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2011年4月14日木曜日

ボウエン神父と吸血鬼の少女




ウエン神父鬼の少女



ボウエン神父は祈祷をすませ、

ロウソクの明かりを手のひらで煽いで消し、

寝室で休もうと腰をあげた。


そのとき、教会のドアをたたく音が聞こえ、

少女のささやくような声が聞こえた。

「ごめんなさいまし、神父様。

ドアを開けて、お入りといってくださらないかしら?」

「死霊が教会のなかにはいることができると?」

「一言ことわってくださいましたら、私も中に入れるの神父様。

お腹がすいて凍えそうで、

キリスト様も哀れに思ってくださると思いますけど」

「入りなさい。あなたが何を考えているかわからないが、

主はご存じのはずだ」

ボウエン神父は明かりをもういちど灯すと、ドアを開けた。

立っていたのは死霊と化した少女だった。

神父は姪っ子のマージョリーと同じ歳くらいだなと思った。

「見ての通り、ずっと何も食べてないの。

おながが空いて死にそうだわ。

村人の血を吸うのを許して下さいますようお願いに来たの」

「それは許可できない。ジャガイモのスープなら御馳走しよう」

「あら、私はもうジャガイモのスープは食べないわ。

お父様が生きていらしたころは白パンもスープも

誕生日にはバターを使ったケーキでも食べてたわ。

ときどき外国に船ででかけて、

その間私は親戚の家に置いておかれてたんだわ。

外国のおみやげに買ってきてくれたわ。

でも、ある時手紙が届いて外国でお父様が亡くなったと書いてあったの」

ボウエン神父は十字を切っていった。

「あなたは、さみしいのとわがままなのとで諍いをおこした……、

そしてあなたは死霊の吸血鬼になった…」

「遊び相手が遊んでくれないっていうから……ナイフで刺したわ…

神父様…あなたの姪っ子と同じ歳くらいの女の子…」

ボウエン神父は内心動揺した。姪のことから話をそらそうとあせった。

「主に祈りなさい。犯した罪を悔いて贖罪の心を…」

「血を吸わなくっちゃあいけないの……そうでないと凍えてしまうわ。

神父様なら理解できるはず…」

「それはできない…。あなたのために主に祈ろう…」

ボウエン神父は祈祷を始めた。ロウソクの灯がチラホラ揺れる。

吸血鬼の少女は無言でそれを聴いている。

口元は穏やかに閉じ、目は静かに見開き、

ソウソクの光線が揺らめいて映っている。

「マージョリーもお祈りに来るのかしら…信心深そうだったわ」

ボウエン神父の祈祷がぴたりと止まった。

正直いって神父は恐怖で凍りついた。

なぜ名前を知っているのか質問したくてしかたがなかった。

質問する代わりに神父はこういった。

「主は人間のわがままに付き合われるために磔刑に処せられたに非ず……

ひとびとに、人を愛す心を説かんがため、

ゆずる心を教えるためにそうなされた。

いきなさい。

あなたにはあとから願わんとするものが与えられるだろう。

アーメン」

吸血鬼の少女は和らいだ目をし、

口元に笑みを浮かべ、

祈祷の文句を述べ始めた。

「さようなら神父様。

お祈りをしてくれてありがとう。

わたしも主とともに、

アーメン…」

誰もいない教会に短くなったロウソクの明かりが揺らめき、

汗だくになったボウエン神父は突っ立っていた…。


おしまい