かぶき坊主
その三 「血も凍る刀、冷酒 前篇」
殿様「お主も悪よのう」
越後屋「上様こそ」
殿様「いやいや、お主こそ」
越後屋「いやいや、上様こそ」
サムライ「……と上様と越後屋が話していたでござる。
かぶき坊主殿、これは何やらよからぬ悪だくみの匂いがするでござる」
かぶき坊主「匂いがするどころじゃなくてそれそのものでしょ」
用心棒「なんでまた、わざわざサムライ殿の前でそんな話をするでござる?」
サムライ「さむらい言葉をマネするなでござる」
用心棒「拙者はサムライでも忍びでもなく用心棒でござる」
かぶき坊主「それで、なんでお侍さんの前でそんなやり取りをしたのさ?」
サムライ「上様が言うには、誰かが観ていないとやっても意味がないそうでござる。
いわゆる時代劇のお約束らしいでござるよ」
かぶき坊主「なるほど、間者も誰もいないとやってもむなしいよね」
サムライ「そこで、二人に密偵として、上様と越後屋を調べ上げてほしいのでござる」
用心棒「しかし、その会話だけで十分証拠になるのでは」
かぶき坊主「状況証拠にしかならないよ。ただのジョークだと言われたらお終いだ」
サムライ「それだけではなく二人に上様の愛刀『満月』を盗んできてほしいでござる」
かぶき坊主「やめたほうがいいよ。
お侍さんの愛刀『冷酒(ひやざけ)』はもう油がとれたんだろ」
サムライ「これからは二刀流の時代でござる」
つづく