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2013年1月28日月曜日

エカルテ王国衰亡史










1





ゲーテのファウスト風に(パロディで2


王室

国王  「げに、馬鹿者は立派な国王でも救えない」
馬鹿者役 「わたしのことでしょうか。外は大変なことになっているようですが」
布令役(ふれやく)「このたびは何をふれましょう?」
国王 「なにがあった?」
兵士 「国民の反乱です」
国王 「クーデターか!普段ぶつくさ言ってる国民は、そういうとき甘い。ぼろくそに国王を褒めず、顔に泥を塗る国民は。ところが、大人しく従い、尊敬してくれる国民は、げに恐ろしい。王の支持が下がったときの冷たさは、迫害にまでおよぶ。かのイエスの迫害のように。民衆は期待しているからついてくる。人望があるからついてくる。ホントは反感をもっている者も、流れに従わされるため、腹とは別に従う。その恐ろしさ。一度、不満の堰を切ったら、雪崩のように王を迫害する。恐ろしくて妃になど誰も近寄らぬ」

道化役 「わたしも、役を降りまして、鍬と鋤で畑を…」
国王 「人の期待を破ることの恐ろしさ」

馬鹿者役 「アウグストスのように、尊厳者として葬られる皇帝もいるようですが…」
国王 「自ら、共和制をしき、皇帝の位をおりた、かの英雄のように、酒場でひとり酒を味わえることを期待したい」
布令役(ふれやく) 「まずむりでしょうな。彼でも一般の民には煙たがられましょう。王座を自ら下りたとて。国王は反感を大いに買っておられる。期待を破られた民の怒り」
国王 「夢であってほしいものだ。これでは娘さえ、わしに近付くまい」

布令役(ふれやく) 「!もう無理だ。火矢を城にむかってひきはじめた。いいですか、私が幕を引きますから、違う物語の王さまになりなさい」

布令役(ふれやく) 幕をさーつとひく。すると別の舞台が現れる。
そこは見慣れた、エカルテ城。


2 本編


クラークが王座でとびあがって秘書猫にいった。
「まずいぞ。なにもしてないのに、やつら、大人しく従ってる。この絵本の国王みたいになるぞ」
「確かに変ですね。よそもの(クラークは地球人でこの星はコインメタトリー)とかには、この星はうるさくないですが。役がついただけで、あっさりと…」
「従ってるな…」
「はははは」
「アハハハハ」

ドン!
「慈善事業だ。国民のための政治を敷くぞ」


クラークは庭の池に小石を落として見た。

ポチャ…

水面がゆらゆらとゆれ、モニターのように画像が映りだした。
「おお…映画みたいに」

映っているのは皇帝のような男だった。
「なんとなくわかるな。この国の何代も昔の王さまだ」

…エカルテ王 エンリル

エンリルか…

エカルテ年鑑を図書室から引っ張ってきて眺めた。
ちょうど、……あの女バンパイアの時代の王さまだ。
国王と皇帝ってどう違うんだ?
おれなんか2000年代のアメリカ人だ。

この国では外来者だが…この国の先代の王さまか…


3


数百年前のエカルテ


エンリル王がいう。
「どうだ。大老。結婚式の晩餐の準備はちゃくちゃくとすすんでいる」
後ろから大老が見ているが、けわしい顔をしている。

エンリルが王杓を手に持ちながら歩いていう。
「大老。面白い書物を見つけた。『ローマ帝国衰亡史』(※地球とこの星の時間の流れが一定してない)という本だ。惑星ローマの帝国だ。皇帝と王とは何が違うのかな。大老なら分かるか?」
「わからんな。そのローマという星自体の文化を知らん」
「余も、王ではなく皇帝と冠してみたいな」
「単なる称号だろう」
「ああ、だが、ローマ皇帝は…読んでみればわかるが、かのネロ帝は悪人の代名詞のようでそうでもない。芸術やスポーツに理解があったとか後世からいわれる、それより、まだたちの悪い歴代皇帝が多く登場する。すごい食欲だな。貴賎を問わず何百人もの女と酒色にふける。口説けないと暴力」

大老がいった。
「王位に泥をぬる王がバカ女を好む。遊びでしか女と付き合わんからだ。お主の婚礼前にする話でないな。縁起の悪い」
「ああ、知っているさ、大老!帝位につきたての人間。その地位までたどり着いた奴らの質さ。余はなりたての王ではない。愛情を知る、だろ?仙人に近付くにつれやがては、孫がかわいい爺さんだ」
「その先は死を望むようになる」
「余は新米の国王じゃない。愛する妻をむかえる」
「それでいい…身元、品行、教養、申し分ない」
「ローマ星(※ローマを惑星と勘違いしている。この土地の歴史家のミス)の半分神話となった女帝セミラミスはいったいどんな派手なドレスを着ていたのかとも思うかもしれないが、現実は夫にしか肌をさらさない。なのに、なんで夫の王を殺害したのかなあ」
「わからんな。惑星ローマか…」

この時代、ラグナクロクはまだなかった。
ゴールド・ウィンが増築され始めていて、ブロームインと鉄アレイのような格好の浮遊惑星だった。




4


ゲーテのファウスト風に(パロディで3

居酒屋

カウンターの席に着く。
ふと隣の男性客を見て。
布令役(ふれやく) 「あっ、王さま」
元国王 「あっ、布令役の…。あのときは助かった。何といって礼を言ってよいのか…」
布令役(ふれやく) 「それで、今は何をしておいでで?」
元国王 「旅をしながら、なんとか暮らしている。それより、お主、ただの布令役じゃないな」
布令役 「わたしは、ただのふれやくでして…」
元国王 「いやいや、また頼む」

幕引き



5


現在のエカルテ 夜


城の物見台に賊が侵入した。
アウトソルジャーだった。

「…」
のぞいて、さすがのアウトソルジャーもぎょっとした。
アルフレットが腕組みをして黙って立っている。
軽くうなづくと、オーラを出して突き飛ばした。

「うぐっ!?」

アルフレットも宙に浮いて夜空に対峙した。
「ごふっ!!なぜ、侵入するとわかった!?」
「タレこみがあった」
「なに~!?いったいどいつが!」
「警察官としての直感」

アウトソルジャーは剣を抜いて斬りかかった。
日本刀―満月
アルフレットは二つの拳をぶつけると、ひきのばすように放した。
アウトセーバーを握っている。

ドーン!

二つの鉄の玉が衝突してはじきかえるように、アウトソルジャーはじりじり後ろにはじかれた。
SL二台が衝突してじりじり動くかのようだった。


「くそ!オレが力負けするなんて」

ウィークボゾン     2000
アウストラクロス70%  3480

ふたつのエネルギーはぶつかってはじけた。
が、アルフレットの光線の残りが突き破り、アウトソルジャーを焼く。

アウトソルジャーは手のひらで顔を覆った。
「ぐああ!なんだこいつ!?」
「おまえの技はそれだけか?」

アウトソルジャーは片手に刀をもち、もう片手で術をえがいた。
「影武者の舞」
黒い影絵の影武者が数体躍りかかる。



6

クラークは暖炉の灯りの照り返しが、銀のポットに反射するのを眺めながらうつらうつらしていた。
いつの間にか、揺り椅子にショールがかぶせられ、半分ポットにうつる、ちらちら揺れるにぶい暖色のオレンジ色を目に入れていた。
そのうち、エカルテ王 エンリルがうつり、ニューンとのびた。

クラークはいつのまにか、寝息を立てて寝ていた。

クラークは夢の中でエンリル王の婚礼の式の参加者の様な視点になっていた。見えない透明人間のような、映画のカメラのような、小説の語り手のような、イッヒのような…


「テーブルに皿を用意しろ!新しいもよおしだ」
給仕やら、料理人やら、支度人がいそがしそうに準備している。
今日、式で、あと数時間。
当人同士の関係なのか心理なのか、めでたいと気楽な気分ではなかった。
不安と期待の入り混じった感じで、おちつかない。
参加しないで家に帰りたくなるようなびくついた気分でもある。
興奮しすぎて、式などなかったことにしたいと、総支配人などはいらだった。
なんというのか、ぶっつけ本番という、あせりだった。

「あまり、考える暇がなかった。ありきたりな飾り付けになってしまった。エンリル王と新王妃に気まずい」

給仕の一人がいった。
「そういっても、もう遅い。いまから、何も思いつきません」
「そりゃそう。上からも指示がないし、いいんじゃないのさ」
「忙しい代わりに、とばっちり、いやおひねりでもあればいいなと期待するな」

控室のお姫様をみて、クラークは(あのバンパイアじゃない!)と思ったか、思わなかったか、初めから分かっていたような。


ブ―ロムイン王が到着した。
この時代のコインメタトリーは今と地形が違う。
人工に山をつくったりして、景観を整え、植林し、効率だけでなく、土地を広く、目障りなものをさえぎるために、人工の通れない山などを作る。

ブロームイン王をクラークはSNSやニュースで見たことがあるが、同じ顔だった。

ザールの父王と全く同一人物で、人間ではなかった。
寿命が人間と違い、この時代から、現在まで生きている。
ザールは当然生まれていないが、息子のひとりであり、この時代には別の妻(人間と同じ寿命)がいて、ザールとザフラ以外の息子や娘がいた。

だが、エンリルや大老は人間と同レベルの寿命だ。
ブロームイン王はこの世界で唯一特別な存在だった。

新郎室ではエンリルが大老にむかっていっていた。
「そううるさいことをいうな、大老!反対に安心して、余たちは大騒ぎをおこすぞ」
ブロームイン王が入ってきた。

「エンリル王殿、ご大老…、この度は、まこと、めでたいことである。わがコインメタトリーの発展のため、よろしく存ずる」
「ブロームインからはるばるいらした。増築中の円盤もありますし、いそがしくなるでしょう」



7


クラークは見ていた。
エカルテ城だ…!
内装をあちこち、いじっている、というより、こっちは数百年前の内装なんだろうが…。

たしかに、見て同じ城の大昔という感じだ。

来賓関係者の控え室があった。
広い…と狭いの中間のような部屋。
ここはエカルテ城の…どの部屋だ…?
紅茶がだされている。

夢の中で透明人間なのにクラークは気まずかった。
誰も知ってる客がいない…知らない顔ばかりだ。
自分がその場にいないのに何となくそう感じた。
連中は紅茶をのんだり、隣の客と談笑したりしている。
商談めいた話に風向きが変わっている者もいる様子だ。


通路をさまよい、自分の意志で歩いてないのに自然とどこかに向かう。
長い廊下を歩き、中間ロビーのようなところに、長椅子があり、婦人が二人話し込んでいる。

扉を開けて階段を昇る。
上の階に上り、また歩く、使用人が準備している。
「チューリップをたくさん用意した」
「色が豊富だからいいわね」

晩餐会の広間にはいる。
イスに誰もいないが、準備の人が、あわただしい。
窓の外を見ると、エカルテ特有の閑散とした山々がみえる。
反対の窓には城下町が映る。

瞬時に新婦の控え室に移動していた。

「あらー、ひさしぶりねー。エンリル王とのご結婚おめでとう!すっかりきれいになって」
少し年上の親籍らしき女が花嫁に挨拶している。



8



クラークはエカルテ年鑑を開いた。

エンリル王の時代…

1452年 ゴールド・ウィン増築着工
1454年 エンリル王の婚礼 
1455年 エンリル王の石竜討伐
1456年 エンリル王第二婦人と婚礼
     翌日、第二夫人死去。葬儀。埋葬。
1458年 エカルテ城に幽霊のうわさ…

「お、討伐…石竜」


コインメタトリー歴 1455

「なんだと!?石竜?」
「はい、岩石のような皮膚をもつ竜がやってきて…」
エンリルは王杓をふりまわして驚いた。

「それで、我がエカルテの軍隊でも歯が立たないのか…!?」
「はい、剣による攻撃が…ブロームインの国の魔法に頼る方が…」
「…」
「建築中の空飛ぶ円盤ですので両国共有の惨事かと」
「魔法なら余も使える…余の剣に愛剣のアクアネスソードがある。あれならいけるかも知れん!鎧を用意させろ」



9


クラークの慈善事業はホワイトが草案を持ってこないので進まなかった。
「オレと猫でねるか…」
最近はアイデアも浮かばなくなってきたし、行動するのも鉛のように重くなってきた。
ニュースを見る限り、経済は回っているし…ガオンもこないし…ニュートラルブリッジの建設は四国タイアップだから、人任せだし。

事務室をでて、庭に降り、池を眺める。
「あのころから、あるのかな、この池…」
小石をひろっていれてみた。

ポトン!チャプ!


いつのまにか、クラークは来賓者の待合室にいた。
ビロード張りの布イスにこしかけ、だまっている。
苦痛だった。
両隣りは知らない人間で口を利きにくい。
一体いつ披露宴がはじまるのかと、モジモジしている。
カップのティーが空に近い。
席を立ってつぎ足すのも、意地汚いみたいで嫌だった。
ポケットに煙草があったのに気が付き、これ幸いと火をつける。
喫煙者が意外と多くて、クラークはホッとした。
灰皿は金縁の内側が赤塗りで灰を落とすのが悪い気もしたが、せっかくだから使うことにした。
吸殻がないので、少しすっきりした。
それにしても、黙って待ってるのは苦痛だった。
(何代も前の先輩の国王の結婚式だからな…たてないと…)
だんだん神経質になり、たばこをもう一本ふかそうかといらだつ。
顔をあげて知らない人が目に入ると苦痛なので、目を伏せる。
ホールに行ってみようかと思っていると、使用人が晩賛の準備が始まりましたので、とかいいだした。


新婦の待合室ではさっきの女性が、新婦と談笑している。
砂時計のような形のイスにこしかけて、アハハと笑っている。
新婦も不安なのですがりつくように相手をしている。
こんなときにありがたい叔母さんだと、感謝している感じだ。


晩賛の席でエンリル王と新婦は分厚い帳簿に結婚のサインをした。
独特の黒インクを筆につけ、筆記した。

坊さんが、認めると、判を押して帳簿は下げられた。

クラークのストレスは最高潮に達した。
誰も知らない席で、ひとり、すわっている。心細かった。

コロシアムで牛との格闘が開かれた。
「おおっ」
クラークはやっとリラックスした。

戦士の精鋭が、丸腰で、雄牛と格闘する。
角を二の腕でしっかとつかみ、お互い踏ん張る。

剣と槍がはなれた砂地につきさしてある。
とどめをさすときに使う。
まずは力比べだった。

足あとが、ズズッズとつついて、おしつ押されつしている。
統一するように牛の角をもって宙がえる。
ジャンプして、剣のほうをつかみ、突進する牛の首に切りつける。
まだ生きがある。
二撃目で仕留めた。
歓声が起こる。


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現代 エカルテ城 上空 夜

アルフレットに影絵の隠密がおそいかかる。

アルフレットはふんぞり返って落ち着いている。
「さあ」というジェスチャーのように、手のひらを上に向けると、オーラの玉がいくつもでてきて、影絵の隠密にぶつかって焼きつくす。

落ち着き払ったまま笑って、アルフレットはいった。
「アウストラクロスをだんだん制御できるようになってきた…的を絞れるようにな…」

そして、足元に立てかけておいたアウトセーバーをもつとふりかぶった。
「くそ」
アウトソルジャーはかなわないと見て、急いで退却した。
「今度会った時は殺す!」



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現代 ゴールド・ウィン 市街地区

医科学研究博士院 サーベル・ブリング

さまざまな医学者、科学者が技術、医術の研究開発に取り組んでいる。
実験室ではいろいろな実験をしている。
「XYYの性染色体で超男性化がおこるなんておかしい。理論的に…トリソミーとは…」
「そうだ。染色体なんてデータだ。ふたつあっても足し算になるのか…?」
「パソコンの同一のファイルがふたつあっても、容量の無駄なようにな」
「それだ!バックアップ説!発動しない遺伝情報を二つのY染色体がおぎなってるから、男性的になる!」


リフレッシュルームには自動販売機が5台あり、喫煙コーナーも設置されていた。
「なんでも、別館をゴールドウィンのはずれに建築するらしいぞ」
「はずれに…?」
「土地が広くて安いからさ」
「交通費がかかるな。転勤とか」


電磁望遠鏡で天体を観測してるチームが気づいた。
「コインメカトリーに別の天体が近付いている」
「にほんとにっぽんの違いだ。メタトリーとメカトリーは」
「なまる地方はラグナクロクに多い」
「あぶないぞ、ウィンの国王に報告しろ」
「電磁波をぶつけて観測してみろ」
「変化しない、反応しないが、きれいに跳ね返る粒子だな」
「ソールビールでいい」
「かなりエネルギーを喰うぞ」
「天体写真撮影も金がかかる」
「予算は?」
「緊急事態だ」


12



エカルテ王室

クラークの所にゴールド・ウィン王から電話がきた。
ガラス玉のアイコンがホログラム表示され、クラークがうなづくと、秘書猫が叩いて割った。
ボン!
王室の壁に埋め込まれたモニターをオンになる。

≪どうですか、クラークさん…、おひさしぶりです。
実は天体観測チームがですな…コインに惑星が近付いてるというのですなぶつかる可能性があると≫

「ああ、SFみたいだけど…あってもおかしくないような」
≪いろいろ調査すると、球状の天体で月のような恒星を従えてまして、ええ≫
「ああ、月が太陽か…案外、惑星か太陽かわからないダンスを…たぶん他に惑星がない」

≪天体力学の本を読んでますな…なんと、月というのか恒星との距離がびょーんと伸びたり縮んだりしながら、宇宙をさまよってまして≫

「こっちが近寄ってるのか、向こうが来るのか、不明ですかな。どっちも同じことかな」
≪向こうはジャングルと海の世界で…原始生活を…ところが話してわかると思われる。ジャングルクイーンという女王が支配して、科学はないが、神秘の力と頭脳がある≫
「ぶつからないよう協力を求めますか。私が派遣されてもいいです」
≪そうですか。お願いします。なにかあったら連絡してください。すぐ相談にのります≫




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クラークはアルフレットと二人で行くことにした。
ロッケットに荷物を積んであいさつに行く。

「アルフレットとオレのふたりで充分だろ。戦争に行くわけじゃなし」
「護衛ってこと?いいけど。手土産は?献上品がないと女王様に失礼だと思うけど」

クラークはザフラに何がいいかきいてみた。
「そうねえ、あっちにないものがいいんじゃないかしら」

「あっちにないもの、スマホか…バッテリー充電できないしな。貴金属とかあまってそうだな、原始生活者とか」
アルフレットに訊くと、「…スポーツドリンクとか…いや、音楽、あるか。そうだ、時計付きオルゴール。これだ」
「それでいくか。ジャングル人とか時計驚くもんな」

2日後に出発となった。

その夜、ケーキをひと切れ食べた。
「あんまり食べると太るわよ」
クラークは食べ終わると、ロウソクの灯りをながめて、黙った。
「…」
夢と半分現実がまじって、またエンリル王が見えだした。
ザフラは皿を下げに部屋をでた。


1456年 エカルテ


この時代エアポートがなく、陸地の平たんな地形の位置によその星から来る船が不時着していた。

「機類の故障だという」
大老がいった。
「輸出や輸入を嫌うのは、先祖が自分たちの世界を嫌って、ユートピアを建築するためだったな。歴史書に書いてある。だが、我々は現地に根ずいて、そのまた何代もの子孫だ。ここがユートピアといわれても、ピンとこない」
エンリルがいう。

城の相談室。昼間なので酒をはさんで会談しなかったが、エンリルは気を抜いて酒でも煽りたい気分だった。

「確かにそうだ。今は建国者の時代じゃない。建国者は外部の人間と肌が合わないから触れ合おうとしないのだ」
「自分たちの世界をつくろうという奴らは志が違うんだ」
「そして、志が合わないものとは理解しようとするだけ努力の無駄だと知ってる。それだけ苦労している」
「大老、その志が住みやすさを維持しているんだろうけどな、俺はそこまでは理解できる。余の限界だ」
「柱をはずせといなら、住み心地のよくない元の世界だ」
「志が人を遠ざけもする。王が長いとわかる」
大老はニヤと笑って、葡萄酒の栓を抜いた。

「昼間なので酔うほど飲むなよ」
「ああ、一杯だけ」



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「剣は普通のステルサーベルでいい。戦闘に行くわけじゃないし」
ステルサーベルは一般の兵士がよく装備している武器で、値段の割にいい代物だった。この時代に普及していた。
だが、高級な剣よりは当然だが弱い。

大老がいった。
「着陸した船には別の世界の王妃がのっているという。くれぐれもたのむ」
エンリルが答えた。
「船にのって海をこえて来た王女か…」

エンリルはこの姫と仲良くなり、結婚することになった。
船の故障はじき修復し、食料や燃料をやりとりした。
貿易の解禁だった。

別の無人の惑星や隕石から、採取して、器物の材料を得るだけでなく、製品として外部とやりとりし始めた。

外来者の検閲の規範などの作成はエンリル王の業績と年鑑で通常されている。

この第二夫人となる王女は、ザンダ姫といい、不思議な魔法めいた力があった。

「魔法なら余も使えるが…」
「わたしの力は自分で制御しかねます。不思議なオーラのような…ときどき、自然に助けてくれることもあれば」
「害にもなると…?」
「修行によって身につけたのではなく、自然に宿っておりまして」


焼レンガを積み重ねた壁の建物。
ブロック塀が建物と外を隔て、上部には鉄の槍状の柵があり、均等な間隔でガスの炎が燃えている。

赤いレンガのブロックの建築物の内部でエンリルと妻とザンダの三人は肉料理と酒を楽しんだ。
スパイスとソースがかかった肉が見える。
ワインがグラスにつがれている…。
「本当に火が燃えている」
「あれは天然ガスを燃やしている。インテリアだが、さわったりしてはまずい」

クラークは第三者の立場から見ていたが、ガスの青い炎と外の寒さ、レンガの壁と窓から見える三人…
雪が降ってきた。

ゆらゆら、ガスが燃えている。鉄の、ナイトが持っていそうな槍の先が柵になって…ゆらゆら燃えている。
火事にならないのか?…クラークは気がつくと半分寝ぼけながら、目が覚めた。




15



クラークとアルフレットは宇宙船にのりこんだ。
「よごすなよ。新車だからな」
「どうも。家族車に…」

クラークはキーを差し込んで、エンジンをかけた。
鈍い起動音がする。
エアポートの駐車場から、徐行で進み、ゴンドラで円盤世界の裏側から出口に上がる。
「2日で、つく」
クラークはレバーをひきながらいった。

あとは自動運転だ。
ラウンジルームにはいると、アルフレットが勝手にワインを飲んでいた。
「あ、なに勝手に…」
アルフレットは足を伸ばして、イスをたおして半分横になっていた。
「先に頂いている」
クラークもグラスに入れて飲みだしたが、グラスを眺めながら、昔いろいろであった人のことを思い出した。
(今思い出しても、腹が立つ…いろいろ嫌なこともあった。理不尽なこと…なら、思い出さなきゃいい。反対にいい思い出もある。なぜか嫌な思い出は刺激的だ。楽しかったことを思い出しても、いまさら楽しくない…腹が立つことは今でも煮えくり返る)
となりにいるアルフレットを奇妙な目で見た。
(アルフレット…こいつは…カーターの知り合いだったんだ。カーターの知り合いの警官。俺はカーターの会社の片腕で、それからエジオンにいってパーカーの軍人だ。こいつなら、俺が腹が立つ奴にどういう態度を取るんだろう)



16



クラークはだんだん、嫌な思いをする相手とは触れ合わない無難策を考えるようになっていた。
なぜか…誰ともうまが合わないなら仕方ない。自分が悪いだろう。だが、仲のいい相手と、どうしても話がかみ合わない相手がいる。なら…

バンジ(麻酔薬)でも、酒に入っていたかのようにクラークは眠くなってきた。
トロトロ、瞼がくっつきそうな眼でグラスの酒を見ていると、またエンリルが映った。


「新大地の領土配分だが、ブロームインはどうするつもりなのかな」
エンリル王がいう。
大老が答える。
「半分…、いや、向こうはどういってる」
「なにも決まっていないようだ」

それから3ヶ月後。

「うちとブロームインであぶれ者たちが新大地を自分たちの国にするといっている!?」
大臣の連絡を聴いて大老とエンリル王はおどろいた。
エカルテとブロームインで国政を疎ましく思っているもの、ついていけない者たちが、新大地を自分たちの土地にくれといっているというのである。

エンリルはいった。
「ハハハ…あぶれ者に何ができる!ハハハ、そういうつもりはない。ローマ帝国。かの国は自国で半端者とされていた、ならず者が集まって自分たちの国(ローマ)をつくった。創始者のロムルスは狼に育てられたというが、事実としてはな。だが、おそらく捨て子で、子のいない年寄りか誰かに育てられたとったところだろう。軍神マルスの子だとかいう。おもしろい、余に従うのが嫌なものは新大地に行くがいい」
大臣がいった。
「ですが、反社会的な組織になりませんか」
エンリルはうれしそうに、大老にうなづいた。
大老が答えた。
「心配ない。宇宙の則(のり)だ。悪辣な法であれば、組織の崩壊はすぐにだ。歪んだ欲求とはすなわち崩壊。おろかものは自らを殺すのだ。立派に建国したとしたら、それは頼りになる同盟国であろう」
エンリルがつけ足した。
「だが、たかりには武力で抵抗しろ」

エカルテ王国とブロームインでの政治がおもしろくない者たちが、新大地に移住し、建国し始めた。両国は基本協力的であったが、じき、同じ規模の国が出来上がる。それがゴールド・ウィン国だった。
王政というよりは共和国の要素が強い。
血筋で国王を決めるのではなく、能力によって後継者をきめるむきの風土になった。
だが、国王になろうとする者が少ないことが多く、一度国王になると、なかなかリタイヤできないという、恐ろしいいわくがつきまとった。




17


クラークたちの船はジャングルクイーンの惑星に不時着した。
「森の木のあいま縫うの少ししんどかったぞ」

アルフレットが感心していった。
「すごい豊かな緑だ。メルヒェンって感じがする」
クラークも気づいた。
「地球の登山とかの山って殺伐としてるよな。あれがホントの自然のはずだぜ」
「たしかにアニメみたいな大自然だ。美しすぎる」
みると果物が実っている。
木の枝をグリーンの小さな蛇がつたっている。
「ヘビがいても、澄んだみずみずしさにみえる。天念の果実だ」
アルフレットは果実を一つもいでかじった。
「甘い…芳香が、フェノール類とか柑橘系の…リネモンとかエーテル類とか、芸術的なデザインの芳香だ!味わったことがないぞ」

クラークも、もいだ。
「うまい!ホントだ。成分!芳香成分の!クロマトグラフィーにかけて検査したいぜ」
「そうさ!有機物質だ!成分のバランスが絶妙だ。作曲みたいな感じで果物の成分が実っている」
「ミカンとバナナのようでいて、それとも違うぜ」
「コカコーラとスポーツドリンクを初めて飲んだのはいつだった?ガキの頃だ。あの時代のアメリカで出始めだったか、近所にみなかったような」
「ファンタだ。ファンタを初めて飲んだ時の感触だ。芸術的な果物さ」


すぐ近くに部落がある。

年寄りが座りこんでいる。
「あー、女王に会いに来たんですが」
「若者は狩りに行っていない…女は川か住居の中か…ジャングルクイーンなら、あの石造りの城にいる」



18


門番に若い女がいた。美しく髪が長い。
ジャングルクイーンは、決して人、特に男性と会うことはないが、特別の計らいで面会を受けるという。

門を開けて中に入れてもらったが、二人とも驚いた。

「あなた方が訪れることと用件は、あらかじめ予知していました。ようこそ」

ジャングルクイーンは驚嘆に値するほど美しく、天念の大自然の様な美女だった。少女のような体のつくりでありながら、年寄の魔法使いのような精神を持った、相手を見通すまなざしの持ち主であった。
しなやかな体は、ライオンが横たわるのに似て、隙が一部も感じられない。
楽な姿勢をしていても、そうとうなエネルギーを消費しているのが、戦闘武術を極めた二人には理解できた。
そのため、みじんもだらしなく感じられない。

「ああ’’僕はクラークこいつはアルフレットです。よろしく」
「…アルフレットです。お会いできて光栄です」

ジャングルクイーンは愛想の良さそうな、それでいて相手を静止する威圧感で語りかけた。
瞼や顔のいたるところに、天然の植物の染料による化粧(ペイント)がされて、耳にやたら宝石をつけている。首にはサンゴのネックレスのようなものをかけている。

「天体がぶつかる可能性には大自然の力により気がついていました。
そして、女性は自分より精神力の劣る男性しか夫にできない。もし、自分より精神年齢の高い相手を選べば炎に焼かれると同程度の苦痛が待っており、そのため、女性は自分の精神力を高めねば、すぐれた男性と結ばれないというのに、今だ、口先で相手を丸めこめば結ばれ幸せになると思い込むバカ娘が後を絶ちません。
男性からの見返りは、献身が実を結んではじめてあずかれるというのに、結果だけ求めようと、本末転倒なことになるのです。まず、男性と苦楽を耐える。それをせず、喜びだけをもぎとろうとする。
わからないものには、わけのわからないことをまくし立てているとしか思えないのでしょうが、そなたたちには私の言葉が理解できるかしら?」

「ああ‘’聖典にそんなようなことが書いてあったさ」
「失礼だが、未婚のようですが」
「アルフレット!失礼だぞ」

「そうです。私は永遠に未婚のまま死を迎える。この星には科学はありませんが、畑を耕さずとも、果物や野菜がみのり、それをもぎとるだけです。水も澄んでおり、暖かく、天念の楽園となっているのです。あなたがた、さっき果物をもいで食べましたね」

「失敬。あれは芸術的なフルーツだった」
「ああ‘’すみません。おしかったです。ごちそうさま」

「かまいません。私はある意味既婚者です。生まれる前から既婚ですが、生涯未婚の女王として生まれ落ちるのです」

「ああ、きっとその結婚相手はたいそう偉い人さ」

「天体の衝突に関しましては全面的に協力いたします。大自然の力で軌道をずらしますが…」
「ああ、こっちも反重力装置でずらします」
「結構。それと、あなたたちの力を試したく思います」

アルフレットがオーラを放出した。
「いいけど…。みたところ、そうとう凶悪なパワーをもってるみたいだけど!?」

「アルフレット!!おめー失礼のないようにな!」



19


女王はかなり高く階段状に造られた、石造りの王座からおりてきた。

「それでは…アルフレットさん。あなたの実力を見ましょう」
「…健康診断の医者のような口ぶりだけど。アウトセーバーはお姫様につかえないし!オーラ60%アルフレットボール」

手のひらを上にむけると、手品師が逆さにしたシルクハットからウサギをだすように、オーラの玉をはじきだした。

ドードドドン

アルフレットボール 2435
精神力      2458

ジャングルクイーンは手を合わせて目をつぶる。

「くっ、ぼくのアルフレットボールと互角か!ならば」

アウストラクロス70%  3498
大自然の力

ピヒューンンン

アルフレットの力がクイーンに吸い込まれていく。
ジャングルクイーンはアルフレットの力を吸収し、さっきのダメージを回復した。

「最強レベルの相手みたいだけど」

ジャングルクイーンはいった。
「受けられるか!?ジャングルコントロール!」
つむじ風がおこる。

ただの風じゃなく、オーラの乾風だった。
「…」
アルフレットは危険を感じ、アウトセーバーを呼び出した!

ギン!

抜き打ちの姿勢でかろうじて、ジャングルコントロールをはじき返した。
オーラの乾風は空高く消えていった。

「危なかった…まともに食らったら」
「もう終わりにしましょう。大丈夫ですか?」
「アルフレット。おめー危なかったぞ。おめーでも勝てねー相手がいるんだな。でも、修行のやりがいがあるだろ。よかったな」




20



ジャングルクイーンはアルフレットにいった。
「理屈だけですべてがわかったら、試す必要がなくなります。全知全能のような。ブラックボックスの中身をすべて暴くのが正しいとも…ただ、そうだと無益とわからず、無意味な労働にいたづらに時を失うことになりましょう。わたしたち、ジャングルの民は科学を捨てました。頭の中の思考だけですべてが終わるような気がして。ですが、つまらないと思えるような労働に苦労するのです」
「オーラのいきおいだけで勝ち負けが決まるのも味気ない話だから…でも、面白くない決闘がふえるのも考えもの」
アルフレットは答えた。
「先が見える人とそうでない人で隔たりがあるのです。アドバイスされて、腹を立てるようでしたら、口をきく資格がないとみなされるでしょう」
「見くびらないで。教えてくれた相手に面白くないから八つ当たりするほど、僕は軟弱にできてない…ありがとう、女王様」



クラークは贈り物のオルゴール時計をわたした。
「娘のこととかでアドバイスしてほしいとき、またくるさ」
「わかりました。そのときは相談してください」

ジャングルクイーンは石の階段を上り王座に座った。
肘掛の横には、狼煙、水の流れを変える、笛で音がでる、の合図を送る装置があり、これで国の人々に合図を送っている。
笛に風が吹いて音が鳴り、ドアが開けられた。
ピー
「帰りにおみやげにフルーツをあげなさい」
そういって返された。

宇宙船を駐車した森まで歩きながら、クラークはいった。
「きれいなお姉さんは、見せていいものと見せないものを隠すのがうまいさ」
「清潔なお姉さんだった」



21


クラークは化粧室のある部屋に入った。
鏡が一面をしめて、下がだーっと棚になっている。
長椅子とテーブル、ビロウド張りの家具。
今は使われていないが、百年や二百年前そのままの様な気がする。
メギャーン

小箱がならんでたりするが、中身は入ってるのだろうか。百年前から?
鏡を見ると、自分が映っていない。
(ハッッ!)

長椅子に男が腰かけている。時代が古いと思わせる新聞を読んでいる。
部屋に娘がはいってくる。
ゼンダ姫…あの女幽霊だ…
何か話しかけている。男が立ち上がり、娘にうしろをむかせて、両手でおして、出口に出ていく。
娘はバンザイをしてドアを開けた。

……

エンリルはザンダ(ゼンダ、ジェンダ)姫とこじんまりした、結婚の儀式をした。
数人の参列者と神父、新婦、エンリル王、大老、第一婦人だけの儀式だった。

分厚い革張りの帳簿に独特のインクでサインをする。
粘度の高いインクでねばりつく。
筆記されたサインは独特の粘りのある書体にみえる。

「大老、おもしろいだろう。ゼンダは魔法が使える」
「ほう」

花火のように面白がって、ゼンダはオーラを燃え上がらせて歓んでいた。
「ためしに余に撃ってみろ。下手な魔法つかいより攻撃力がありそうだ」

ゼンダがオーラをはなつと、マジシャンのようにエンリルにとんでいく。
エンリルは手で受けたが、かなり強い力に気づいた。
「余が魔法を使えなかったら危ないかもしれん」
大老も、「ふーむ。よほど才能あるものでも苦しい訓練をしなければ使えないのに…大した能力だ」

第一婦人も笑って歓こんで叫んでる。




22


次の日の朝、ゼンダはベットで死んでいるのを、目が覚めたエンリルが気づいた。
「そんな…昨日は何ともなかったはずだ」

大老も、「心不全…脳の血管のなにかとかか…いや?」
医師は、なにもいわず「ご臨終です」と短くいった。
心臓が確実に停止してどうしようもないうえ、現在の医学では原因を突き詰めるのは徒労だと。


エンリルはカタコンベ(地下墓地)をつくった。
しかも大図書室に隠し扉までつくらせた。
体力があるのはわかるが少しやつれていた。

「地下室に水を引いたのか…、それらしいが、背筋が寒くなる厳粛な美しさだ」大老もそれで気が休まるならと止めなかったが、不安でもあった。
堀のように室内に水が流れている。
チロチロ静かな音を立てて流れているが、ドアがしまったらと思うとさすがの大老でも怖くなる。

壁に化粧レンガをつかい、花の模様を入れさせ、他人の目には不気味に見えるが本人は弔いの悲しさがそうさせているらしかった。

「清めの薬草だ」
高価な薬草をたくさん棺に入れゼンダ姫を埋葬した。




23


それから、幽霊をみたという声が城の中でおこった。
階段を歩いている女の子の幽霊が夜に目撃された。

王の耳にもとうとう、入るようになった。
「幽霊…!」
心当たりはゼンダだった。
だが、

「怖い…カタコンベにおりるなど」
エンリルは亡き王女の棺桶を開けるなどできなかった。

城では使用人たちが神経質になりはじめた。
夜は聖書を枕もとに置いて、朝日が登るまでベットからでないようにして、おびえていた。
暇をもらって、城での奉公を頓挫するものもでている。


大老とエンリルは聖なる武器をつくらせた。
清らかな炎で焼きいれした武器。
まず、ホーリーランスが造られた。
クラークが武器庫で選んだ武器だった。

だが、現在のホーリーモーニングスターのように、槍斧棍に変形できるわけではない。あれは大神がおくった神々の武器だった。

聖なる炎で慎重に焼く。

いろいろな形の聖なる武器が製造された。

それが、代々地下武器庫にしまわれる。

亡き王女の声をその時代の牧師がききとった。
牧師はカタコンペには下りなかったが、大図書室で祈祷をささげ、幽霊の声を聞いた。

王さまとあって、楽しかったけれど、婚礼から、夜明けを待たず死の迎えが来てしまいました。
死者となった私はその残念さから、夜な夜な墓をでて城の階段を上り下りしたりし、城のものを騒がせて申し訳なく存じております。
さようなら、エンリル王さま。わたくしゼンダは眠りに就こうと思っております。三、四百年の眠りから覚めるときは、わたくしを本当に成仏させる力を持った、聖なる王がこの城の城主をつとめるときでしょう。

そして、婚礼の時の帳簿に神父は記録してとじた。