二層式洗濯機置き場の葉巻
昭和40年代。
こ汚いコインランドリー。
夜中の2時過ぎ、40歳前くらいの営業マンが、中に入ると、
大学生が二層式洗濯機を回し、ソファでチャンピオンをめくっていました。
「おい、珍しいたばこが吸いたいって言ってたよな」
「あ、営業マンさん」
「ホイ」
「鉄のケースにはいったたばこですか ? あけていいですか。あっ、葉巻だ」
「ただの葉巻じゃなくてバニラの香りの葉巻」
マッチで火をつけ葉巻を吹かす大学生。
「バニラっていうより、大学図書館の古い本の匂いがする」
「古い紙の匂いもバニラも同じバニリンっていう物質の匂いなの」
「へーっ、そうなんだ」
「糞尿の匂いも薄まれば香水の香り。
ありがたいっていって、
薄まった糞尿の匂いをかいでるの。
なんとか化学で習った」
「え、経済学部出身じゃないんですか」
「もぐりの授業で」
「へーっ、いや、そのなんとか化学の授業にもぐりこんでみようかな」
「二人でふかすと煙いな」
「やっぱり葉巻は煙がすごいですね。
なんか葉巻をすうとコーヒーが飲みたくなるなぁ」
「ジャーン。缶コーヒー。初めて見たろ」
「え、コーヒーが缶詰に入ってるんですか」
「まあ、そんなもん」
「これって、栓抜きどうやってつかうんですか」
「バカ栓抜きいらずが売りなの」
キリッ
「おーっ!」
「このふたのかけら、集めるとなんかもられるらしいから、
その辺に捨ててとけばだれかもってくだろ」
「ふーん」
「おっ、ほんとにコーヒーの味がする」
「いや、味じゃなくてコーヒーなの」
「葉巻もう一本ふかしていいですか」
そのときコインランドリーにだれか入ってきました。
「ちょっと、煙いよ、あんたたちだね、夜中に散らかして帰るやつら!!!」
「俺らじゃないよ、おばちゃんー!!!!」
「おばちゃんじゃないよ、ヤニが洗濯機について、
洗濯すると洗濯ものにヤニがつくんだよ!!!!」
「いや、これたばこじゃありませんよ、
虫を殺す蚊取り線香の強力なやつですー」
「そうだよ、洗濯機壊れたの修理したりしてるし!!!」
「そうかい」
「おばちゃんも朝早いでしょ早く帰らないと!!」
「片付けて帰るんだよ!」
「ふーっ、何の話だっけ?」
「いや、その化学の講義受けてみますよ、経済学部だけど」
「経済は忘れたけど、そういうの覚えてる」