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2013年9月17日火曜日

坂道のお祭り2






のお祭り2








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この間のお祭り見物で味をしめたおじさんは、浴衣をはおり、草履をつっかけて坂道のお祭りへむかった。
電車の中で浴衣は恥ずかしかったが、ローカルの鉄道で、はらのでた年なので気にしないことにした。

目的の前に降りた駅に降りる。
二度目だと何やら記憶に残っており(ベンチのようす、木製の手すり、「たまご」とかいた屋台そば)頭をなぜかしらゴンと金づちかカンナで叩かれた気持ちになった。
たった二度目なのに、妙に気持ちに焼き付いているんだがね。

夏目漱石のちゃんばらのシーンは司馬遼太郎と似ている。
自称物書きのおじさんはそんなことを考えながら、口をぴったりくっつけて横ににゅーんとのばして、両端を上に向けていた。

がやがやいう、お祭り特有の音がきこえてきた。
駅を出て、日差しが前と少し違う。
風が暑い、が次にはひんやりした風も運ばれてこないでもなかった。

後ろをふと振り返ると、鉄道の鉄のレールが走っている。
飾り気のない仕事の道具。鉄の道。
合間に雑草がススキをつくっている。
田舎特有のジーと薄く聞こえるセミの鳴き声。
おじさんは自分が何者であるのか忘却の中にいた。
一切の記憶が遠くなっていく。


坂道に向かう。

ビールっぱらをトントンたたいて、気にせず歩く。

腕時計をみると午後六時に近い時間帯だ。
まだ、日光は高い。が傾いて最後の灯火を燃やしている。
夕日の公園はその日最後の子供たちにお別れをいい。
夜のめったに来ない客を迎えようと暗くなる。

坂道の一番下、ヨーヨーのゴムを手に巻き、マリのようにバンバンたたく女の子。上る客下る客が目に入り、おじさんは気おくれをした。

ワタあめのキャラクターがなんだかこたえる。

おじさんは気がつく年ごろだ。
祭りの屋台の行列の中では、従来のルールがある。
出口のあいまいな、ワタあめの、祭りの外の境界では、自分たちのルールで半分自由にしたい高校生や中学の上の方の子供たちがたむろしている。

アイスクリームを立ちながら口にしている中学生くらいの女子児童、二十歳くらいの女性、子ずれの若い母。しゃがんでいる白いシャツをきた細い若者の男性なんかが、うろつくというほどでもなく左往している。
不良というほどでもない田舎のエネルギーのあまった若者たちだ。
石ころがアスファルトの堺にころがる。

おじさんはグングンのぼっていく。
脂の焼ける香ばしいにおい。

おじさんよりおじさんが小学児童や園児をつれているのがおおい。
若い人は少数になってくる。両わきの屋台で働いている人が若い人だ。

前より暑いせいか、金魚すくいの水がありがたい。
ホースでどうやるのか水が流れている。
そのなかを赤い小さいのと黒いでかいのが、ちやほや泳いでいる。

横に長い水槽?に水が流れて揺れる様は清涼と感じ…
芥川龍之介は書斎が完成したとき詩がうかばず、原稿用紙のマスがこぎれいに、うかんで筆記されなかったという。(原稿が思いつかなくなった)

ヨーヨーとミドリガメに目が行く。

カラフルな縞模様の小風船が、水がホースでちゃぶちゃぶながれるのに押し合いへしあいしている。
中に水と空気が入っているせいか、そのぶつかり合いの揺れ方が美しい。
ボヨボヨビョンとバネが単調なような規則的のような。

浴衣の紫のようなデザインのヨーヨーと赤と緑シマのがながれる。ながれる。

ミドリガメはのそーっと動く。
こうらぼしする浅瀬にのったり、大きいカメと違い、完全にマルい甲羅から手足が短く出ている。
緑色のきゅうりが水にぬれて光るように緑だ。
「ほしいけどなぁ。この歳で飼うのもなあ」
おじさんは名残惜しそうに見ていた。

子供が元気よくじだんだを踏んでいる。
「おっ!!タッとはぁー」
よくわからない雄たけびだ。


食い物の匂いが涼しい風のあいまに入ってくる。
思わずおいしいと頭で感じ、違う空気が肺に入ると、吸い込むのを止めふりかえる。

タコ焼きをひとケース買う。
「ハイ、500円」
「どうも」
ベンチがならぶのテントに向かい、箱を開く。

爪楊枝で刺して食う。
焼き立ての熱い小麦粉を水で半生が、タコ焼きソースと鰹節のうまみにからんで、中は半分液体だ。
おじさんは夕食をとらないで来たのでスキはらにこたえた。

もうひと玉つついて、口に入れた。
甘辛く、小麦と水の熱いドロドロが口を焦がす。
火傷しそうだがうまい。
焦げの風味が満足感に拍車をかける。

全部平らげた。
くずかごに捨てる。

若いころならすぐ動きだして疲労が重なったが、腹がこなれるまで少しじっとしていることにした。
ここら辺から、子供から20歳を超える男性が増えている。

自分の知らないこの人たちは幸せそうだ。
ラジオ体操で遠くの親戚の家で違うハンコをおしてもらう気持ちの良さのようだった。


そういえばオバハンが今日は少ない気がする。

歩きだす。
かき氷が売られている。
シロップをあんなにかけたら、採算が取れるのか?ゴージャスだなと子供のころ思っていたが、存分にかけて売っている。

ラムネとコカ・コーラ、ペプシ、サイダー、缶ビールが売っている。
水が水槽にはられ、氷が浮かび、チューブ?がゴボゴボ水を循環させている。噴き出す水はあふれて贅沢にジュースを冷やしている。

おじさんは警戒した。
一気に飲み食いしたら腹が破裂する。
お祭りの続きが楽しめなくなるのを経験的に知っている。
ネットカフェでよくばり、具合が悪くなる。

ビール(アルコォル)かラムネ(時代製品)か迷う。
二つは無理だ…。

もっと蒸し暑ければ汗をかいて、すぐ喉が渇くのにとおじさんはおもった。
若い兄ちゃんというより子供が幼児くらいか?ビールを買っていった。
冷えた缶をほっぺたにあてている。子供の相手で汗をかいたのか?
焼き鳥を三軒となりで買ってどこかへいった。
水があふれるが受け皿が水を戻すのか?
あまり観察すると怒られそうなので目をそらす。


ラムネを一本買って金を払う。

見回りの警官が制服で歩いていた。
腕に腕章をつけている。

おじさんは木のベンチに腰を下ろした。
ラムネの栓はあのビー玉だ。
ポン!と玉を落とすと、泡がこぼれるのを防げないほど溢れる。

あっちではリンゴにべっ甲飴がぬられ光っている。
バナナには黒いチョコがコーティングされている。
あんなにチョコを使ってるのに安いな。
おじさんはいぶがしがる。

おじさんは土の地面にラムネの泡をこぼした。
タオルが欲しくなったが浴衣でぬぐう。
ビー玉はラムネのビンに落ちて入っている。
全部飲むと取り出すことができるのだ。

飲むと甘い。

枝豆と焼き鳥をつまみにビールを呷っている65くらいの爺が二人いる。
半そでのシャツとステテコだ。
さやから緑色のつややかな枝豆を口でむしって食べている。
ビールをあおり、足りなくなるとビールと塩ゆでした枝豆を買ってきてまた喰っている。

見ていて味を思い浮かべた。ラムネが急に甘ったるくなった。
全部飲み干すと、プラのふたのネジをひねる。

コトン、と玉がとりだせる。
ガラス玉のビー玉。

指でつまんでながめる。
お祭り屋台のライトに反射してきらめく。
そろそろ暗くなってきたか…

黒インキを空にこぼしたみたいに紫がかった黒が広がってきた。
反対の空はカニをゆでたような赤がまだ粘って押している。
境界は?
よくみわけられないが綺麗なグラディェションを奏でている。

坂の上まで上り歩く。
上まで来ると女の子はもう見えないが、男の子のきかないのが遊んでいる。

蚊取り線香が豚のいれものや吊るすタイプので燃えている。
煙をあげて深緑のぐるぐるが燃える。

上には神社か寺かが見える。
檀家さんも近所の人も祭りを楽しむのだろうか?

駐車スペースに車が二台止まってる。
大木がずっしりはえて、不動のものとあたりを占めていた。

おでんの屋台で若い女性が浴衣でおでんを頼んで喰っている。
やけに生真面目そうな顔で食べる。
ホフホフと格闘するかのようすだ。

おじさんは、おでんなんてそんな真面目に喰うほどのものでもないなと思った。

都会のサラリーマンだとレール下の屋台か?
あそこでチクワと大根とガンモを喰いすぎた。

缶ピー(缶ピース:比較的強いたばこ)を出されて、ふたを開け一本取りだす。
屋台の裏の真っ暗な路地で、100円ライターで火をつけ吸い込む。
煙草を吸うと酒の飲みすぎのむかつきが取れる。
夜風に当たり、戻って酒を口にすると反動が来る。

そんな景色が見えた。

寺が暗がりに見えるともなしに映るのを眺め引きかえす。

枝豆とビールが頼みたくなり、財布を開く。
焼き鳥は遠慮した。

木製のテーブルに広げ、ゆっくり飲みだす。
塩気がおいしい。
さっきのタコ焼きは消化されていた。

枝豆の素朴な味はくせになる。ビールとよく合う。
気がつくと腹がパンパンに膨れていた。

また来年も来よう。
そう、おじさんはおもった。









おしまい






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