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2010年10月20日水曜日

二層式洗濯機置き場の謎

二層式洗濯機置き場の謎


昭和40年代。

しなびたコインランドリー。

瓶ビールで乾杯する二人。

「いや、ここでくつろげるのもあと少しかもな」

「本当に建て替えちゃうのかなあ」

「おまえ、奇妙なことに気がつかないか?

「なんですか?

「おまえ灰皿一度でも捨てたことあるか。

今だって飲んだ空の瓶だれが後始末するんだよ」

「いや、一度もやったことがありませんねぇ。

昼間のお客さんがやっているんじゃないんですか」

「おまえそこの張り紙みてみろ」

「うわわゎゎゎわゎわあああ」

「汚すばかりで掃除しない人。お前だよ」

「クジラの缶詰がまずくなりますよ」

「つまり、一番気兼ねなく汚す人が一番くつろげるんだよ」

「でも、ちゃんとお金はらっちゃってますよ」

「まあな。でもこれから清掃員が入るんだよ。

常に片付いているとゴミ散らかせねぇんだよ。たばこの灰も落とせない」

「気づまりですよそんなの」

「バカ誰も片づけないとこんな汚さじゃないの。ホントに人も暮らせない」

「暮してませんよ」

「新しい開拓地を探せよ。大学の空き部屋とか」

二層式洗濯機置き場のブロック崩し

二層式洗濯機置き場のブロック崩し





大学生が夜中の2時に洗濯にしなびたコインランドリーに来ると。

「よう」

「ブロック崩しじゃないですかー!! 誰ですかこんなの設置したのは」

「俺じゃねえ。ポストの金、全部なくなってた」

「いやー、新品ですよこれ、でもコイン入れないと動かないですよこれ」

「昼間さりげなく通りかかったら、

100円玉握りしめた小学生がゲームしに来てた。

さりげない営業だから通りかかるの」

100円くらいならありますよ。次やらせて下さい」

「いやでもさあ、これで自動販売機やら、全自動洗濯機やら、

TVやら、クーラーやら、こたつやら、冷蔵庫までそろって、

家具も建物も最新になって、

豪華コインランドリーになったら俺らくつろげないよな。」

「それはそうですね。汚せないから気兼ねしちゃうもんな」

「おまえ、今、元々ここが汚いから、

もっと汚していいっておもっただろ」

「違いますよー。むさくるしいから寛げるんです」

「カーテンで鼻かんでもいいってな」

「だから違います」

「いや実はここ建て直すらしいんだよ」

「あーそうなんだ。でも、ここのオーナーって誰なんでしょうね」

「ポストの貯金箱から売り上げとるどころか

大金いれていってるらしいぞ。そのかわり、今は試運転なんだよ」

「そうか、お試し期間か。なんでもそうだよな」

二層式洗濯機置き場の朝方

二層式洗濯機置き場の朝方


昭和40年代。

しなびたコインランドリー。

二層式洗濯機が並び、マッチやチャンピオンが散乱したテーブル。

棚の上の缶ピース。

いつもの場所にあるポストの貯金箱。

古臭い、汚れたソファに横になるいつもの大学生。

「おい、起きろ家帰って寝ろ」

「もう、起こさないでください。

4時前にはアパートに帰って寝て、洗面して学校に行きます。

今、眠いんです」

「おまえ、学校かバイトでなんかあったのか」

「なにもありませんよ。ちょっと頑張りすぎたんです」

「なにもあるわけないよな。学生だもんな。ダメだよ起きないよ」


ポタ、ポタ…

「もう、誰ですか水道の蛇口が緩んでますよ」

むっくりおきあがる大学生。蛇口を力いっぱい閉める。

キリッ

「おい、いまキリッて破滅的な音がしたぞ。

少しでも寝ないと明日に際触るから帰るけど、

いたいけな女の子が本当の深夜ここにきて、おまえ起こされるぞ」

消えることのない円形の蛍光灯がぶーんと唸り声をあげる。

だえも使っていないのに洗濯機は小さく振動している。

「うーん。昭和の振動音だ。

いつかはハードディスクの駆動音も懐かしむのか…」

丑三つ時をすぎると大学生は急に目がさえた。

「いや、うとうとしすぎたからか急に目がさえたなぁ」

ガラッ

「わーっ!!ダメだよこんな夜中に女子高校生がー!!

「いや、早朝のペーパーガールです。朝刊250円になります」


「やー、みんなの貯金箱から勝手に払っていいのかな」

「まいど」

「いやー新聞って高校の時いらいだよな。あっチラシもはいってる」

二層式洗濯機置き場の長い夜

二層式洗濯機置き場の長い夜







昭和40年代。

12時すぎ。

「うわ、おまえやめろ。こんなところで勉強なんかすんな」

40手前の営業マンがコインランドリーの戸を

あけて中に入るなり言いました。

「まる一日も寝込んじゃってレポートの期限が危ないんですよう」

「おまえ、あれ救急車呼ばれてきたとき、

気がついたら血なんか一滴もでてなかったぞ。

あれだよ、あの女、中国の気功法とか使えるんだよ」

「それはそうですけどね、レポートがね」

「おまえ学科なに?なんなの?

「普通に経済学部ですけどね」

「勉強して意味わかるの?

「アダム・スミスの国富論を読んだら、

これはいけると思ったんですよ。

だけど、ケインズなんか読んだらいみ不明の数式まで出てくるんですよね」

「経済とかよくわかんないけど、

数式で計算して予想とか本当にできるの 

いや、俺も経済学部出身だけど、古いやつしか習ってないんだよ。

俺これでも40過ぎなんだよ」

ブー

「タイマーが切れるブザー音。なんか安らぐよな。

なんか昭和の香りがする」

「貧乏学生は貧乏洗濯する暇なしなんです」

「おまえ、たばこふかしすぎ、ここの缶ピー、みんなの物なの」

「いや、エリマキトカゲとかはやると思うんですよ。

生物学科の爬虫類学の講義で知ったんですけどね」

「経済じゃないの。

パチンコで勝ったから、たばこおすそわけ、缶に詰めといて。峰3箱」

「いや、もぐりで授業うけたんですよ。

あれは受けますよ。傘みたいなのが開くんですよ」

「エリマキってんだからエリマキだろ。エリマキトカゲ」

「昔のゴジラに出てきそうなんですよ。巨大化したら」

「それより、おまえさ、いくら忙しくても、

たまにはここの掃除しろよ。俺なんかお前がいないときいつもやってるよ。

モップとか雑巾とか置いてあるだろ。無人なんだからさぁ。

セルフサービスの食堂とかたぶんこの時代から普及したんだよ。

よく知らないけど」「今夜こそ何もおきませんよね」


「レポートがヤバいんだろ。力士が洗濯に来るとか?就寝時間厳守だよな」

「峰ってなんか喉がかわきますよ。ほかのたばこでも同じですけど」

「ジャーン。フルーツ牛乳。飲めよ。まじめな学生さんに特別サービス」

「ホントですか。ありがとうございます!!

「いや、逆に何もおきないとかえって緊張するな」

バチッ! バチッ!

「ハイハイ、起こりましたよ。

プラグのコードが古くなってむき出しだよ。

危ないよこれ。お前、ドライバーとカッターもってる」

「携帯用ですけどありますよ。直せるんですか?

「お兄さんにまかせなさい」

「焦げ臭いですよ」

「ヤバいはこれ、コードがむき出しとかのレベルじゃないよ。

モーターのエナメルがとれてんじゃないの。爆発するよこれ」

ジジジジジッジジジイ

「うぁわぁわああわあわわああああぁぁあ」

「伏せろ!!!!

ボカン!!!!

次の日の朝、二人は煙の中から無事救助されました。

レポートはどうなったのかまではわかりません。