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2013年3月18日月曜日

二周目の牢獄







二周目の牢獄










1

ラストダンジョン

最強の地獄


もっとも強力な地獄…

そこには最も強力な敵が封印されている。
その次点の地獄はゴールド・ウィンの裏にある地獄の巨大な扉である。
男の巨人は、地獄牢の中の通路から旅に出、女の鬼女はアルフレットのオーラトレインで焼きつくされた。

上から三番目の地獄はイブリースが支配することになっている。


「ジォヴェが自ら作った屋敷か…」
その男は魔法の扉を慎重にさわってみた…

「…ジォヴェにやぶれて封印されたが…からくり屋敷の封印を解いて脱出するより、気を引く見世物に気を取られ、牢をでるのが遅れている…」

男はめずらしい壺が並んでいるのを眺めた。
さまざまな魔法書、科学、哲学、美術、芸術、数学、文学、ありとあらゆる、気を引く図書がいたるところに並んである。
屋敷中の蔵書を読んでいるときりがない。
珍しい絵画、みたこともない音楽のなる壺、きいたことのない香木をたいたお香。
かずかずの考えられようもない武具。
「さすがジォヴェの武具だ。この武具にわが軍は敗れたのか…」
男は武器を手に取って見た。

気を引くものは、他にも数々ある。
外界を眺めることのできる、雲の井戸端。
覗くとはるかな高い雲の上から地上を見下ろしているかのような、それでいて望遠鏡のように地上のものが見え隠れする。

それらが、鍵をさがして封印を解く時間を奪っている。
「…牢に封印されたが、なるほど、力尽くの牢なら壊して出ているだろうに…ジォヴェの考えることは面白い」

酒蔵の蔵酒も尽きない。
「飲めば酔う…月日のたつのを忘れさせる。幽閉の身でありながら心地の良い夢に揺られる」

大神ジォヴェに敗れたときは!…
激しい戦争により、世界が滅亡するかのようだった。
だが、ジォヴェの軍も引かなかった。
「世界を消滅させる気か!?」
自らも引かなかった。

どちらが強いのかどちらにもわからないかのようだった。

「だが、ジォヴェの謎めいた強さは余にも測れなかった」

ふたつの月が窓から輝く。
酒を、これもまた妙なるグラスに注ぎ、煽りながら月を見る。
闘いに敗れた苦悶もなぜか遠い過去のことか、自分のことでないかのように感じられる。




2



無人と思われる屋敷に、来訪者が来た。

「大神ジォヴェ様のつかいのものである。アーリアルセトス様に…」

幽閉されてる自分でも出口も門もはっきりわからない屋敷だが、旅団とおもわれるいでたちの使いの者たちは、貢物をもってくる異国の友好者のように、アーリアルセトスをもてなした。

「酒ならあるが…」
「特別のお計らいにより…」
「珍しい酒か…」
「シリウス星の雨水をまぜた、霊酒にございます」
屋敷にある蔵酒も、高価だったが燃え盛る恒星シリウスの雨水はそう簡単に手に入れる代物ではなかった。

さらに、土を焼いてつくられた器。
一枚の平面に描かれた絵も良いが、器の輪になった曲面にかかれた、単純でありながら、つながったような、物語の絵巻のように、くるくる回して見ると、なにかの神話のように講釈が聞こえてきそうだった。

下界での四コマ漫画とかパラパラ漫画のアニメのように、心映が映ってくる。

アーリアルセトスはシリウスの雨水のまじる霊酒を飲みながら、器を回して眺めて楽しんだ。

敗れる以前はこういうのを、簾越しに見ていたなと思った。
ジォヴェの使者は、セトスと自分たちの間にだ円で半円の水晶のような飾りものを置いた。

そして音楽を奏でた。
楽師と思われる隊が見たことのない奇妙な楽器を演奏する。

飾りものの水晶に地図のようなものが映り、景色が映る。だが、すりガラスのように、崩れて半分しか見えない。セピアの写真のように、その土地のおぼろげさが、遠い土地であることを暗示していた。

「失礼ながら…」そういって、香が焚かれた。
雪国の暖炉に火をたいて、煙る匂いをおもいおこさせた。


しばらく、うっとりとしていたが、セトスは口を開いた。
「して、用件とは?」
「本来なら距離を置き、直に顔をあわせることあたわじ、でありまするが…」
「敗北し幽閉中の身だ。やむを得ないだろう」
「ハッ。失礼ながら大神の伝言とは…」



大神は趣向を凝らした、国を望まれた。
そこで、土地をみつけ、人が住めるようにし、民を選んで住まわせた。

古代エジプト人の絵に描かれた世界図のように、箱庭のような空間世界だった。

天から外の世界に出入りできるが、地上は四面にさえぎられる。
海などは滝のように壁の外に流れおちる。

ところが…稲妻の湖の主が近くに存在し、世界を脅かしている。
その主とは巨大な龍で、黄金を液体にした燃え盛る稲妻の世界の住人で雷を喰い、また口から吐き出し、人を襲い、街を破壊する。


「ジォヴェは敵である余ともう一つの敵をぶつけようという腹か。恩赦と大任の両方をかねている。やつらしいが…。大かたそういう事態のために余を幽閉したとわかっていた。それほど手ごわいのか稲妻の湖の主とは…」

「原初の生物であるといわれております。齢が大神と互角かそれ以上ともいわれて」
「そういう年寄りは、大抵、居眠りして行動を起こさないのが多いものだが、造った世界のために目が覚めたか…」