているやつが、一番いいものもってるかんじだろう?最新の一番はこれさ」
「そういやエドアール。ガオンを真っ二つにできたな。その剣よほどいいのか」
「まず、手に入りにくい。生産地でもめずらしいさ。それにこの切れ味」
「高いだろ」
あるきながら青年の兵は話している。
あとは家に帰って休むだけだ。
4
テレポートソードの展示会
ラグナクロクのシティの高層ビルのテナントの一室で開かれた。
にぶく点滅する明かりのイミテーションが落ち着いた気分にさせてくれる。
そう計算してつくっている。
安心して快適にテレポートソードの発表を見られる。
それにより、製品に高級感を感じさせている。
意味不明の柱や出っ張りの飾りは鍾乳洞をイメージしている。
「えー、我がラグナクロクは、家庭用コンピュータだけでなく、軍事にも最新技術に力を入れまして、国民の生活の守りに力を入れ…」
オーブリー・ウォーターがはるばるエカルテから見物にやってきていた。
「やあ、来たぞ。テレポートソードだ」
イーグルフルーレとブルーレイピアの二挺をしこんで、警備員は荒っぽい武器を装備していたら、いれてくれなかったかもしれないが、高級そうな宝剣をみて安全だと判断してくれた。
「そんなにぼくは安全な男じゃないけど…ケンカもしたし…」
首を振りながら、展示室にはいった。
イーグルフルーレはカロリーナの父のラグナクロク国王が救出のお礼にオーブリーに送った品だった。
「えー物理的に物質が進むとは、仮説ではありますが、マクロであれ電場と磁場の変化により伝わると…光も粒子なら、マクロの物質も電波であるという、ド・ブロイ氏の説により。そして、位置エネルギーと運動エネルギーのブランコが重力振り子で、同時に時計」
客は20人くらいか、金持ちそうな客がやはり多いが、若い戦士らしき客も強い武具みたさにきている。
「ぼくは庶民の出だけど…最新の武器の展示会なら興味津津だ」
「光も、えー電場と磁場をいききする時計ととらえ、その砂時計の行き来の速さは重力加速度に左右されると。とすると、マイナスの重力加速度で、テレポートのような超高速を、えー」
「あら、オーブリーさん」
「ああ、これはカロリーナ姫…」
「それでは実際にテレポートソードを実践してみましょう」
会場は沸き立った。
「へー実践か」
マシンガンを持った戦闘ロボが、テレポートソードをもったロボに、銃撃する。
兵士がリモコンで操作している。
これは地下の防弾施設でおこなわれているのを中継している。
防空壕の目的や、地震、戦闘実験のための多目的ホールとして地下室を利用している。
巨大スクリーンはレイアウトとデザインがスタイリッシュだった。
「おお、」
ガガガッガガー
マシンガンが爆音を立てて撃たれる。が、テレポートソードを装備したロボは玉をすり抜けるかのようにいない。
と、マシンガンのロボの後ろに現れた。
(ホントにテレポートした!)
会場は大いに沸いた。
「ノー」
「オオー」
後ろからテレポートソードを切りつける。
「そうだ!瞬間移動もいいけど!破壊力は!?」
ザシュ
一撃でロボットの胴体をちぎった。
「オオオオ」
5
母親がいう。
「しきたりは迷信なんかじゃないの。昔の家を築いたご先祖様と代々受け継がれた、マナーなの」
「こうしとけば無難みたいなでしょ」
数学の問題の模範解答を演習するみたいなもので、状況が違えばエラーのときもある…。
「よその家庭なんて家との常識や考え方と釣り合わないことが多いのよ。家(うち)のしきたりが正しいというんじゃないけど、あなたその歳まで家で暮して、よそのお宅に行ったら悲鳴をあげることになるわよ。ご親戚のエルモント家なら、まちがいありません」
エドアールはエドアール・エルモントという。
家(うち)はハオゼンツィズ家
カロリーナはラグナクロク家で先祖は三家共通の初代ラグナクロク国王だ。
外にいる人は入りたがり、中にいる人は出たがる。
あれは結婚のことだったか…、一家でも同じだ。
マナーを守るということは勉強しながら、それをもとに論文を書くようで、二重に疲れる。
しきたりがあるから、中の人は居心地がいい。それを見て羨ましがる。
ところが…しきたりなんか無視してしまえば!
決められた世界は安全で楽しいけど、外の世界に冒険をしたい!
私は知っている。
女なんて頼りある男性に身を任せたいといいながら、弱虫の男の尻を叩いて、命令したいのが本心なのだ。
男性に身を委ねられる女なんて、よほど最初からそうできている。
自分がメインになって行動したいのだ。男に仕切られると窮屈になる。
それを知らないからうらやましがるだけなのだ。
それこそ、初代ラグナクロク国王なんかに、指図したりしたら!首をはねられるだろう。
自分でわかる。私で初代国王の妻なんて務まらない。
養殖のように弱まった自分には。
頭の悪い女の人は男の人が何を言っているのかわからない。云いつけを無視して、首になる。
私は、いっていることは分かるが、そこまで熱心に実行する気力がないといったところだ。
自分で無理とわかるだけ偉いとほめて見た。
あと天才肌の女の子。あれは確かにいる。
初代と考え方、思うことルールがぴったり合う。
だから、それだから、私の夫は半分命令して、半分私がお尻をはたく相手だ。
母がいうような、頭の悪い娘は、自分の願望を相手の男に強要する。それで相手にされないか、嫌悪されて避けられていくのだ。
それなら、気の弱い男の子を自分で育ててください。
相手の男は女のその願望を軽蔑していることがおおい。
エドアールなら私と釣り合うのかも。
そう判断して、屋敷の暖炉の当りのいい位置のソファから立ち上がり、自分の部屋へと階段を昇る。
暖炉の前には誰も人がいなかった。
それで、考えに没頭したが、ここが居心地悪ければ、階段の踊り場のイスとミニテーブルの鉢植えがならんだ、小スペースにたむろしていただろう。
6
エカルテ城 王間
アルフレットが立ったまま紅茶を飲んでいる。
おやつの時間だった。
「それにしても、午前中におやつか?アルフレット」
クラークが王座に座っていった。
「別に…ティをカップ・オブに飲みたくなったんでね」
アルフレットが答えた。
秘書猫がいった。
「まあ、建築とか午前午後におやつありとかいいますよ」
「ぼくは傭兵なんでね。キューピーさんの容体は?」
クラークは秘書猫を見た。
「病院の医師からは…意識が戻っていないと。命に別条はないみたいですが」
「そうか…」
アルフレットがいった。
「紅茶ごちそうさん。これからラグナクロク方面にいってくる。ほとんど知らない土地だけど」
「なにしに?」
「見物と民の平和を警察権力として死守するためさ」
「おい、警察じゃないぞ。もめるなよ」
「ああ¨」
アルバリシア・ハオゼンツィズはその日の朝食後、屋敷の庭のフォンテン・ガーデンを散歩していた。
地球でいうイングリッシュガーデンのようで、かなりの広さがある。
歩き疲れてベンチに座って休んでいた。
誰もいなく、鳥の鳴き声が聞こえる。
人のいるところに行ってみたくなり、午後から博物館に出かけることにした。
自室で外出用の洋服に着替えて、博物館に出かけた。
7
エドアード・エルモント軍隊の駐屯地で軍服を着て仲間と待機していた。
「エドアード、お前が結婚?年金なんて年次契約でその年しか出ないぞ。年度ごとに更新しないと、次の年も軍に留まれないんだぞ」
「そうだぞ、職なしで結婚か!?」
「あわてるな、おまえら。その帽子は何だ」
「青年軍人はこのての帽子が似合うんだ」
「フェルト帽だぞ、おまえもかぶれ」
「あとシガレットな」
そういってエドアードは煙草をみんなに配った。
「ああ、ガスをくれ」
「ほらよ」
火をつけ煙を吸い込む。
「オレのおじさんかおばさんがラグナクロクの国王なんだ。見合い相手も親戚の女だ」
「なんだよ、親せきかよ。おぼっちゃん」
「王のあとをつげるのかよ」
「いや、やりたくないな。それより軍の管理官くらいに指名してほしいな。自国を守る軍隊だ」
「グッド・ソードでガオンを切り倒したいだけじゃないのかよエドアード」
「敵はガオンだけじゃないぞ。経済がふらついている星じゃ、略奪戦争を仕掛けるところが出ている。新聞よんどけ」
そういってエドアードは新聞紙をまるめて、なげつけた。
ニヤニヤしながら紙玉をうけて仲間はいった。
「ああ、喰えなきゃオレでもそうしかねないさ。で結婚するのかよ」
「しない。オレはこう読んでいる。おおかた向こうが断る。見合いはするが」
「なんだよ」
「だが、他に結婚したい相手もいない。噛みついてくるんだ。話に聞くと、噛みつくこと時代が目的みたいな女がいるという。オレは箱入りなんで、よその女なんか知らないけどな」
「映画だろ。違う惑星の映画とか見るなよ」
「そうだ、教科書をよめよ、おぼっちゃま!」
「聞け。婚約はするが5年後に結婚という条件にするんだ。その方が無難だ。悪い相手じゃなさそうなんだ」
「今度はのろけかよ」
「そろそろトレーニングで鍛えるぞ」
8
オーブリーは無料自動販売機でとってきたジュースをカロリーナ姫と飲んでいた。
高層ビルの足元に小さな公園があり、そこで話をしていた。
「ぼくならこうやって、空中で体をねじって剣を振りかぶる。ななめ螺線みたいにね」
「それで?」
「そこでテレポートソードのスイッチをいれる。敵の背後に回ってショットだ」
アルバリシアがちょうどそのとき、公園のわきの道路を横切ろうとしていた。
「カロリーナだわ。あの男の人は?」
二人は公園の芝生で仲良さそうに話しているようにアルバリシアには感じられた。
「あんな、ならず者みたいな感じの男性と。カロリーナらしくないけど、でも高そうな剣をさげてる…結婚する気のない男性と親しくするなんて無作法だと思うけど」
アルバリシアはきになったが、声をかけるわけにもいかず、黙って見てるのもどうかと思い、博物館へ歩き出した。
オーブリーは付け足すようにいった。
「それと…姫。ぼくみたいな家業をやっている人間と上流階級のお姫様が仲良くしちゃダメだ。ぼくみたいな人間が面白く見えるかもしれないけど、あな
たにはあなたの身分がある。国をつぐ男と結婚するかもしれない。そのときよそに男がいたらどうする?あんまりいい気がしないじゃない。レディとして品格を疑われるぞ」
最後の語尾をオーブリーは強くいった。
カロリーナは思わずビクッとした。
「結婚そのときがくるまで、手荒なことはしないことだ。お姫様」
こういってオーブリーは去っていった。
カロリーナは一人反省した。
「そうね…オーブリーさん。軽い気持ちで男性と親しくするのは良くない娘のすることね。夫と幸福を維持できない女のすることだわ。もし、あなたと結ばれるとしたら、苦難を覚悟でないと。契りの大切さ」
カロリーナ姫はこうだった。
9
エドアードたちはトレーニングを終え、休んでいた。
「今日も良く励んだぜ」
「ああ、まったくだ」
「グッドソードで俺を襲わないで恋敵きを狙えよ」
エドアードもタオルで汗を拭いた。
「恋敵か…」
「おい、たばこくれよ」
「ほら、俺のをやる」
「ああ、金けつだぜ。作法がいいから金が削れて行くんだ」
息がはずんでいるときに火をつけて、すぐくわえるだけで深呼吸した。
「ああ、たばこ一本でリッチだ」
「やけにしゃべるな」
「酒も御馳走しろよ」
「夕飯までたかる気か!こいつ」
エドアードがいった。
「仲間うちは大事にしろよ。つるんでいる間だけでも、お互いもめ事は最小限我慢しろ」
煙草を親指と人差し指でつまんで放しいった。
「最小限かよ。もっと心を開けよ」
「フフフ…これ以上開けるかよ」
「ああ、就職しても別の苦労があるさ」
10
アーリアルセトスが空飛ぶサンダルをはいて宇宙空間の天空を飛んでいた。
ジォヴェの依頼を果たすために。
みると、地球の神が恒星に身を埋めてエネルギーを吸収している。
腕を水平に伸ばし、眠るかのようにたたずむ。
「おまえは…地球の神だな。どうした、やられたのか?」
「お前はセトス…。ああ!敵にやられてこのざまだ。体が再生するまでもうしばらくの辛抱だ。こともあろうに下衆に不覚を取った」
「ふん、地球は手放し運転か」
「監視はしてるがな。かなり壊滅的な状況だ。あと少しだ」
「ジォヴェの命を果たした後になら手を貸してもいいぞ」
「まに合えば頼む」
11
みなさんは、卒業や職場を離れたりして合わなくなった知り合いに、数年ぶりで会うことになるコンビニなんかがありませんか。
旅人のあうコーヒーハウスやパブのように、公共施設のように、国の関所のように、ひさしぶりの人に会う。
そのコンビニに行くとよく、昔の知り合いに遭遇する。
その場所は旅行者の中継地点なのかもしれません。
高層ビルの一階の一角にコンビニがテナントで入っている。
ビルの正面玄関とは別に、コンビニの普通の自動ドアがあり、コンビニの端が壁でなく通路になり、ビルの別の入口になっている。
ビルで仕事をしているサラリーマンがお昼にお弁当を買いに来る。
あるいは、外を歩いている人がコンビニで買い物をして、そのままその足でビルの中のどこかに立ち寄る。
そんなコンビニがラグナクロクのビル群のエリアにあった。
夕暮、アルフレットがコンビニの雑誌コーナーで立ち読みをしている。
「どれどれ、うん、MP3事典か。ネットで売ってる音楽の全部を網羅。ネットの画面そのまま紙に印刷したみたいだなこりゃ。うん、しらみつぶしに楽しめるな」
足を開いて立ち読みする。
そこに仕事帰りの一次帰属兵たちがはいってきた。
エドアードたちだ。
「ああ、エールにしようぜ。エールをおごれよ」
「それにしてもエドアード。お前もおぼっちゃんなんだろうけど、そんなお嬢様と見合いして大丈夫か」
「だまれ。国王のおじさんも薦めるんだ。金持ちで権力者の親父が推薦する娘がまず間違いがないんだ」
「権力者のおっさんをあてにするなよ」
アルフレットの後ろを通り過ぎ、酒類販売の冷蔵庫からエールをかごに入れた。
「カップラーメンを買えよ。お湯入れてもらおうぜ」
「一人一個までにしろ」
「いいさ。俺の家で喰えよ。ああ、ただで上がらせるぜ」
「ソーセージパンも買っていいぞ」
「ああ、おやすいごようさ」
いろいろ買い物して、彼らはレジで精算して帰っていった。
「ふーん。金持ちの権力者ねー。うらやましいな。おいこらクラーク、旅費をもうチッらっとくるめ」
アルフレットは雑誌をとじるともどし、
「あの、ホッドドック、ケチャップとマスタードつけて、あと、カップのホットコーヒー…」
コンビニをでるとアルフレットは近くの公園のベンチでホットドックを食べはじめた。
「旅費がないから、公園で野宿か…ラグナクロクの夜は寒いぜ」
12
エジオン コーヒールーム
アルセウスがテーブルに本を何冊か乗せて読んでいる。
パーカーが休憩に入ってきた。
「うむふうむふう」
「パーカーもうじきアランが帰ってくる」
「むふう。パワーアップしたって知れてるさ、もう一人軍人を増やすか。エジオンではなり手がいない。何を読んでいるんだ?」
「ロミオとジュリエット、シンデレラ、ラパチー二の娘、ベアトリーチェ麗しき毒殺者…」
「恋愛の悲喜劇か」
「なんの理由もなしにヒロインをみてヒーローが燃えるように恋愛するが、根拠は何なんだ。何がそんなに喜ばれるのかと思って」
「台本だ」
「そうだ、恋が芽生えるかシュミレーションしてる作品じゃない。恋するという前提からスタートしてあらすじを展開してるだけだ」
「早い話、ジュリエットはジュリエットってだけでロミオに受けいれられるんだ」
「たぶんそれだ。具体的に何がいいとかじゃなくて鍵と鍵穴みたいにお約束なんだ」
アルバリシアが屋敷の庭で植物の手入れをしていた。
首を少しかしげ、手袋を腕まではいて、よろよろ歩いていた。
スコップで土をいじりホースでみずをまく。
アーチをくぐってアルバリシアの父親がやってくる。
「庭仕事に余念がないね。音楽館でエドワードにあうのは一週間後だけど、きぶんはどうだね」
「ええ、お父様」
父親は庭の草花に目をちらっとやったが語りだした。
「人間は成長の過程で陥りやすい袋小路みたいなものがある。努力して力をつける。それはすばらしいことだ。やられっぱなしの弱い人間は、力をつけなければない。勉強なりなんなりして役に立つ人間になるようにする。ところが、会得した力で人に害を働くようになったら。得意になるくらいなら程度の問題だ。悪くない。だが、正常な成長とは辛いものだ。力があるという理由でハンデをつけられて損をさせられるかもしれない。自分の得に勝ちを使えないこともあるかもしれない。それなら、自分のわがままに力をふるいたくなる。弱いものを虐げたり。男性でも女性でも成長の途中にある罠だ。その袋小路に入ったら出てこれないかもしれない」
アルバリシアが答えた。
「力の何もない生まれた状態から、努力してステップアップする。何もしない人よりよほど褒められそうね。小説に出てくる悪魔みたいに力をよくないことに…」
「ケースバイケースだがね。お前はわかっていると思うが、正常な成長は苦難を通る。だが、私に言わせると、手に力がつくと、苦しくなく力を使えるようになる。そこで第一の幸福が来る。ある程度の幸福なら、手にした力でそれほどでもなく手に入れられる」
「お医者さまなんかそんな感じね」
「だが、人によるが、幸福に飽きると気が来る。別の何かを求める。そのときはまた、力をつけるために苦難の関門を通る。成功すれば一段高い世界が開ける。だが、幸福に飽きたとき、刺激を増そうと、過度の飲酒、危険な薬物、危険行為で紛らわせる人がいる。正常なステップアップが必要なタイミングに。これは危険で快楽も幸福も手にはいらず体を壊す。必要なのは階段を上る苦労だ。それと、めったにいないと思うが、手にした幸福を味わわないで次の階段を上りすぎる人、私はもったいない人だと思う。理由がないなら楽しんでから階段を上った方がいい。以上は私が生きた経験と読書からの仮説だ。結婚を迎える娘のお前に送る父さんの考えたことだ」
アルバリシアはわかったわというようにうなずくと、土仕事に向かった。
13
オーブリーはまだエカルテにもどらずラグナクロクに滞在していた。
簡易ホテルにとまっていたが、例のコンビニにはいった。
(牛乳をと…剣でも銃でも教官が大人だったら、全部任せて技の習得に集中できる。ところが、いるだけで心配になるやつが教官だったら?そっちに気をとられて、学ぶどころじゃない。大勢を前に発表。緊張してあたりまえのことができなくなる。あれだ、頭の意識を別のことにもってかれる。ぼくなんか上手の敵だと攻撃をもろに喰らう。攻撃主体で気をもってかれるんだ。防御が甘い。テレポートソードなんかそんなとき、有利だ。危ないとおもったら、ボタンを押して逃げる!でも、テクノロジーに頼りすぎるとカンがにぶる)
冷蔵庫から牛乳を取り出して買う。
公園のベンチでアルフレットがポケットに手を入れちじこまり、寝ていた。
「うーっ寒い。なんでぼくが…コンビニでコーヒーを買うか」
オーブリーが丁度出口から出るところだった。
(…あ)
(あ?クラーク王といた戦士だ)
ふたりとも気がついたが、きづかないふりをしてすれ違った。
アルフレットはコーヒーをベンチで飲みながら考えた。
(神経だ。両手の薬指と両足の薬指が心臓を通してピアノ線みたいな繊維の神経でつながっていると夢想する。心臓が楽になる…一本の光が電線を通る。丹田とかオーラの基本だ)
14
駐屯地
「ヘイ、今日の夜は味付き肉をコンビニで買って帰ろうぜ。フライパンで焼くだけで食える。コンビニの弁当はいまだに苦手だぜ」
「給料日にはそっちがおごれよ」
「いや、給料日には急用があるさ。ああ電話だ。ああ、役所からだ。ハイハイ」
公園にならずものの浮浪者がいるからと連絡があったらしい。
「君たちで対処してくれっていわれたぜ」
エドアードがいった。
「しょうがない、いくか。そのために俺たちが雇わられているんだ」
「ああ、いつも買い物してるコンビニのそばの公園だ」
「憲兵の仕事か」
四人組はそれぞれ武器を担いで駐屯地をでた。
「こんなんじゃ、俺たちは青年実業家みたいだぜ」
公園につくとアルフレットがベンチで居眠りをしている。
「おい、貴様。通報があったぞ、留置所までおとなしくこい」
エドアードがいった。
「まて、一種の預言者みたいな雰囲気だ。ただの大男でなさそうだ。ブロームインの魔法軍とかオーラバトラーとかみたいに気を感じる」
アルフレットは目がさめおきた。
「なんだ、おまえら、自分は怪しいものじゃない」
一次帰属兵の仲間のひとりがいった。
「俺がロケットランス(3580)で様子を見る」
「ああ、頼む」
ロケットランスを両手で握り、レバーを握る。
ドン!
ロケットが発射され、ローラースケートのように地面を滑る。
ズザアアアアア!
ランスの先がアルフレットを襲う。
(どうする?金髪の浮浪者?武器なしで)
アルフレットは素手で握って止めた。
「ふん!」
「おおお!?すごいぜ」
「何もんだ!?!」
「くそ、はなせ」
アルフレットはランスの先を放した。
「まて、僕は賊じゃない」
「充分賊だぜ」
そういって、兵はランスを真上にあげ、回転させ打ち下ろした。
ガッ!
アルフレットは右手を上にあげ、とめた。
「まただ、素手だぞ!俺のランスを」
エドアードが叫んだ。
「光った。あれがオーラだ」
「おまえにも使えないのかよ」
「無理だ。今のオレは剣戟しか」
「やるならしかたないけど!?」
アルフレットはオーラを10%噴射させた。
「痛い目みろよ、おまわりさん」
兵は数メートルふっとばされ倒れた。
「ヘイ!奴はそんな甘い相手じゃないぜ」
残りの二人がエドアードをのこして、斬りかかった。
「国からの借り物のライデンソード!折ったりするなよ」
「とあ!」
アルフレットは右と左手で両方のライデンソードを受け止めた。
「おおっ!マジかよ」
「くそ、俺たちじゃ無理だ」
エドアードがグッド・ソードを抜いた。
「下がってろ!オレがいく」
アルフレットは軽く構えた。
「ふーん、なかなかいい剣みたいだけど。愛剣をなくしたばかりでね」
15
エドアードはアルフレットのオーラをみておもいだした。
原子爆弾が落ちた惑星で、瞬時に人や生き物が蒸発し消し飛んだが、ピカと光終えたときなんでもないように歩いていたおじさんがいたという。彼こそ精神力で頭痛とめまいがするくらいで何ともなかったという。精神力のないあきらめやすい人間は壁の影になっていながら、影形もなく消し飛んだという。
「オーラか、貴様の武器は」
エドワードは気軽にグッド・ソードをふるう。
「うん。若者らしい太刀さばきだ」
アルフレットはオーラのバリアでガードする。
さばいて、剣を抑えようとするが抜けられた。
「おっと、自慢の剣をためさせてもらう。相手にとって不足はないからな」
「どうぞご自由に」
エドアードは剣を右手でふるい斬りつける。、いつのまにか瞬時に左手に剣を持ちかえていた。
ズューギャ!
「ハッ!振り返しの剣」
245…
アルフレットの腕から血が流れる。
「…いい切れ味だ」
エドアードが勢いづいて斬りかかる。
「グッドソードだ。グレートシティからの輸入品だ」
「なるほど」
アルフレットはよけながら、ソバットのように蹴りを出した。
「いけ、エドアード。あの金髪とわたりあってるぜ」
(いや…人間じゃないみたいな強さだ…)
アルフレットは軽快に逆立ちし、カポエラキックのように回転しながら足技をくりだす。
(クッ…見世物のサービスをするように!それだけ余裕か)
「ヘイ!どうした?相手は素手の足技なのに剣で攻撃できないのかよ」
(剣が来た瞬間行動をとる構えだ…こいつ!)
アルバートは一か八か、独楽にさわるように、見定めグッドソードをたたきこむ。
チュイン!
アルフレットのカポエラキックにはじかれ、エドアードの剣は吹っ飛んだ。
「勝負ありかな」
「いや、勝負ありじゃないぜ。とにかく城の役所にこい」
「しかたない。捕まるか」
「賢くいこうぜ金髪の兄さん。スマートにいくとうまくいく」
アルフレットはエカルテに連絡がいき、クラークが身元引受人として手続きをとった。
ことは一件落着した。
16
駐屯地
エドアードがいった。
「おい、あの事件の時の身元引受人。ホントにエカルテのクラーク王だ」
パソコンでインターネットを閲覧していった。
「なんだよ。俺たちゃ戦闘の訓練中だぜ。強敵もいるさ。悔やむなよ」
「いや、やつは仕方ない。それより、また対戦したい」
「じゃなんだよ」
「エカルテ王の知り合いだ。あの金髪」
「ああ、クラークとかいう。新聞よんどけよ、ネットでいいから」
…
エカルテ城 王間
クラーク、アルフレット、秘書猫、エドガーが広間にいる。
「アルフレット、よその国でもめるなよ」
「すまん」
エドガーがいった。
「ラグナロク国王が融通をきかせてくれたが、政治問題になりかねん。以後つつしんでいただきたい」
アルフレットがいった。
「わかった…。それで給金の前借を願いたい。なくしたアウトセーバーの代わりにいい剣を見つけた」
「剣な」
「グッド・ソードといってグレートシティに売っているらしい」
「わかるけどな。そんな融通利かせるほど国庫の財布ゆるくないしな」
「そこを頼む」
その時メールが届いた。
✉:ゴールド・ウィン王より
カラフルなアイコンボタンが煙とともに現れた。
クラークが叩いて割ると、壁のモニターにメール文章が表示される。
一同読んだが、地獄牢の鬼女をアルフレットが退治してくれたので報酬に何が良いか。という内容の手紙だった。
「どうする?アルフレットゴールドエクスカリバーを報酬に貰うか?それとも金をもらって買い物に行くか?」
「…ゴールドエクスカリバーも悪くない。ぼくのオーラとマッチした武器だ。だが、今のぼくのフルパワーなら二回もふるえば消えてなくなる。グッドソードなら、オーラを通わせなければ、長持ちする」
「ゴールドエクスカリバーにオーラおさえてつかえよ」
「…それだと力で叩きつけるだけだ。グッド・ソードは切れ味がいい」
「なら、親善に協力したという名目で国庫から旅費をだしてやる。少しだけどな」
「ありがたい。安い船で旅する…」