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2010年10月21日木曜日

二層式洗濯機置き場の葉巻

二層式洗濯機置き場の葉巻
 




 
昭和40年代。

こ汚いコインランドリー。

夜中の2時過ぎ、40歳前くらいの営業マンが、中に入ると、

大学生が二層式洗濯機を回し、ソファでチャンピオンをめくっていました。

「おい、珍しいたばこが吸いたいって言ってたよな」

「あ、営業マンさん」

「ホイ」

「鉄のケースにはいったたばこですか ? あけていいですか。あっ、葉巻だ」

「ただの葉巻じゃなくてバニラの香りの葉巻」

マッチで火をつけ葉巻を吹かす大学生。

「バニラっていうより、大学図書館の古い本の匂いがする」

「古い紙の匂いもバニラも同じバニリンっていう物質の匂いなの」

「へーっ、そうなんだ」

「糞尿の匂いも薄まれば香水の香り。

ありがたいっていって、

薄まった糞尿の匂いをかいでるの。

なんとか化学で習った」

「え、経済学部出身じゃないんですか」

「もぐりの授業で」

「へーっ、いや、そのなんとか化学の授業にもぐりこんでみようかな」

「二人でふかすと煙いな」

「やっぱり葉巻は煙がすごいですね。

なんか葉巻をすうとコーヒーが飲みたくなるなぁ」

「ジャーン。缶コーヒー。初めて見たろ」

「え、コーヒーが缶詰に入ってるんですか」

「まあ、そんなもん」

「これって、栓抜きどうやってつかうんですか」

「バカ栓抜きいらずが売りなの」

キリッ

「おーっ!

「このふたのかけら、集めるとなんかもられるらしいから、

その辺に捨ててとけばだれかもってくだろ」

「ふーん」

「おっ、ほんとにコーヒーの味がする」

「いや、味じゃなくてコーヒーなの」

「葉巻もう一本ふかしていいですか」

そのときコインランドリーにだれか入ってきました。

「ちょっと、煙いよ、あんたたちだね、夜中に散らかして帰るやつら!!!

「俺らじゃないよ、おばちゃんー!!!!

「おばちゃんじゃないよ、ヤニが洗濯機について、

洗濯すると洗濯ものにヤニがつくんだよ!!!!

「いや、これたばこじゃありませんよ、

虫を殺す蚊取り線香の強力なやつですー」

「そうだよ、洗濯機壊れたの修理したりしてるし!!!

「そうかい」

「おばちゃんも朝早いでしょ早く帰らないと!!

「片付けて帰るんだよ!

「ふーっ、何の話だっけ?

「いや、その化学の講義受けてみますよ、経済学部だけど」

「経済は忘れたけど、そういうの覚えてる」


『恐怖の聖夜』

ラジオ恐怖小説  



1




「マリー、今年のクリスマスだが、

知り合いと友人の全員にパーティの招待状は本当に送ったのかね?」

「ええ、ちゃんと送ったわ。あなた」

「本当に皆来てくれるとうれしいのだが」

「だいじょうぶよ。あなた」

「なんだか不安になってきた」

ジョナサンは書斎で書きものをしていたが、

今年のクリスマスのことをふっと思い出した。

招待したはいいものの、ほとんど誰もパーティに来客が

いない場面を想像して身震いをした。



寒々とした、広いフロアにまばらな客。

会話にも不自由し、たちまち会話の相手がさっきと同じ相手。

盛り上がるも、盛り上がらないも、たびたび静かになる聖夜。

溜息さえ聞こえてきそうな沈黙と、わざとらしい会話の糸口。

一向に減らない御馳走と酒。

あとで豚のえさになるのかと思うと、

料理人の冷やかな冷笑が目に浮かぶ。

居心地の悪そうな客が言いづらそうに、早退のあいさつを述べる。

疑いも掛けずに「ああそうですか、それは大変ですね、

早く帰宅してあげなさい」

と自分でもなにをいっているのかわからない気まずさ。


ジョナサンは思わず寒気がした。

そして、家族の前で見栄を張って、

「クリスマス・パーティを盛大に!」

といった自分の愚かさ。



すべてを今更、後悔していた。





2







クリスマス・パーティには大勢の客が来て、

ジョナサンは腰が抜けそうなほど安心した。

そして妻にいった。

「マリー、大勢のお客さんが来てくれて本当に良かった」

マリーはいった。

「それはそうよ、あなた。これだけ張り込んだんですもの。

皆さん楽しみにしていらしたのよ」

ジョナサンが考え、催し物にとやとった

演奏家が聖夜の曲を奏でる。

さっきまで話声で騒々しかった、

フロアは静まり返って、皆聞き入っている。

演奏が終わった。



ジョナサンは一席ぶった。

「皆さん。聖夜にお越しいただいて誠にありがとうございます。

ほんの余興にと生演奏を披露させていただきました。

ではみなさんご自由におくつろぎ下さい」





3






しばらくして、ジョナサンは客が突っ立ったまま動かないのに気づいた。

会話もなく、フロアはシーンとしている。

「おい、マリー!これはどういうわけだ!?」

「どうしたのよあなた!?」

「客の様子に気がつかないのか」

ジョナサンが来客のほうを見て、すぐ妻のほうを向くと

妻もぴくりとも動かなくなっていた。

目を疑ったが、マリーが洋服を着たマネキンになっている。

「マリー!!?」



動かなくなった来客たちも皆ただのマネキン人形だった。

ジョナサンは叫んだ

「なんなんだこれは!?皆、喜んできてくれたと思ったら、

ただのマネキンじゃないか!!」

ジョナサンはマネキンを殴りつけ、人形を音をたてて倒れた。

「このマネキン人形め!!人を馬鹿にしゃがって!!」

ジョナサンは次々と人形を殴り倒した。

「こいつも!こいつも!こいつもただの人形だ!

人間はどこにいる!?どいつもこいつも人をコケにしゃがる!!」

ジョナサンは二階の休憩室のドアを開けた。

そこには、まったく使われた気配のないグラスとテーブル。

乱れていない革張りのソファ。

小型のクリスマス・ツリーがあった。

「畜生!俺を嘲笑って、そんなに楽しいのか」

ジョナサンはピストルを抜くととこめかみにあてて発砲した。









4







「今の何の音!?」マリーが叫んだ!

来客も騒ぎ出した。

「銃声だ!」

二階の休憩室に人が集まると、

血を流して倒れているジョナサンがいた。

ざわめきがおおきくなり、

そのなかのいくつかの会話が呆然としているマリーの耳に入ってきた。

「ピストル自殺だ!なにもこんな聖夜に…」

「だから来たくなかったんだ。本当は別の屋敷からも誘いが来ていた!」

「最近様子がおかしいと思えば」

「まったく!不愉快な!わざわざ我々をよぶな」

「まあ…どうしましょう。一年に一度のクリスマスが…」

「ジョナサンのとんだクリスマス・パーティだ」




おし