1
「いらっしゃいませぇ」
アクセサリーショップに勤めるさやかは、元気に挨拶する。
愛総よく客に商品を説明し、パワーストーンや
アクセサリーを販売する。
後輩の面倒もよく見る。
店長からは頼りにされている。
「時間帯によってかけるCDを変えるべきだと思います。
高校生が来る下校時間には流行の音楽で、
仕事帰りの女性が来る時間帯はおしゃれで
疲労がなごむ音楽がいいと思います」
後輩のアルバイトがさやかに助けを求める。
「レジはこうこうこうやって、こう」
後輩アルバイトの評判は決して悪くはないが、
きつくはないがどこか浮いた人でとおっている。
2
さやかは実は学生時代、人と会話するのが苦手で、
周囲に溶け込めず、引っ込み思案だった。
いじめに会ったことはないけれど、
なんだか学校のクラスメイトも教師も不親切だと感じていた。
社会人になってからも、仕事の量の割に給料が少ないし、
いじめられることこそないが、周囲の人は不親切だと、
常に感じていた。
レストランやコンビニ店員など、接客業を何度か転職した。
口べた、だと思っていたさやかだったが、
経験を積むに従って、接客の腕はあがっていった。
仕事は評価されるようになっていった。
恋人もできた。
しかし、なんだか不親切で1年くらいで別れた。
いじめられるわけでもないさやかが、
不親切だと感じるわけはこうだった。
自分だけが不親切にされるのではなく、
不親切なのが当たり前の職場だらけだった。
そこで、自分が親切を始めたが、
今度はまわりから浮くようになって一年くらいで止めた。
3
めったに会ったことのない、アクセサリー・ショップの
オーナーが来てさやかを呼んだ。
さやかに自分の店を持てという。
そして小切手に金額を書き込んだ。
「そんな…こんなにたくさん!?いくらなんでも、
こんなにお金はもらえません」
さやかがこう言うと
「いや、いや、いいんだよ。君の店が成功したら、
それに見合う金額を返してもらう。いわゆる投資だ。
失敗したら、私の丸ぞんだ。
君にただでお金をあげるわけじゃないんだよ」
さやかは決心した。
さやかは接客に熱中した。
オーナーはどちらかと言えば親切だったが、誰も親切にしてくれない。
しかし、買い物に来てくれるお客さんは喜んでくれる。
どんどんさやかは接客に熱中していった…
30年後さやかのお店は歯ブラシから
ジャンボジェットまで売る「さやかデパート」として繁栄していた。
おしまい