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2013年7月15日月曜日

熱戦



熱戦








1


エカルテ


クラークがゴールドウィン王とスフィンクスで通話している。

「いや、故郷の地球っていう星でオレゴン州が地元でしたよ」
≪ホウホウ≫
「ルイス・アンド・クラーク大学というのがあります。ポートランドの街にはコインタワーがあって」
≪ほうほう≫

エドガーがやってきた。
「長電話ですかな」



2


アルセウスとポールがふたりで魔王にむかった。
音速カブトを全開にして、ジェットキック。

ポールは守りの態勢をとって身構えている。

ライトニングカッター!魔王の手のひらがカッとかがやいた。
アルセウスのジェットキックは成功した。
蹴りが、魔王の胴に直撃した。421だが、魔王はびくともしない。
ライトニングカッターが炸裂した。アルセウスとポールは光の刃に切りつけられ、さらには熱で焼かれた。

まぶしさがおさまったとき、ふたりは地面に倒れていた。
だが、かろうじて意識があった。
「う、傷が焼かれて乾燥している」ポールがうなる。
「血が出てない。がもう無理だ」アルセウスがボトルの水薬を飲む。

ヘラクレスがいった。「よしドリンクを飲んで回復しろ。あとは私が」

そのとき、うしろから巨大なア―クトゥルスがはいってきた。



3


「サービスだ」ア―クトゥルスがいう。熊にまたがりグラグラいいながら揺られている。

ヘラクレスがいう。
「口で注意しても、わかるもんじゃない。自分で痛い目を見てやっと反省するもんだ。だろう?ア―クトゥルス!?」
「罪を憎んで人を憎まず。アリスタンダーを憎んでア―クトゥルスを憎まず」そうクマの上の魔神はいった。

「反旗を翻すのか…」アリスタンダーはア―クトゥルスを睨みつけている。

青い雷雨

ガガガンンゴゴゴン

洞窟の中に黒くもが充満し、空の上ではなく、すぐそばで雷が炸裂している。

「少し狭いな」ア―クトゥルスは道具をいじってセーブしている。




4


バビロン

宴会が終わって、精霊の一人がメリーサにどうだったと訪ねた。
メリーサが答えた。
「もう少し男の人がこう…、お酒を飲むと快活になるものだと」

クピドーがいった。
「まだ、ここの宴なんかいい方だよ」
別の精霊がいう。
「宴会なんか株投資みたいだ。あるときはタダで楽しく酒が飲めるけど、反対に暴落したときの悲劇は普段の仕事の苦痛の何十倍も喰らう」
地面のギリギリすぐ上で羽をパタパタさせた精霊がいう。
「お互いがお互いに金を介さないで仕事をしあうみたいなものだよ。一歩間違うと、介護に重労働させられて、賃金もらえない悲劇が来るのさ」
「…」

クピドーがいった。
「自分のストレスを消化しきれない人がいると、不満の熱が周囲に蓄積していく」
「熱が」
「そう、熱だよ。そのまんじりともできない盛り上がらない宴会の不満の苦痛の圧力がいっきに襲いかかってダウンするんだ。その圧力は普段の暑苦しさの数十倍のダメージ。真の戦いだよ。吐くしかなくなるよ。僕たちもそんなくわしくないけど、転生したばかりでバカなことを考えない方がいい。ここをでて下界に降りたらもっとちゃんとした宴会をする人を見つければいいよ。それと、偉い人に不満を我慢させて吸収してもらうと確かに涼しい。でも負債とおなじであとでこき使われたとき断れないから要注意だ」
クピドーは真顔と冗談かおでそう脅して忠告した。



5


青い雷雨

洞窟内に雲のガスが充満して、火薬のように電流の火花が散る。

745

ヘラクレスがいった。
「どうやら、このメンバーで行くとこまで行かないとない。逃げ腰の腰の浮いた気持ちでいるとバラバラになる。死を覚悟するほどの覚悟のきいた精神が必要だ。最後まで貫き通すにはな」

アランも目が覚めていた。
腕の骨折は捻挫程度にやわらいでいた。水薬がきいている。

「ああ、腰ぬけだと、どんないい環境でも烏合の衆と化すんだ。いくさとは…」
「そうだ」


γ線

347

無音、無色透明の放射線が降り注ぐ。

「敵が複数いると強いが、一対一によわいぞ」ヘラクレスがア―クトゥルスにいった。

魔王のつるぎ 

ガリ 2347

ア―クトゥルスの細い鎧の胴体は鎧ごと避けて出血した。
胸を押さえている。

ドライアイスクロス

ア―クトゥルスの両手の道具からアイスの刃が同時に弐本クロスした。
さらに冷気の渦が雲をつくる。

ザシザシシ 4213

アリスタンダーの胴体に氷に切り傷ができる。

「フレイムボム」魔王の指先から火焔がこぼれる。
ガ・ガガガガガ 1048

ア―クトゥルスは炎に包まれた。
自分の魔力で鎮火している。

フと気がつくと、目の前に巨大な魔王の剣が襲ってきている。
ガシ

「ぐはああ!?」
ア―クトゥルスは致命的なダメージをおった。

「くそ、さらばだ!退却する」

ズズズズズと星座の蜃気楼のように後ろの次元のホールから消えていった。





6


クピドーがメリーサにいった。
「ここは下界の人からするとある種の天国だ。だけど退屈だろう?天国なんて若い女の子からすると味のない食べ物みたいなものだよ。“味のない食べ物は塩なしに食べられようか?”モウモウ」
「実は少し…」
メリーサは浮かない顔で雲の上を歩いている。

「魔王アリスタンダーのほうがかっこよかったりするんだよ。“我は魔王なり”って、砂漠にオアシスなんて幸せだけど、水だけの湖なんてうれしくもない。転生が完了して下界におりたら、普通の若者と恋しなよ。いきなり天国なんかにいるより悪くてかっこいい若者がいいんだろ」
別の精霊がいった。
「天使がそんなことそそのかしていいのか?クピドー!?アロン様に叱られるぞ」

「アロン様は三代目。僕の母は二代目のバビロンの主だった。人間は天使と違う。アロン様はどうか知らないけど僕はそう思う。悟りに至らないのに無理に聖人ぶっても…普通の若い人は普通に若い人がいいんだよ」
「そうかもしれないけど。退屈なバビロンか…」




7


地球―ギリシア

サブオリンピックの会場

控え室の近くの通路をエジオンから来たパーカーがあるいていた。
控室から、グラサンをかけてガムをくちゃくちゃ噛んでいる若者が出てきた。

「…委員会からしかられないか」パーカーは話しかけて見た。
「別に…」
「男はいずれ別れる時が来る。きみがエジオンにきてソルジャーになっても、いつかは出ていくだろう。地球に戻るか、もっと遠い宇宙に旅立つか」

選手の若者はキョトンとパーカーを見た。金メダル候補と評判が高かった。

「それじゃ、パーカーさん。一生エジオンで暮らすと決めてくれたんじゃないんですか」
「君の自由だ」
「そうか…なんだ」




8


ヘラクレスは正義の剣をぬいた。
「重い!なんだ、この剣は。これが正義の重さか。悪をさばき、法を定め、営みを管理する。善神の化身の私でさえこんなに重いのか」

魔王と対峙したヘラクレスはそういいながら構えた。

「おまえの弱点は体がでかく頑丈になったが、動きがのろくなった。スピードのなさだ」

ヘラクレスはオーラを正義の剣にのせて見た。
グルルルルルウウン

「マイケルクロス!!」
重く持ちなれない正義の剣で十字に切りつける。

8451

アランが起き上がっていった。
「おおお!さすがだ。俺たちと違う」

魔王は力を蓄積している。

「どうした!?アリスタンダー攻撃してこないのか」

善神の化身は善の闘気を高め、正義の剣に吸収させた。
「動かないなら行くぞ!」




9


バビロン

「塩抜きの食べ物か…ここはどこもかしこも薬くさい…」
メリーサは雲の上をひとり散歩した。
善人ぶってかしこまっていなくてはないため、ストレスがたまっていた。
「ここにはいいひとしかいない。けど、」
地上に戻ってワルと遊びたいそう思っていた。

そのとき上かキルケーが下りてきた。

「天界なんて退屈なんでしょう。あなたの欲しいものは社会に逆らう反抗的な若い男…国のいいなりにならない、ズル賢くて悪どい、逞しい骨の太い男」
「だれ?」
「自分が悟れないのに、天国にいたって意味がないわよ」

キルケーはその単調な剣をメリーサにむけた。

「かつてスキュラに飲ませた没薬」

メリーサはビンをもっていた。
なかは蝮酒のような、木の根のような生薬が茶色い液体に浸っている。
「いい男と遊びたければそのビンの中身を飲みなさい」

メリーサはビンの中身をみている。
「…」

「善人でなければ、お金持ちは維持できない。世の中そうなっているのよ。あなたには向かないわ」
そういって高笑いして消えていった。

メリーサはビンの中身をひとのみにした。
頭髪が蛇になり、奇怪な魔力が宿る。ひとみに力がついた。
かつてペルセウスが退治した蛇女メドューサ。
あの後釜のように、蛇女となってメリーサは下界のどこかに転落した。




10


春雨 3804

ヘラクレスは斜めになって技をくりだし離れる。

「おおっでた!春雨」アランが声援を送る。

ライトニングカッター

魔王の手のひらから光る刃がほとばしる。

ヘラクレスにぶつかって爆発した。「ぐあ」
しゃがみこんでいるポールにも直撃した。
ドアン!

「大丈夫かアルセウス!」ヘラクレスは魔王のスキをついて回転うちをはなった。1100

(ポールだ!)アルセウスは冷静に思った。(どうする!?魔王はまだ体力がある。反対にヘラクレスは脂汗をかいている。ガス失が近いかも。自分が動くか…)

アルセウスはとび上がると、ジェットキックを魔王のあごに打ち上げた。
「ハッ」

879

さらに、と思ったとき、鉄拳が目の前にあった。
「おぐ」

アルセウスのゴーグルはひび割れ、反対の壁に衝突する。
「あは」

気を失いがっくりと頭を下げた。
「アルセウス」アランが叫ぶ。
「まずい、私でも通用しないほど強くなったのか」
ヘラクレスは剣を地面に突き刺し、拳を魔王に繰り出した。
「フン」
巨大な魔王の鉄拳と人間にしては大きいヘラクレスの拳がぶつかる。
激しい撃ち合いだった。

お互いダメージが血の汗のように飛んでいく。

ニヤとどちらも笑った。同時にどちらも剣に手を伸ばす。
「はあー」
「グルルオオオ」

正義の剣 VS 魔王のつるぎ

巨大な剣をヘラクレスは正義の剣でうけとめる。

「おおっ…おお」アランは目を見張った。
次の瞬間正義の剣はアリスタンダーをとらえていた。

ザギュルウ 4571

魔王の血液がとびちる。
アランは空になった水薬のボトルに血を入れ栓をした。
「魔王の血液だ」

だが、魔王の剣も遅れてヘラクレスをとらえていた。

「がふ?」

「善神の化身のわが身でも勝てない…」


ヘラクレスは意識を失った。


気がつくと全員牢の中にいた。
洞窟の奥らしい。

スネークナイトがみはっている。




11


クピドーがメリーサのいないことに気がついた。
「女性版ファウストじゃないんだよ。まったく」

アロンの声が聞こえた。
≪さがさなくてよい。メリーサにとっては大きな試練となるだろう。大人たちなかに自分が子供でいたら、たいくつでおとなしくしていなくてはならず、もじもじしはじめるだろう。違うところからきている子供がいたら、一緒に外に出て遊びたくなる。それと同じだ≫

「そう、僕たちなんか『なんでそんなに緊張してるの?』ってきかれるけど、これが普通なんだよ。意識しているわけじゃない。僕らの中にいると緊張していなくてはない。楽しいどころじゃないんだよ」

≪子どもの愉しみと大人の愉しみは違う。高尚な趣味が必ずいいともいわないが、無理して人にあてがうものでもない≫

「大試練か、まるで戯曲みたいだよ」




12


ヘラクレスたちは牢の中で目を覚ました。
「う…ここは?」
「洞窟の奥だろう」アランがいった。
「…“荷物がある。とりあげられなかったのか」
アランが何か口にしながらいった。
「ああ、興味がないとか、どうでもいいとかだろうな」

アルセウス、ポールは気を失っていた。
後ろに噴水のように水がわき出ている。
大理石の花束がレリーフされ、泉のように湧いている。
「飲めるのか」ヘラクレスがきいた。
アランが答えた。
「リトマスカートリッジをつかってみたら飲料できると表示された。自分で作ったんじゃなかったのか、この洞窟は」
「いや、内部までは。奴がのちに自分で中を造ったんだろう」

「非常食を食べるか」
「兵糧丸か…」
そういって口に入れてかじった。
「剣もあるな」



13


カーターは惑星バルハルで海をこえていた。
「もうすぐ、ポートシプスの港だ」
空は晴れて明るく、いい日差しだ。

トプン、トプンと揺れる。かと思うとギッギギギギギと船がかしがり、マストのロープがきしむ。

海のすえた匂い。あらゆる残骸残留物が腐敗しこなれた、スポーツ清涼飲料水のように濾過された味がしないでもない海水。
雲に隠れる太陽の加減によると焼き肉のように焦げそうに暑い。

乗客はみなのんびりしてカタツムリのように動かない。
船員は仕事の態度を崩さないがなれているのか、ぼんやりもしている。

カーターは缶のビールを氷みずを浮かべたクーラーから買ってきた。
炭酸ジュースもスポーツドリンクも浮かんだり沈んだりしている。
カラフルな小旗が風に吹かれてバタバタいう。
「どうも、コイン三枚」
自分でクーラーボックスに手を突っ込んでだそうかと思っていると、むこうが手早くすくい取り、水滴が滴っている缶を手渡してきた。

浮き輪が等間隔に甲板にロープで結ばれている。
ときどき、船はグググと深く沈む。
海の中に潜るのかと思うと、持ち上げられるかのように浮かぶ。

「これでタオがつかえなければ船酔いしてたな」
カーターは横になりビールを開けた。

「イギリスのカンタベリーみたいだ」

風がいいから、ボイラーを焚かないでガスを節約しているという。
「どうせ、急がない旅だ」カーターは潮風にあたり、波しぶきがかすかにかぶってくるのを涼しく感じた。



ポートシプスの港に、すましている白鳥のように、帆をさげ、錨をおろしている船が港に何隻も浮かんでいるのが見えだしたのは、次の日の昼だった。

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